ニャモニ
2020-12-24 11:31:09
1968文字
Public 【FF14】エス光😺
 

星芒祭2020

エス光です
星芒祭2020
アイメリク視点 

 蒼天街に赤い服を着た英雄が子どもたちにプレゼントを配っている。
 その噂をアイメリクが耳にしたのは夕刻の会議が始まる直前だった。
 どうしても外せない会議だったこともあり、事の真相を確かめに行く頃にはすっかり陽が落ちてしまい、薄暗くなった空からひらひらと綿毛のような雪が舞い落ちていた。

「アイメリク! お仕事終わったのか?」

 暖かそうでふわふわとした真っ赤なワンピース姿の英雄は、復興作業で用意した外の厨房を使って調理に勤しんでいる。御馳走を求めて列をなす民に自然と他の冒険者たちが給仕を手伝っていた。
 にこにこと笑う可愛らしい英雄の周りには、美味しそうに料理を食べている小さな子どもたちや、大人たちもたくさんいて、皆一様に穏やかな顔をしている。
「ああ。君が来ていると聞いたのでね。挨拶だけでもしようかと……
 国を救い、ドラゴンとの因縁を終わらせ、世界を救う旅を続けながらもこの国の民たちのことを忘れないでいてくれる姿勢には感謝しかない。
「ならさ。あっちでプレゼントも配っているから、もらって来てもいいぞ」
「プレゼント? 私がもらうと子どもたちの分が減ってしまわないか?」
「大丈夫。いっぱいあるし……ほら、あっちの赤い服のおじさんが配っているからもらってくるといいぞ」
 英雄を囲う集団から少し離れた位置で、真っ白で立派な白い髭を蓄えた赤い服の男が一人。
 大きな袋の中にはプレゼントが入っているのか、近づく子どもたちに一つ一つ取り出して配っている。
 年寄りのわりに背筋がよくスラリとした立ち姿で――

……何をしているんだ」
 変装をしていたとしても、長年見続けた姿を見間違うはずもなかった。 
「意外と似合うだろ? 私はもう少し料理をしてから帰るからさ、あそこの疲れている赤い服のおじさんを先に休ませてあげてくれ」
 英雄は「おじさん」にたっぷりの愛情を感じる声色で言って、悪戯っ子のように笑う。
「今日はすごく頑張っていたんだぞ」
 親友の想い人は実に魅力的に微笑み、白髭をつけた男へと向かう眼差しは柔らかい。
 あの男に髭をつけて真っ赤な帽子と服を着せることが出来るのは、この世で彼女だけだろう。
 可愛い彼女のお願いをどんな気持ちで引き受けたのか。それを突くだけでも良い酒の肴になりそうだ。
 英雄にしばしの別れを告げて赤い服の男へ向かって歩き出す。
……げ」
 私の顔を見るや心底嫌そうな声を上げた赤い服を着た男――エスティニアンは、立派な付け髭を撫でながら誤魔化すようにそっぽを向く。
「民のために働いてくれた赤い服の御仁を労ってくれと言われたのだが」
 ニヤつきそうになる口元は引き締めて、目一杯に紳士然とした口調を使ってみせる。
 茶化した言い方をしなければ、意外に人付き合いの良いこの男は捻くれずに話を聞いてくれるだろう。
――あのワインはまだあるのか?」
「取り寄せておいた。今日はお前が好きな肉料理もあったはずだな」
「仕方ない。労われてやるか」
 切れ長の瞳が帽子と髭の隙間から見えて、美しい男だと言われていた男の似合わない仮装に笑いそうになるのを咳払いして誤魔化す。
……あいつは」
「後から来るそうだ」
……
「心配なら変な虫がつかないよう護衛を見張りに置いていこうか」
 護衛に声をかける前に、「いってらっしゃい」と手を振る英雄の元へとエスティニアンは早足で向かっていってしまう。

……まったく」
 離れて行く背中は真っすぐに彼女の元へと向かい、小さな体がエスティニアンの大きな体に覆われて、重なるシルエットに口づけをしているのはわかった。周りの酔っ払いたちが囃し立てる声も聞こえる。
 周りへの牽制なのか、それとも先に行けと追い出されてしまったように感じて寂しいのか。
 恥ずかしがる英雄に数発叩かれてから戻ってきたエスティニアンは、機嫌よく「行くぞ」と私の肩を組んで歩き出す。
 他人を寄せ付けず、女性たちの黄色の声を袖にし続けた元筆頭竜騎士は随分と柔和な瞳になったものだ。
「ああいうことをするのは、嫌いじゃなかったのか?」
「今でも嫌いだ」
 間髪入れずに切り捨てるように返してくるも、すぐに眉間の皺は解けていく。白い息を吐いて薄い唇に微笑が浮かぶ。
「あいつは特別だからな」
 憑き物が落ちたような、どこか晴れやかな顔。なくした少年時代の顔なのか、やけに幼く見えた。
……羨ましいな」
 復讐を終えて変わっていく親友に、少しだけ置いていかれたような物寂しさが胸をよぎる。
 それでも、この優しくゆっくりと落ちてく真白な雪のように。
 不器用な生き方をして黒く染まりかけた竜騎士の心を、柔らかく包む存在が出来たことは心から喜ばしいことだった。