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うずめび
2026-01-06 20:33:09
2566文字
Public
岳博
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祝い事に願い事(岳博)
岳博で祝い事と願い事の話。
新年すっかりあけてました。昨年は大変お世話になり、ありがとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年から仕事で岳さんの誕生日に間に合わなかったのですが、もったいない精神であげておきます。いつもどおりゆるふわな単文です。
祝い事に願い事
夜明けというには未だ太陽が微睡み、陽光が部屋を照らさない冬の早朝。とろとろと溶けていた意識がゆっくりと輪郭をかたどり浮上する。
何をしていたんだったかとベッドに横になりながらぼんやりと考えつつ、近くにあるあたたかな物に体を寄せれば穏やかでありながらも確かに力強い音が触れた場所から伝わった。
とくりとくりと鳴る律動に身を委ねながら、ドクターは昨夜の事を思い出す。年越し直前まで会議と書類の決裁を行い、どうにか年内におえなければいけない仕事を片付けて。疲れたと深夜、自室に向かう途中で通路の角から手を引かれたかと思えば、そのまま抱き上げられたのだったか。
状況も理解できないままに身を固くして、けれども優しい声にすぐにそれはほどけていった。何しろ愛しいひとの腕の中だったので。
「斯様な時でも貴公の責務は相も変わらずといったところだな、ドクター」
「
…
重岳?どうしたんだ、こんな時間に」
いつもなら朝練に備えて寝ている時間だろうと言いかけて、そういえばと思い返した。今日は今年最後の日だからと有志のオペレーターたちで飲み会を開いており、重岳も参加していたはずだ。日付も変わる頃であれば宴もたけなわとして抜けてきたのだろう。そんな一連の思考を顔を見て察したのか重岳が微笑んだ。
「随分と賑やかな席で私も楽しませてもらった。玉門ではやれ戦勝の宴だと、昇進祝いだと事あるごとに席を設けたものだが、ロドスの宴も良いものだな」
「君が楽しんでくれたのなら私も嬉しいな」
きっと社交的なこのひとのことだから、エリートオペレーターから行動予備隊まで様々な人に囲まれていたことが容易に想像がつく。
仕事ゆえに参加できず見ることができなかった光景に思いをはせつつも、そもそもの疑問を重岳に向けた。
「それで君が飲み会帰りなのはわかったけれど、どうして私を運んでいるのか聞いても?」
つい流れで身を任せてしまったが、なぜ運ばれているのか、そしてどこに運ばれているのか何一つドクターにはわからないままだ。年内の仕事を終えるために少しばかり無理はしたが、年末で多忙を極めている医務室の世話になるほどではないと思いたい。
ドクターの自室とは別の方向に向かうひとの顔を見れば、そこにはいたずらっぽい瞬きを宿す瞳。
「時にドクター、祝い事の主役には多少のわがままが許されるというのは人の間では広く知られた慣習だと思うのだが」
「確かにそうだね。お祝い事の中心の人には快くすごして欲しいから」
重岳の言葉に意図がわからないながらも頷く。確かに祝い事の主役である人なら、その日ばかりは少しばかりのわがままは許されてしかるべきだろう。ーーーはて、祝い事。何か大事な事を忘れているような。
「祝い事。確かに今日は年の瀬で、あと数分もすれば新年だから祝い事だけれど。うん?新年?」
確かに新年は一般的に祝い事にあたるが、このひとにとっては殊更特別な意味を持つ日だったはずだ。形式上とはいえロドスに出された履歴書にはっきり書かれた日付を今更になって思い出す。1月1日それは。
「君の誕生日か!」
慌てて手にしていた端末をみればちょうど日付がかわった頃合いで。呆然と何も準備をしていないと漏らしたドクターに重岳がゆるりと頭を撫でる。宥めるような手付きは穏やかで優しい。
「なに、この数日と言わずとも貴公が多忙を極めていた事は理解しているとも。それに贈り物はもう貰っているから、気にやむことはないさ」
「ええと、何か君にあげられていたかな」
ここ最近あげたものなど年末と新年の休暇ぐらいだろう、というドクターの声に重岳はあまやかに微笑んだ。
「私にとってはまさにそれこそが贈り物だ、ドクター。貴公も新年から休みに入るのだろう?ならば誕生日ばかりは私と共にすごしてくれないか」
主役には多少のわがままが許されるのだろう?言葉とともに淡い口づけを落とされてしまえばドクターに否はない。元より、仕事ばかりで傍にいれなかった愛しいひとと過ごしたいのは一緒だったから。
「ーーーあなたとなら喜んで」
そうして「重岳のわがまま」として彼の部屋に連れていかれ、風呂に入れられた後に優しく寝かしつけられて今にいたる。
てっきり私に触れるかと思っていたとベッドに共に入る最中に率直に聞けば、仕方がないなと言いたげに微笑まれてしまった。曰く。
ーーー確かに貴公に触れるのはやぶさかではないが。まずは目元のこれがなくなってからだな。
残業と徹夜続きで刻まれた隈を撫でられ、そのまま優しく抱きとめられて。幼子をあやすように背を撫でられてしまえば、体温も相まって眠りにつくのはあっという間だった。夢を見ないほどに深い眠りは随分と久しく、穏やかな目覚めもまた同じだっただろう。
心地よさに二度寝をしてしまいそうな意識を振り払うためにまばたきをしてから、ドクターはそっと重岳の頬に手を伸ばす。人の気配に敏い人の事だから胸元に寄り添った時点で起きているはずだ。
「重岳」
「うん?どうしたドクター」
思ったとおり起きていたひとにドクターは笑って添えた手で顔を引き寄せる。触れるだけの口づけとともに贈るのは昨夜言い忘れてしまっていた言葉。
「ーーー誕生日おめでとう。そして今年もよろしくね、重岳」
誕生日の準備も新年のお祝いもさっぱりできていないけれど、贈る言葉に込めた思いだけでも伝わってくれたなら。
「ーーーああ。私とて同じだ、ドクター」
嬉しそうに抱きすくめる重岳にドクターも背に腕を回す。ーーー二人で部屋に朝日が差し込むまで寄り添ったら一緒に朝ご飯を食べよう。昼前には部屋を出たらみんなにあいさつ回りをして。夕方にはユーとシュウが新年のご飯を作ってくれると以前から約束していたから、重岳の家族と一緒に団欒を囲むのだ。それはかけがえのない時間になるのだろう。だからこそドクターは願うのだ。
「ーーーあなたと一緒に素敵な時間をたくさんすごせたら嬉しいな」
今年も来年もその先も。どうかあなたと一緒にすごせますように。愛しいひとと歩む新年に向ける言葉は祈りの言葉なのだ。
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