春野ツバサ
2026-01-04 21:26:41
5394文字
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目玉の求愛は情熱的【ゲ謎の小話】

気がつきゃ世界線での矢印成立小話であります。
基本公の場に矢印成立話をお出しすることはほぼないのですが、定期的に書きたくなる衝動が湧きまして。なら1回書けば満足するだろうと思って書きました。
白状すると目玉の父さんとのいちゃいちゃが書きたかっt(強制終了
これは果たしていちゃいちゃと呼べるのかわかりませんが(殴
まぁ、こっちはそんなに人口多くないし問題なかろうと保存代わりと思って置いときます。
ダメそうだったらPASS付きに切り替えます。

無断転載及びAI学習はご遠慮くださいますようお願いします(礼

「好きじゃっ」

 ぽかり。
 甲高い声で発せられたそのひと言を耳にして。間の抜けた顔になってしまったのは、不可抗力だと思う。
 何故って。
 そのひと言を発した相手には既に運命の相手がいて。その女性ひとを今も大切に想っているのを知っているから。
 にもかかわらず、目の前にいる今は見る影もなく変わり果てたかつての依頼人――人ではないが――は一切迷う素振りも見せずにその言葉――いや、戯言だろうか?――をぶつけてきた。うん、やっぱりこの反応リアクションになるのは当然だわ。ぶつけられた言葉に茹だることもなく、冷静な頭はそう結論付けた。
 目の前の人ならざるモノからすれば一世一代の告白だったであろうひと言に。声を漏らすことなくうーん、と明後日の方向へと視線を浮かす。探偵たるもの、相手の言葉の真意を深い部分まで汲み取らねばならない。何かが起きた時、あの時のあれはそういう意味だったのかと、解決のための糸口になるからだ。まぁ、それは事件に際しての話であって今この状況には当てはまらないかもしれないが。や、十分事件か。なんせ、ヒトでない友人(おこがましいだろうか)がトチ狂った発言を口走っているのだから。
 頭の中であらゆる可能性と予想を精査していく。そうして導き出した結論に――
「あーはいはい。私も好きですよー?」
 ひらひらと手を振ってにこーっと笑うのだけど。
「お前さん、真剣に受け取っておらんじゃろ」
 不服そうに目をつり上げられた。どうやら選んだ予想はハズレだったようだ。目玉1個しかないのに表情豊かである。
「えー。」
 怒った様子である目玉の妖怪に対して出たのはやや不服な反応。批難されているのは理解するけども、それを素直に受け入れるのは納得がいかない。
 だって、ねぇ?
 どう考えたって友愛以外のものを見出せないし。というか、あの時明らか異性扱いとかじゃありませんでしたよね? それがどこをどうしてそうなったのやら。それ以外のものがあるというのなら逆に一体どの部分でそうなったのか教えていただきたいっ。
「言っとくが友愛の意味ではないぞ?
 ちゃあんと色恋沙汰の方じゃからな」
 心を読むなし。なんだろう。『その姿』になって悟りの能力でも獲得したのだろうか。いや、元々あった能力なのだろうか。なんせ出来ないことの方が少ないのだ幽霊族という種は。
 びしっ、と1センチもないミリ単位の指をこちらに向けてくる目玉の妖怪に、あーだのうーだのしか言葉が出てこず、どうしたものかと思わず頭を抱えたくなる。こうもはっきりと恋情であると言われては誤魔化しのしようがない。どうしろと。
 思い悩んでいると察したのだろう。かつての男らしい声すらも変わり果てた、甲高い声(この声はこの声でもちろん好ましくはあるのだけれど)で、
「もしや、岩子つまの事を気にしておるのではあるまいな。今の世を生きるお前さんならばそこのところを気にするとは思えんが」
「あ、はい。そこは特には」
 昭和の時代はもはや遠く。元号も変わったこのご時世、一生のうちでたった一人だけに愛を捧げるなんて方がもう稀となっている。寧ろそれが叶ってるのは幸運な方だろうと断言できる。うちのボスはその幸運な方にカテゴライズされるが。
「ならば何が問題なんじゃ」
 いや、問題しかないわ。
「や、なんでそうなったのかまるでわからないので」
 70年前、あの村で過ごした数日のなかでそのような感情を向けられるようなことをした覚えはない。当時既にこのヒト、もとい目玉の賢人には最愛がいることは知っていたし。そも、私自身が色恋? ナニソレオイシイノ? が通常運転なので。自分に矢印が向けられるだなんて可能性はまず第1に切り捨てる性分なのである。
 はぁ〜……
 あれこれ考え込んでいると特大のため息をつかれた解せぬ。
 呆れられたかと思いきや、次にはコートにぴょいっと張り付かれてそのまま上へと登ってこられてちょっとくすぐったい。あっという間に肩まで到達すると小さい手を頬へと当てられた。
「誰かを愛するのに理由が必要か? お前さんがこれまで通ってきた旅程みちの中で心を傾ける者はただの1人もおらんかったか?」
……いな、くはないですね」
 だけど、そのどれにも応えるのは難しかった。
 所詮私はただの通りすがりで。1つの世界に留まり続けることはできないから。今は訳あって1ヶ所に逗まってはいるけれども、それは永遠ではない。
 いずれこの世界を去る日がきっと来る。別れは必然だ。既に残していく痛みを経験してるだけあって、それを誰かに味あわせるようなことはしたくない。特に。1度最愛を亡くしているこのヒトには。余計に。
「お前さんが置かれておる状況を鑑みて唯一に心を明け渡すことに躊躇しておるのはわかっておる。わかっていてなお、儂はお前さんを愛したいと思っておるのじゃよ。なぁ――
 風鈴や。
 呼ばれて一気に体温が上がる。そしてバレている。全てを完全に言い当てられてぐうの音もでなくなる。
…………なんでそーゆーこと平気でペラペラ言えるんですか」
「何故かのう。愛の力かの?」
「目玉になって性格変わってません?」
 にこっと器用に眼球だけで笑う目玉にツッコミ入れた私、悪くない。
 いや、目玉だけでなくても平気でいうわこのオバケは。なんせ、酒に酔って泣きながら最愛の女性ひとへの想いをつらつらと重ねるようなヒトなのだから。というか、平然というな愛の力とか。や、あったけどさラブのパワーで怪人を撃破した英雄ヒーロー。だけどそれが許されるのは英雄ヒーローだけなのよ。モブにそれは適用されませんっ。
 ぴょん、と肩から飛び降りられて慌てて両手を皿にして受け止めるとまるで私がそうするのをわかっていたように当然のように手の上に着地する。
「それでじゃ」
「うん?」
「答えを聞かせてもらおうかのう」
 立ち上がって両手を後ろに回して面と向かう目玉に目を見開く。
「今ですか!?」
「今じゃ。お前さんに猶予を与えるとのらりくらりと適当な理屈をつけて逃げてしまうのはわかりきっておるからのう」
 また読まれたっ。そして完全に退路を断たれたっ。それはちょっと卑怯ではありませんか!? どうしろとっ!?
 いや、普通に無理ですと言ってしまえばそれで終了な話ではある。しかしそれは、それでこの目玉の妖怪が折れてくれればの話だ。
 折れない。確実に。儂は諦めが悪いんじゃ、はもはやこの妖の名ゼリフの1つだからだ。こっちが折れてくるまで延々と口説かれる未来が目に見えてる。それは嫌すぎる。
……あー、その、ゲゲ郎さん?」
「なんじゃ?」
 やっぱり適当にお茶を濁そうとした。のだけど――
 きゅるるん、と見つめてくる紅い瞳、いや、目玉と視線が重なり思わずう゛、と唸ってしまう。そ、そんな目で見るなっ。ダメなんだってっ。弱いのっ。可愛い系に押されるのは1番無理っ。
 ぐぬぬ、と追い込まれて。はた、となる。
 果たしてほんとに無理だと思っているのか。自分の中で。拒絶したくなるほどなのか、と。
 確認の意味を込めてもう一度手のひらの目玉をじっと見る。あいも変わらず目玉の友人はただじーっとこちらを見てくるだけである。
 その瞳に。慈愛という名の多大な情を含んだ熱を宿して。
 パチン。
 何かが弾ける。目を見開いてしまうのは必定だった。
 違う。
 そうでないことに気付く。気付いてしまった。それはつまり――
 思ってもみなかった答えが導き出されて力が抜けてしまい、その場にへなへなとしゃがみ込んでしまう。もちろん、手のひらの上にいる諸悪の根源を落とさないように手のひらはそのままで。
……え。えぇぇぇぇ……
「ど、どうしたんじゃ!? 大丈夫か!?」
 慌てふためく元凶の声も今の私の耳には入ってこなかった。
 ぐるぐると世界が回る。理解したと同時に茹だっていく思考を抑えることができそうになかった。
 え。ウソでしょ!? よりにもよって相手妻子持ちなんですけどっ。そもそもヒトですらんですけどっ。や、ヒトガタですらない目玉だけなんですけどっ。私ってそっちの線がツボってこと!? どーゆー嗜好してんの!? ないわっマジでないわっ。
……知りたくなかった……
……儂の気持ちは、お前さんをそこまで苦しめるのか……?」
 気持ち落ち込んだ口調の目玉の妖怪を否定するように首を横に振る。
…………
「んむ?」
 絞り出すように出した返事は微か過ぎて聞き取れなかったらしい。目玉の友人から疑問符が浮かぶ。
 そんな目玉を。覚悟を決めて顔を上げて見据えた。

…………、じゃない自分がいるから……困ってます」

 ほ。
 間の抜けた声が目玉から聞こえた。居た堪れなくて手のひらを直視できずにソッコーで視線を外してしまう。
 多分だけど今の私、めちゃくちゃカッコ悪い。顔から熱が引く気配が全くみえなくてものっそい情けなくてなんか嫌だ。正直あんまり見てほしくない。
 だけど、私の心情に反してなおもじーっとこっちを見つめてくる紅い色彩。驚きすぎて呆けているのかそれとも私の言葉の真意を確かめているのかどっちなのかはわからない。
 だけれど、これ以上は本気で勘弁してほしい。自分の中でようやく精一杯絞り出した答えがこれだから。これ以上のものを求められてもはっきりと無理だと断言できる。
 照れと羞恥で何もできずにいると――
 ……そうか。
 と、短い納得の言葉。
……ゲゲ郎さん?」
「そうかっ。ならば儂はお前さんの彼ピッピということじゃのうっ」
「いやっ、どこで覚えてきたんですかその言葉っ」
 ぱぁっと瞳、もとい目玉を輝かせたポジティブ妖怪にソッコーでツッコミが炸裂した。
 普段森の中に引きこもってて外の情報なんて全く仕入れてないはずですよね!? 情報元どこよっ。妖怪にミョーなこと教えるんじゃありませんっっ。
 前向きロケットゲフンゲフン妖怪さんのおかげか。ツッコミと共にあれだけ苛まれていた照れと羞恥心は秒で彼方へと飛び去ってゆかれました。羞恥心サヨナラバイバイ――である。
 そして、ツッコミを入れたけど肝心の相手には届いていないのか。
 嬉しいのう嬉しいのう、と。
 手のひらで両手を目玉に当てて(多分ほっぺたに当たる部位なんだと思われる)、くるくる回る目玉の友人であった相手。
 浮かれきった様子に。そんなに喜んでくれるのかって思ったら――なんか気持ちがほわりとしてしまって。
 だからか。
 つるりとした目玉に。そっと唇で触れてしまったのはまぁ、うん、そういうことです。
 ポカンとしていた彼ピににっこりと笑顔を返す。何がおきたのかわかっていなかったのが時間が経つにつれて状況を理解したらしく、目玉を真っ赤にして発火? いや充血? させた。可愛いと思ってしまった私はどうやら手遅れなようです。
……お、お主っ今――!」
「彼ピなんでしょう? なら別にいいかと思ったんですけど?」
 ダメでしたか?
 にやりと笑ってやると何故だか悔しそうに手の上でむきーっと地団駄を踏む目玉もとい彼ピ。どうやらひと泡吹かせられたようです。やられっぱなしはシャクですからねっ。
「わっ!?」
 満足しているといきなりぼんっ、と音がした。もくもくと煙が充満して視界が遮られる。

……まったく。相変わらずお前さんは儂の予想の斜め上をいくのう」

 聞こえたのは甲高い声でなく低い男の声。
 それはよく知る声だった。
 時におどろおどろしく。時に思慮深い。低い、だけれど心地の良い声。
 ぬぅ、っと。大きな影が視界を覆った。見上げてしまったのはもう、条件反射。
 目玉であったモノが銀糸を振りまく化性に姿を変えた。その姿を。よく知っている。ポカンとしてしまうのは必然だった。
「え。なんで。」
「何故とは。おかしなことをいう。
 儂はオバケじゃぞ? 姿を変えることなんぞお茶の子さいさいじゃ」
 なにそれ聞いてないっ。まさかこの幽霊、私があの姿で押されたら弱いとわかってて敢えてあの姿取ってた!? 絶対そうだっ。たち悪いっ!!
 にこーっと笑ってるはずなのにその笑顔が――無茶苦茶怖い。対して、自分の表情が引きつっていくのがよくわかる。
「あーえーっと……ゲゲ郎さん……?」
「ツケは払わんといかんのう?
 なぁ――
 風鈴や。
 名を呼ばれた瞬間。
 低い。どっしりとしたその声に。重力が発生したようにずしん、と体が重くなる。
 目玉だけだった時に呼ばれたのと違うナニカ。
 鬱蒼と笑う幽霊に本能が警鐘を鳴らした。
 あ。ヤバいこれ。本格的にマズイやつ。
「ちょ、待ったっゲゲ郎さ――!」
「待たぬよ」
 しゅるり、と髪の一房が伸びてきて手首に巻き付く。拘束して逃げ道を塞ぐ気満々なのはもう問い詰めるまでもないだろう。
 徐々に距離が狭まるにつれ、紅い輝きがどんどん強まっていくのに目が離せなくなっていった。

 その後どうなったかって?
 ゼンリョクで逃げましたよもちろん。逃走に成功したかどうかはまぁ、ご想像にお任せということで。