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さちこ/Sharia
2026-01-04 22:59:19
1888文字
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太陽兎と太陽の娘
軌跡クロス
ぴよぴよ、と至極色をした耳が揺れる。
リベール王国、王都グランセル。
だんだんと夜明けを迎える空を眺め、東地区の休憩所でベンチに座る一匹の兎は、鼻歌を歌いながら風を受けて心地良さそうに目を細めた。
「賢人のバラード、だっけ。良い曲よね」
ふと、右側から声をかけられて兎はふらりと振り返る。
そこには、栗色の長い髪をツインテールにした少女が立っていた。にっぱり笑って手をひらりと振った彼女に、兎もふっと笑顔を返す。
「でしょ。わたしのお気に入りなの」
「知ってるわよ。会うたびに歌ってるんだから」
「あれ、そうだっけ」
長い耳をぴるぴると動かし、他の曲だって歌っていたはずと兎は彼女と会った時の記憶を引っ張り出す。
……
いや、よくよく考えれば彼女と会った時は全て賢人のバラードだった。確かにお気に入りと見抜かれてもおかしくはないか。
「それはともかく。なんであたしが会いに来たかわかってる?」
少女の問いかけに、兎はこてんと首を傾げた。
すると彼女はため息をついて、兎の隣に腰掛ける。
「執行者、やめたんでしょ」
「
……
あぁ、その話! まさか理由を聞くためにここまで来たの?」
「そうよ! あたしもヨシュアも聞いた時びっくりしたんだから!」
「驚いた、最近の子って行動力すごいのね」
老婆のような発言をする兎を、少女は思わずじとりと睨む。
結社 身喰らう蛇・執行者NoXIX────それがこの兎の元の称号である。
帝国でのゴタゴタが片付いた時に、あらゆる意味で有名だった兎が突然執行者をやめてしまったと、裏の世界に衝撃が走った。
あの太陽兎が野に放たれてしまった、と。
「それで、なんでやめたのよ」
「うーん
……
後進に道を譲るため、かしら。わたしもそろそろ150歳を超えるし」
「し、執行者に後進なんかいないと思うけど
……
」
「それがね、いたのよ。ちょうど良い子が」
驚く少女をよそに、兎は最近できた弟子を思い出していた。
金髪のふわもこ髪に、あらゆるものに振り回されて荒んだ碧眼。高圧的に振る舞おうとしている甘ったれだが、根のお人よしは塗りつぶせない。
そこに、確かに
太陽
アゼム
の輝きを見た。
「ふふ、とても扱きがいがあったわ。鍛えれば鍛えるほど伸びてくれるんですもの」
「うわ
……
試験の時のシェラ姉とおんなじ顔してる
……
」
「失礼ね、これでも結社じゃ優しい方なのよ」
あのまま自分が引き取らずにNo.0に預けていれば、彼はきっとおもちゃにされてしまっていただろう。
彼の望み通り鍛え、力を、そしてそれを扱うだけの精神を与えた分、己の方が優しいはずだ。
「座を譲ったのだから、わたしは星に還るべきなのでしょうね」
「ほしにかえる
……
?」
「死ぬってこと」
「なっ、なんでそうなるのよ!?」
「それがわたしの故郷での決め事だから。
……
あ、大丈夫よ。今のところ死ぬ気はないもの」
まだこの世界の果てを見ていない。
その衝動が兎を突き動かす。
この世界を余すとこなくこの目に焼き付け、いずれ再会する愛しいあの子に、歌って聞かせたい。
その一心で、兎は今ここで息をしていた。
「よかったぁ〜
……
じゃあ、これからは大陸中を回る、とか?」
「それもいいかなって。盟主ちゃんからたくさん退職金を貰っちゃったし、資金はあるからね」
「結社ってちゃんと退職すると退職金出るのね
……
」
そうか、彼女の家族達は足抜けだったか。
結社の盟主はそれもまた自由として追いはしないが、挨拶くらいしていってくれても、としょげていたから、いつかは会いに行ってやって欲しいものである。
「エステルちゃん」
「? なーに、シャリアさん」
隣に立つ少女を見下ろす。
……
準遊撃士から、正遊撃士へ。A級目前となった少女は、あの日よりもずっと大人の女性になった。
その旅路を見届けた一人として、兎は一言、言わねばならなかった。
「ありがとう。わたしに美しい軌跡を見せてくれて」
太陽の娘は、一瞬その目を丸くした後、照れ臭そうに頬を掻いてはにかんだ。
「よくわからないけど
……
どーいたしまして!」
「そうだ、シャリアさんを探してた理由! ねぇ、結社やめたなら遊撃士にならない?」
「遊撃士?
……
ふふ、たしかにそれも楽しそうね!」
「でしょっ! 善は急げって言うし、腕前は十分なんだから試験受けに行くわよ!」
「よ〜し、旦那仕込みの知恵見せちゃおっかな〜っ」
アーベンベルクから、太陽がのぞく。
二人の娘の背を照らすそれは、穏やかな温もりを町中に届けていた。
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