みがきにしん
2026-01-06 00:27:55
3051文字
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アルカディアは今日も大忙し

レイド後のアルカディアってどんな感じかなあ+纏め狩りって端から見るとやばくないか?というお話です。
メテムとタイラントがちょっと出てきます。
生身の挑戦者・生身の統一王者(ヒカセン)の姿については描写していません。

 メテムは頭を抱えていた。
――スポンサー企業による、生身の統一王者を試合に出せという要求が止まない。
 アルカディアだって何も独立会計で、全て自前で金を出して興行をやっているわけではない。応援してくれる多くのスポンサー企業に支えられて成り立っている。だから商業的な目線で言えば、可能な限り出資してくれる相手はいたほうが運営が楽になるし、そのためにも様々な要求に応えてきた(スポンサー企業の名前を冠した試合を組んだり、対戦カードの内容やリングの装飾を変更したり、配信時には必ず企業名を映り込ませるといった配慮であったりそういった試合に関する融通はもちろん、各闘士たちも気を遣える場合は気を遣ってくれている)。
 しかし、である。それら全てを呑むわけには当然いかないというのが運営側にとって非常に悩ましいところで、そんな風に言いなりになっていたら闘士による興行第一のアルカディアは成り立たない。そう、たとえアルカディアが新生した直後で、まだまだ興行の方向性が不安定であっても、だ。
「どうすればいいんだ……
 そりゃあ企業側としては、生身の統一王者には出てほしいだろう。その人が出る試合のチケットならば完売は必至だし、配信でも再生回数は跳ね上がる。そうなれば企業名はより多くの人の目にとまるわけで、スポンサー側からすれば得しかない。
 しかし生身の統一王者ときたら、別にアルカディア所属の闘士でもないし、だから今日この時、どこにいて何をしているのかさえ分からない。その人が協力してくれるとしても、どうやって対戦カードを組めばいい? 闘士たちの誰もその人には敵わないというのに。
「あああ……
 オーナーが居た頃は、こういった交渉ごとは全てオーナー自身が行っていた。やり手実業家でもあったその人の手腕は凄まじく、メテムは現場にいて何一つ困ったことはない。が、これからはその人がおらずともなんとかせねばならないのだ。今やメテムがこのアルカディアの責任者なのだから。
 ぐぬぬぬと頭を抱えていると、折良くザ・タイラントがやってきた。闘士の中でも随一に真面目な彼は、鍛錬のため生身の駆除人をやりながらも、今はアルカディアの運営も手伝ってくれている。彼らを引っ張るべき大人としての力不足を感じながらもメテムが相談すると、少し考えた後、悔しげに『……試合でないのならよいのでは?』と言った。

『統一王者は今や旅の身の上で、闘士との試合自体難しい。ただそれでは満足できないでしょう。代わりに、その人と機械兵が闘う特別映像を作成しました。これは配信専用ですが、注目されること間違いなし! スポンサー企業の皆様には先行して公開します。ぜひご覧ください』
 ある日、そう書かれたメールがアルカディアに出資する各企業に届いた。添付されていたのはさほど長くもない動画だ。担当者たちは――特に生身の統一王者を試合に出せとせっついていた企業の社員は――少しがっかりしながらもその動画を開いた。何せ一番求めていたものは試合だ。短い動画は閲覧もされやすいが、飽きられるのもまた早い。そんなものに企業名を出したところでと思ったのだ。
 映った画面は暗い。というよりも、キープ内ではないのだ。周囲には崩れた家屋、遠景には雷雲。涸れた運河の傍には所在なさそうな生身の統一王者が立ち、撮影機材に向かって軽く手を振る。どうやらその人がいるのは、ヤースラニ荒野の端、旧アレクサンドリア城下町付近らしい。
 担当者たちは面食らった。あの場所は壊れた機械兵と兵器、魔物が高密度で徘徊する危険地域だ。人の管理するいずれの場所からも遠く、駆除人でも中々近づかないそこに、たった一人でなぜ居るのか。
「今日はええと、ここら辺の危険な兵器や魔物をまとめて駆除していくのを撮影するということで
 担当者たちの目は点になった。『危険な兵器や魔物を』『まとめて駆除していく?』耳に届いたはずなのに言葉の意味がよく飲み込めず、ただまじまじと画面を見つめてしまう。が、理解しきる前に映る生身の統一王者は、『じゃあ』と一言だけ述べて武器を構え、そして一切の躊躇いもなく走り出した。
 撮影機材が映すのは周辺にたむろする機械兵だ。3、4体いるそこのど真ん中、統一王者は走り込み、そして武器を振りかぶる。瞬間的に反応した機械兵たちが手にビームサーベルや銃を構えるが、その前にその人の攻撃が着弾、複数いた機械兵がまとめて吹き飛んだ。
 が、それだけでは終わらない。統一王者は立ち止まらず、そのまま隣の通路にいた機械兵の一団に突っ込んでいく。派手に壊れて動かなくなる機械兵たち。だが全ての敵は仕留めきれず、複数の敵が剣やら銃やらで攻撃を仕掛けてくる。
 流石に危ないのでは?! と見守る担当者たちはさらに唖然とした。驚くことに、統一王者は全ての攻撃をまともに受けても全く動じず――更に言えば、別に出血や主だった怪我などもなく――なんなら、光学兵器であるはずのビームなどをなぜかさらりと避けて――そのまま、またも隣の通路に走り込んだのだ。複数体の敵を連れたまま。
 当然、その人の抱える敵の群れは一時膨れ上がる。が、すぐにまた攻撃を行うので、新たに突っ込む群れの分だけ敵が倒れる。その隣の通路、その隣の広間、その隣の運河跡、統一王者が走る軌跡を追うように、敵だったものが無残に転がっていく。機械兵、壊れた兵器、魔物、いずれも例外はなく、また当人はそれを一瞥することもない。
「ええ………?」
 もはや担当者たちは半笑いになるしかなかった。端末には立ち止まらない統一王者を必死に追いかけるような動画が引き続き映し出されているが、起こっていることが信じられず、口元が変に引きつるしかない。というか、それ以外何ができるというのか。
 しばらく走った後、統一王者は立ち止まった。そこは旧市街の端のようだった。それ以上向こうは全てが水没しており、道もなければ土地もない。周囲はがらんとしていた。当然だ、全て――本当に出会った敵全て――を倒してそこまで来たのだから。
 その人はぽり、と頬を掻いた。その身体には当たり前のようにさしたる怪我はなく、強いて言えば走っている間についたのだろう、泥や埃だけだ。あれだけの機械兵や兵器や魔物を相手にしておいて、だ。
 言うまでもなく、機械兵は一般人では敵わない。兵器も魔物も同じだ。闘士たちや駆除人ならば倒せるが、それも相手が少数であればだろう。それらをまとめて殲滅して、さらにまだ余裕さえある。レギュレーターもなく、魔物の力も使わずに!
 担当者たちが脱力していると、最後に当人がぺこりと頭を下げて、統一王者の出る動画は終わった。
 担当者たちが急に終わった映像にぽかんとしていると、動画には代わりにメテムが現れる。
『こういう訳ですので今はまだ、統一王者を試合に出すわけにはいかないのです。かの人にはかの人に相応しい闘いがあるというわけです。その闘いが用意できたとき、また最高の試合をセッティングいたします。どうぞその日まで、アルカディアをよろしくお願い致します』

 アルカディアへの要求はぴたりと止み、その動画は複数のスポンサー企業の名前入りで限定公開された。動画の再生回数は素晴らしく、メテムは胸をなで下ろし、ザ・タイラントは少し渋い顔でその映像を見つめていた。いつか必ず、あそこまで行きたいものだと強く思っていたので。