カートはマックスの機体が大破した姿を見たことがあった。いつも普段から危ない仕事をちゃんぽんして何がなんだか分からない記憶達だが、マックスと話しながら紐解けば、そうだったそうだったと思い出せるのが常なのだが、その記憶ばかりはその部分だけが衝撃的に切り取られてカートの中に爪痕をくっきりと残し、その傷痕のケロイドのせいで周辺の仕事内容が朧げなくらいだった。ただ、その時のマックスの姿が記憶に残っていた。その朧げな記憶で、確か何かの爆発で飛んで来た破片がマックスの顔に当たったのだ。その瞬間をカートは見た。見ていただけだった。カートは爆発か何かで崩れた瓦礫を持ち上げて、そこから抜け出そうとしていたのだ。その瓦礫もマックスを庇ったものだったが、そのせいで第二陣に対応出来なかった。こんなことならマックスをこの身に囲い込んでマックスごと瓦礫の下敷きになった方がまだ損傷が浅かった。でも判断を誤った。だからそんな光景は生まれた。
マックスはフレームを凹ませ顔は滅茶苦茶にひび割れ、顔からその破片が飛び散った。血のように。勿論いつものきらきら文字通り光った目は真っ暗で、元から黒い色の他のモニター部分はもっと真っ暗になって。そしてそのまま重力に従い倒れ、崩れかけの壁にその身を凭れ掛からせた。四肢からも首からも力が抜けていて、ずるりと折り曲げられたまま壁に寄り掛かっていた。糸の切れた人形のようだった。まるで、生きていたように振る舞っていただけの、生きていないモノのようだった。嫌だと思った。ただそれだけを強く思い、それが何に対してなのか判然としない。自分の可笑しな思考に対してだったのかもしれない。だって可笑しいだろう、マックスは人形なんかじゃない。じゃあコレはなんだ、目の前のコレは。どう見ても、機械の人形の。
結論から言えばマックスは助かった。そこからカートは自分がどうやってマックスを連れて脱出し、サイボーグの治療を受けさせ、他にも色々とやることがあっただろうに、何をどうしたのかさっぱり思い出せないが。兎に角マックスは回復したのだ。本人曰く「そもそも元の人間の頭をぶっ壊してサイボーグの、しかもこんなリフレッシュレート低いモニターにしたんだから、それが壊れたってまたモニターを取り付ければ済む話」なんて言っていたけれど、その奥までダメージが入っていたら。それ以上はとても考えられなかった。今だって考えられない。だから考えなくいいようにしなければならない。絶対に。
マックスは当然自分の頭部が弱点で守るべきものだと分かっている。しかしそれは物理的な意味ではなく、なのに当然物理でもダメージを負う。だから外部ダメージを避けるために、自分も腕なりでガードしなければならない。だが彼にとってその腕も頭部と同じく武器として使うもので、それは物理的なものではない。それでも何度もいうが、物理的ダメージを負うのだ。なのにそういった自分の強みを持つせいで、逆に自分の頭を守るために腕を危険に晒すということをなかなかしない。カートが同じく弱点であり頭部を守るために自分の腕で攻撃を受けるような動きを、マックスはなかなかしないのだ。マックスだって元軍人だ。しかし仕事内容が異なる以上、やはり体の使い方が違うのだ。何を犠牲にするか、価値観が。やっぱり軍なんてクソだ。
機械の体にされても、機械になるわけじゃない。だけどぶっ壊されたらまんま機械にしか見えないんだ。そのことにカートは気付きそうになって、気付きたくなくて、やっぱり気付いてしまった。だけどマックスと同じ機体がただそこにあったとしても、カートはソレをマックスだとは思えない。機械だな、と思う。自分達サイボーグを機械扱いする者達に嫌気は差すが、サイボーグでさえなければ自分達だってそれを機械だと思う。ただ、機械だな、と。ならばマックスとはなんなのだろう。カートはサイボーグの体じゃないマックスを知らないのに、カートがマックスのサイボーグの体を通して見ているマックスという人はなんなのだろう。
という色々を、カートは一応考えていた。自分なりに色々考えていた。しかし彼はマックスのように考えていることがそのまま口に出るわけではなかったので。
「俺がマックスだなって思ったら、お前はマックスだよ。」
ただそれだけを言う結果となった。マックスが言った「保守的なことを言いたいわけじゃないけれど、確かに、生まれた体とは別の体になったら、それは本当に自分なのだろうか」というような話に対して、カートはそれだけを口にした。
だからマックスは笑った。
「テセウスの船ならぬテセウスのマックスの話をしていたのに、これじゃカートのマックスだね。」
「そういうことになんの?」
「……いや、ならないのか?」
「どっち……。」
カートはマックスの言葉遊びにじとっとした目を向けた。そういうことなら、カートはマックス貰い受ける気満々であったので。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.