無人島はその名通り人の出入りがない。そのため草花や木々は自由に育っている。気づいた時にはすでに愛馬鳥の目の下に葉っぱか枝が擦れたのか傷ができていた。
あいつは「可愛い服もあるんだぞ!」と一生懸命貨幣を集めていたはずなのに、無人島で稼いだ貨幣でまっさきに手に取ったのはチョコボの装甲だった。
「俺よりチョコボか?」と、冗談を言ってみたらまん丸な瞳をより大きくしてから笑って「エスティニアンは怪我しないし……ふふ、そんなに見たかったんだな!」飛びついてきてグリグリと腹に顔を埋められたのを覚えている。
あの時に交換した、愛用のゴーグルをチョコボにつけてやる。
だいぶ古くはなったが大事にメンテナンスし続けた装甲は、今もなお現役で使っていた。頭や目を守る装備をつけ終わると、チョコボは誇らしげに「クエッ」と声高に鳴く。
「準備は、こんなものか」
樽にたっぷりと水を汲んでチョコボの背に乗せる。その上に装甲同様に昔から使い続けたリュックを乗せた。
「旅支度。身軽なのは私も好きだけど、エスティニアンはもう少し荷物を増やしていいと思うぞ」
初めて二人旅に出る時に言われた言葉は今でも覚えている。鞄には深めのスキレット、香辛料、敷物の類も詰め込んだ。深めのスキレットがあれば焼くだけじゃなく煮込むこともでき、旨くない肉も香辛料を使えば食いやすくなる。敷物を敷けば体温を地面に奪われずゆっくり休むこともできる。
「別に命に関わるものじゃないけど、疲れた時に美味しいご飯が用意できたら嬉しいじゃないか。イゼルのシチュー、美味しかっただろ?」
何年も前のことを、あいつはまるで昨日のことのように話しをしてくれた。
一人の野営では使わなかったテントを最後に積み上げる。
テントがあれば夜の雨風もしのげ、何より温かな体温と香りが小さな空間を満たしてくれるのが好きだった。
今もう、名残しかないが。
「行くの?」
早朝の、まだ肌寒い時間。
肩にケープをかけた背の高い銀髪の女が、音を立てないようにそっと戸を開けて出てくる。姿に気づいたチョコボが近づいてくる女に向けて、嬉しそうに撫でてくれと首を垂れた。
「ああ。お前たちも気をつけろよ」
「心配ならここにいてよ」
「心配はしていない」
手足は長くスラリとした体躯。女の頭上にある猫の耳が小さく揺れた。
「帰ってくるの? じーじがいないと、子どもたち寂しがる」
「お前と、頼りになる旦那もいる。寂しかったら旦那の実家にでも行くといい」
娘は俺と嫁のいい所どりしたアーモンドのような瞳を丸くする。
顔立ちはだいぶ俺に似てしまったが、困った時に伏せる耳や、悩んでいる時に揺れる尻尾など、細かい動作が良く似ていた。
「そろそろ、あいつに土産話を作ってやらないとだからな」
「死ぬときはベッドの上で、孫に囲まれて逝ってよね」
「善処はする」
背に飛び乗ると、チョコボは出発を察したのか娘の頬に嘴の側面でそっと触れる。
二代目のこいつは雛の時から娘に可愛がってもらっていた。よく嫁と一緒にチョコボ厩舎を箒で掃いていたのを覚えている。俺たちの小さな小さな宝物は、大人になってちゃんと愛する人と家族を持ち、俺たちの手から巣立っていった。
「気を付けてね! 帰ってきてよ!」
遠く、風の向こう側に娘の声が聞こえた。
優しい思い出ばかりで、あいつが逝った後の人生を歩くのは苦痛でしかなかった。
それでも、約束した通り子を守って、幸せになるのも見届けた。お前が楽しみにしていた孫だって抱かせてもらった。じーじ、とよじのぼってくる姿は、娘やお前によく似ている。
旅に出ている息子からも、守る人が出来たと手紙が届いた。
家族の幸せは続くだろう。
無論、俺の村を襲ったような不幸が訪れる可能性は零ではないが、想像しうる限りの脅威は払ってきたはずだ。
「お前が行ったことがない場所を見つけないとな」
俺が星海に還った時。
お前と、たくさん話がしたい。
キラキラと金色の瞳を輝かせ、柔らかな頬を笑みに緩ませて、弾む声で笑ってくれるだろうか。
今でも、ありありと思い出せる。
俺は死に別れる間際に誓った約束を律儀に守ったのだ。俺とも約束して欲しい。
いつかまた。どこかで巡り合って――。
おわり
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