私の持てる語彙を駆使して碇シンジ君を比喩るチャレンジ。

ご覧の通りです。

その少年は、春の嵐が去った後の夜気に漂う沈丁花の香りに似ていた。確かにそこに存在しているのに、目を離せば夜の闇に溶けて混ざり合い、記憶の中だけの幻影になってしまいそうな、触れがたい美しさの化身だった。
柔らかな襟足の隙間から覗く項は、月光に透ける白百合の花弁のように優美な弧を描く。それは、何者にも侵されていない潔癖な美しさと、無自覚に他者の支配を誘うような、無垢な色香が同居した聖域であった。
彼は今、静かに目を伏せている。長く揃った睫毛は、星明かりに照らされたシダの葉のように、白い頬の上へと柔らかな影を落としていた。繊細な筆先で描かれた細密画のようなその曲線が微かに震えるたび、少年の内側で揺らめく孤独や情動が、薄氷を走る亀裂のように透けて見える。光を拒絶するように閉ざされた瞼の裏側には、きっと誰の指先でも汚せない、彼だけの銀河が広がっているのだろう。
少年の身体は、静謐な磁器のような外見とは裏腹に、驚くほどしなやかな生命を宿している。薄く透き通るような指先は、白く磨かれた象牙の細工物のようで、その端に宿る爪は、丹念に研磨された桜貝のように淡い光を湛えていた。その指先が弦の上をそっとなぞるたび、空気の粒子が震え、甘やかな共鳴が部屋を満たしていく。まるで彼自身が、目に見えない旋律を紡ぎ出すひとつの完成された楽器であるかのように。
呼吸を繰り返す白い首筋では、まだ変声期を知らない未成熟な喉の稜線が小さく波打つ。大人の男の険しさとは無縁の、皮下を滑る小石のように滑らかなそのラインは、雪解けの雫を吸い上げた白磁のように、どこかひんやりとした熱を宿していた。薄紅梅に染まる艶やかな唇からは、言葉を紡ぐたび、繊細なガラス細工が触れ合う時のような澄んだ音が溢れる。その響きはあまりに危うく、強く触れればたちまち砕け、光の破片となって消えてしまいそうだった。
やがて彼が顔を上げると、潤みを帯びたその瞳が露わになる。それは深い霧の底に沈んだ湖のように静かで、夜の帳を閉じ込めたサファイアを水底に沈めて揺らしたような、不規則な紺碧の輝きを放っていた。戸惑いや迷いが生まれるたび、その「蒼」は凪いだ海をかき乱す海流のように泳ぎ、たゆたう。覗き込めば、見る者の理性をすべて冷たい水底へと引き摺り込み、永遠に閉じ込めてしまうほどの強い磁力を秘めていた。
誰かの手がその身体に触れ、耳元で秘めやかな愛を囁けば、光を透かしていた薄紅色の耳たぶは、熟した果実のような濃密な朱へと染まっていく。恥じらいと高揚が混ざり合い、脈打つ鼓動がその薄い皮膚を真っ赤に染め上げていく様は、彼がその言葉を心の最深部まで受け入れている証であった。驚きに小さく跳ねる肩甲骨の稜線は、今にも飛び立とうとして羽を休める幼い鳥の骨格のように脆く、痛々しいほどに美しい。
彼がそこにいるだけで、あたりの空気は雨上がりの森のような濃密な熱を帯び始める。清廉な佇まいというヴェールの下で、熟れる寸前の果実が放つ甘い頽廃と、透明な無垢とが、危うい均衡で混ざり合っていた。
熱を孕んだ吐息を漏らし、乱れた呼吸が静寂を切り裂いていく。どれほど誰かの熱に侵され、深い場所まで貫かれたとしても、彼の魂の核にある一点だけは、雪の下の芽吹きのように清らかで、決して濁ることを知らない。その残酷なまでの無垢を湛えたまま、少年はただ、静かにそこに存在していた。

それが、私の目を通してみた碇シンジという少年の、全てだった。