萌音
2026-01-05 21:11:24
1626文字
Public
 

恋のキューピッドはロマリタイムフラワー

両片想い中のリオヌヴィとシグ(公爵は出ていません)
自家通販のboostの御礼として付けさせていただいていた小噺です。2025年5月発行の「愛を込めて花束を」の内容に関連するお話ですが、読んでいなくとも楽しんでいただけるかと思います。
シグをはじめ、メリュ達が二人のキューピッド役を担っていると良いな。

「ロマリタイムフラワーの加工方法を教えて欲しい?ヌヴィレットさんったら、やっと美容に興味を持ってくれるようになったのね!」
思い掛けないヌヴィレットの言葉に、シグウィンは嬉々とした声を上げた。
「ロマリタイムフラワーなら、やっぱり乳液が一番なのよ。元々綺麗なヌヴィレットさんが、ますます綺麗になるわ」
「いや、そうではないのだ……
興奮のままに話し出すシグウィンに、ヌヴィレットはたじたじと言った様子で答えた。
「何か、花をそのまま保存できるような方法はないだろうか?」
「お花をそのまま?」
「実は先日、ある人物からロマリタイムフラワーを貰ったのだが……
「あらあら!ヌヴィレットさんは、それがとっても嬉しかったのね!」
そう言われ、ヌヴィレットは頬をレインボーローズのように薄いピンクに染める。ヌヴィレットはシグウィンの言葉に明確な返答はしなかったが、それは肯定の意であった。
ヌヴィレットの言う〝ある人物〟が誰なのか、彼女には見当がついていた。
シグウィンはつい先日、昔から弟のように可愛がっており、今は同僚でもあるメロピデ要塞の管理者が、沢山のロマリタイムフラワーを持って帰って来たときのことを思い出した。確かあの日はヌヴィレットも共に行動していたと聞いている。
「せっかく貰った物故このまま枯らしてしまうには忍びないのだが、とはいえ何かに加工して消耗してしまうのではどうにも味気なく……
「うんうん。大切な人から貰ったものだものね、わかるわ」
大切な人、というシグウィンの言葉にヌヴィレットの頬は更に染まる。
ヌヴィレットの想い人。それはロマリタイムフラワーを共に摘み、その一輪をヌヴィレットに贈った人物ーーつまり、そういうことである。
ヌヴィレットの想い人について、シグウィンは以前から相談を受けていた。そしてヌヴィレットとその想い人が、実は互いに想い合っているにも関わらずそれを知らず、まだ想いを告げ合っていないということも、シグウィンは把握していた。
ヌヴィレットさんのこんなに可愛らしいお顔をあの子はまだ見られないのね、残念だわ、とシグウィンは思う。
「そうね。お花をなるべくそのままとなると……
ドライフラワーという案が真っ先に思い浮かぶが、同時にそんなことを言えばヌヴィレットがどんな表情になるかを想像し、シグウィンは自重した。水気を失った花を見れば、きっとしばらくフォンテーヌ廷は雨天に見舞われるだろう。そもそもロマリタイムフラワーは水分が多く、ドライフラワーには不向きだ。同じ理由で押し花も適さないだろう。
うーん、と唸りながら、シグウィンははたと思い付く。
「そうだわ!プリザーブドフラワーにしましょう」
「プリザーブドフラワー?」
「お花を特別な薬品に漬けるの。色は少し加工したものになるけれど、お花の質感を保てるのよ!半永久的とは言えないけれど、ずっと長持ちするわ」
「シグウィンが言うのだから、きっとそれが良いのだろう」
優しく真摯な愛娘の案に、ヌヴィレットも賛成する。善は急げとばかりに二人はプリザーブドフラワー作りの準備に取り掛かる。一日で完成するものではないが、待つ時間もまた楽しみである。
必要な材料を書き出しながら、シグウィンはああそうだわ、とヌヴィレットにこう言った。
「ロマリタイムフラワーのプリザーブドフラワーが作れたら、またいつか、レインボーローズの押し花で栞を作りましょうね」
「ああ、是非」
愛娘からの誘いに、ヌヴィレットは嬉々として是の意を示す。しかし。
「うむ……レインボーローズ?」
突然話題に出た花に、ヌヴィレットははて、と首を傾げる。その様子にくふくふと笑いながら、シグウィンはこう続けた。
「きっと、近いうちに貰えると思うのよ」
あの子がもう少し前に踏み出す勇気を持てたら、ね。そう思いながら、シグウィンはそう遠くない未来に思いを馳せ、一人微笑むのだった。


END.