望月 鏡翠
2026-01-04 00:23:07
885文字
Public 日課
 

#1952 泥の味を知るものたち2

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作


 指をくるくると回して背後の扉を示して示させる。
「お前な、そんなことだからお勉強会が終わらないんだぞ」
 礼儀も作法もあったものではない。今のままではいつまで経っても合格の証はもらえないだろう。
「でもトルガ様だから、いいじゃないですか」
 エリセオは唇を尖らせる。
「なんのために身につける礼儀作法だと思っている。俺に発揮せんで、誰にする」
「他の領地からきた貴族の人とか〜」
 指折り数えようとしていたが、最初の一つで手が止まってしまった。他に思い浮かばなかったらしい。
「俺たちを納得させる振る舞いをしてくれ。そうでなければ客の前にはだせん」
 エリセオはぐうと唸って黙り込んだ。
「わかったら、入室するところからやってみろ」
 方を落として踵を返し、一度部屋を出る。
 ノックの音が聞こえた。
「入れ」
 しずしずと入室してくると重心の不安定な動きでぎこちなく一礼をして見せた。
 指先が迷っている。腕の置き場がなく所在なさげで、腰ではなく背が曲がっている。
 全体的に優美さにかける。
 優美な動きとは、その見た目と裏腹に体力を使うものだ。姿勢を維持し、指先にまで気を配った動きを作るのは筋力に他ならない。つまり、彼は今のところ体の動かし方を覚えていないだけでなく、姿勢を維持し続ける根性が足りていない。
 さぞかしジョアンと他の教育係を苛立たせていることだろう。
「何かご用でしょうか」
「用があるのはお前だろうに。俺は呼んでないぞ」
「少し休憩をさせてください」
 ふにゃふにゃと床に座り込む。椅子に座って机に向かっているだけなのに、よほど疲れたらしい。
「早く使える人間になって、この部屋に常駐できるようになってくれ」
 体を動かす仕事をしているから、体力が不足しているわけではないはずだ。その気になれば覚えられること、甘えているだけならばジョアンのような厳しい指導相手の方が合っている。
「意外でした。トルガ様はそういうことも気にしないから、俺を選んだと思っていたので」
 真っ当な疑問だった。最初から、礼儀作法に通じたものから選ぶのが早い。