フリンズさんが武器の手入れをする話


――おかえりなさい、と言おうとして……言えなかった。

 今夜も夜警に出かけたフリンズ。「何もなければ早く帰る予定です」と言われたので、素直に夜明かしの墓で待つことにした。しかし、予定していた時間を過ぎても戻らない彼に、私は少し落ち着かなくなってしまったので、外にあるベンチで待つことにした。フリンズのことは無事帰ってくるであろうと信頼はしている、けれども怪我をしてしまわないかなどは、毎回欠かさず心配してしまうのだ。
 そして今夜帰宅した彼は、何と言うか……すこし荒んでいた。

――あぁ、いらしてたんでしたね。お待たせしてすみません」
「ううん、私は平気……だけど――
 貴方は平気なの?と、聞いていいのか悩んでしまった。言い淀んだ内容については、すでにフリンズにはバレているのであろう。小さなため息を吐いて、少し疲れた顔をしながらも私の方を見てくれた。
「今夜のワイルドハントは厄介だったので、少々疲れました。すみませんが、武器の手入れを先にしても良いでしょうか」
「勿論いいよ。……見ていてもいい?」
「構いませんが、面白いものではないですよ。それと、今は少し気が立っているので離れて頂いた方が――
「ううん、平気よ」
……そうですか。では、貴女のお好きなように」
 なんとなく今の彼を一人にしてはいけない気がして、何か近くに居ていい理由を探していたので都合が良かった。ベンチに座る位置を変えるために端に移動し、彼には隣に座るように促す。フリンズは何も言わなかったけれど、隣に腰掛けてくれた。

 彼は自身の背丈以上ある槍を取り出し、机に立て掛ける。用意した綺麗な布で汚れなどを拭き取っていくようだ。私は邪魔にならないように、静かに見守るだけにする。
 作業しながらの沈黙を先に破ったのは、フリンズだった。
――僕は、この長柄武器を好んで使っています」
「うん」
「この武器は広範囲を攻撃できる上に小回りも効くので、戦場での立ち回りを優位にできると思っているのです」
「戦いの後に、このように武器の手入れをすることで、自身の冷静さを取り戻しながら休憩をすることができ、また次の戦場へ向かうことができます」
  ポツポツと話してくれる彼の言葉を聞き逃さないように、私は相槌を打つか頷くことで聞き役に徹する。

「さて、――貴女には気を使わせてしまいましたね。もう大丈夫ですよ」
 そう言って、フリンズは手入れを終えた武器をしまって、私の方に向き直ってくれた。きゅっと結ばれていた口角を緩め、控えめながら笑いかけてくれて、彼の纒う空気が和らいだことが分かる。もう大丈夫、いつものフリンズだ。
「ねぇ、貴方に触ってもいい?」
……どうぞ」
 許可が貰えたことを確認し、私は少し立ち上がる。まだ座っている彼よりも目線が高くなった時しか出来ない、彼の頭を優しく抱きしめた。
「私は、どんなフリンズでも拒絶なんてしないから、ね」
 それだけ伝えて、まるで子供をあやすように、背中をトントンと優しく叩く。するとフリンズは、まるで呆れた様子で、私の腕の中で小さなため息を一つ吐いた。
「そんなことを言われたのは、貴女が初めてですよ」
 今度は彼の手が私の背中に回り、私の名前を呼びながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「こんな僕を惑わしたこと……ゆめゆめお忘れなきよう、後悔しないでくださいね」
「ふふっ、望むところよ」

「フリンズ、」
「はい」
「おかえりなさい。今日も無事に帰ってきてくれて嬉しい」
「えぇ、僕も貴女の元に帰ることができて何よりです」
 彼の頭を優しく撫でると気持ちよさそうにしていたので、しばらくそのまま撫でてあげることにした。

 
 
『貴女が居るところが、僕の帰る場所となりました』