ニャモニ
2022-09-10 19:56:59
1865文字
Public 【FF14】エス光😺
 

赤い悪夢を見た日

エス光のルカちゃん
悪夢を見た日のお話です

赤い悪夢を見た日

 赤い悪夢が落ちてくる。

 お空に浮かんだ大きな星が震えて、弾けて、燃え盛る紅蓮の塊が世界に降り注いだ。
 あちこちから聞こえる悲鳴、それを覆うほどの爆音、振動。
 煌々と燃える空、眩い光、舞う砂埃。
 もう昼なのか、夜なのか分からない。
 小さな私の手を引く誰かの声も、逃げ惑う人々に飲まれてすぐに消える。
 離れないように必死に耳を傾ける。
 疲れて止まりそうな足を、力強く引っ張り走らせるその人。
 大丈夫、大丈夫。と優しい声が道標のように響く。
「あっ」
 轟音と共に空が焼ける。
 自分の影が色濃く地面に映されたことに目を奪われていたら、私の背は突き飛ばされていた。
 視界が真っ白になって爆風に身体が浮いて転がっていく。
 耳も、目も、鼻も。何もかも。壊れてしまったみたいに、前後左右が分からなくなった。
 熱い、痛い。目が開けられなくて、濡れた地面を指で辿りながら四つん這いになって進む。乾いた大地に沁み込む生臭いにおい。砂と石を含んだ爆風が容赦なく全身を痛めつける。息が苦しくて、水の中で藻掻いているようだった。
 さっきまで握っていたはずの手も、勇気づけてくれた温もりも消えてしまった。ビシャビシャと音を立てながら黒く濁った大地を進む。
 埃と煙で息が苦しいのに、叫ぶのが止まらなくて口が閉じられなくて。
 そうしないと、周りの悲鳴に埋もれて自分が消えてしまいそうだった――

※※※


「おい……大丈夫か?」
……っ」

 手を伸ばした先に、一回り以上大きな手が重なった。
 汗っぽい私の手とは違う、乾いた手のひらの感触。いつもなら温かく感じるのに、今日は冷たくて気持ちが良い。
「熱が上がっているな。うなされていたぞ」
 心配そうに覗き込んでいる優しい瞳が嬉しくて口元が自然と緩む。
「エスティニアン……風邪なんて、久しぶりにひいた気がする」
 喉がイガイガして、声が酷い。
「これに懲りたらイシュガルドの路上でヒルダたちと酒を飲むのは止めろよ」
……はい」
「あいつらはこの環境にお前より慣れているだけだ。真似るんじゃない」
「はい……
 怒られて下唇がむむと持ち上がると、ぎゅっとそこを摘まれた。
「怒っているわけじゃない。心配だから言っている」
「怒っているじゃないか」
……俺が同じことをしたらどう思う? 怒るのか?」
 意地悪くエスティニアンの口端が上がる。
 エスティニアンが風邪をひいたら心配だ。危ないから止めてって言う気がする。
 でも、不用心だぞってちょっと怒る気もするから、エスティニアンだって怒っているんじゃないか?
 疑うように目線をあげると、やれやれとわざとらしく肩を竦められた。
 ぐりぐりと頭を撫でられ、汗でペシャペシャになった髪の毛が捩れてくしゃくしゃになる。
「汗すごい……
「タオルと着替えは持ってきたぞ」
「お腹もすいた……
「スープは作ってある。味の保証はしないが」
「果物食べたい」
「見舞いに来た奴らが林檎ばかり持って来るから、林檎農家のようになっている」
「へへ、嬉しい」
 怖い夢を見ていたはずなのに、嬉しくて、幸せで、悪夢はもうどこかへ行ってしまった。
 悪いこと、悲しいことを引きずらないのは自分の特技なのかもしれない。
「起きられるか?」
 背中に手が回ってゆっくりと起こされる。自分がとても大事な物のように扱われているのが擽ったい。
「あ、……私、臭いかも」
 むわっと自分の汗が鼻につき、ぴったりと寄り添ってくれるエスティニアンの胸を思わず押してしまう。
 もちろんその程度の力で動くわけもなく、逞しい筋肉の感触が跳ね返ってくるだけだった。
……俺はお前が三日風呂に入っていなくても抱けると思うぞ」
「え?」
 言いながら耳にエスティニアンの鼻先が突っ込まれる。スンスン嗅いでいる鼻息の感触に、ぶわわわと尻尾の毛が逆立つ。
「わ、私が嫌っ」
 真っ赤になって言うと、エスティニアンの背中が笑いを堪えて小刻みに揺れる。
 コツリと額が合わさり鼻先が触れ合う。
 案の定、私の汗が染みた耳毛に触れていたエスティニアンの鼻先は湿っていて、それが何だか面白くて私も笑ってしまうと、重なるだけのキスが落ちた。
「早く良くなれよ。襲うのは我慢してやる」
 ――襲ってもいいのに。

 なんて。

 言ってしまったらお互い大変なことになってしまうだろうから。
 今はとことん甘やかしてもらおうと身を委ねた。

終わり