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幸希(ユキ)
2026-01-04 00:00:52
2355文字
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愛と執着
独り善がりになってないか、自分勝手になっていないか。不意に心配になる。ずっと自分の事ばっかりで、待っていてもらってばかりだから。
君が幸せであってくれたら、それでいいの。
【愛と執着は違う】
とある本で見たその文言。理想を叶えられなかった男が狂気に沈んでしまい、愛したはずの相手をも害そうとしてしまう。それを止めるために仲間の男が放ったセリフがそれだ。
(愛と執着は違う
…
か。)
身に覚えがありすぎた。私自身、今まで誰かを想う時、始めこそ献身そうにするのに、想いが積み重なり、膨れれば膨れるほど「離れていかないで。置いていかないで」と執着に取って代わる。でもそれは仕方ないとも思っていた。誰だって大切な人や半身のような人を失うのは身を引き裂かれるように辛いはずだ。
そう思っていたから、私はそれを愛と思っていた。信じていた。
(でも
…
)
むっちゃんを想うようになってから、むっちゃんからの想いを受けとるようになってから、それがただ自分の自己満足なんじゃないか、という考えがよぎるようになった。
むっちゃんは、人でありたいという私の願いを叶えるために「いつまでも待つぜよ」と待っていてくれる。来世まで待つという事は、いずれ寿命を迎える私に置いていかれるという事。業を灌ぐための罰の間、むっちゃんは1人で私を待っていなければならない。長い時間離れなければならない。
(私だったら多分待てないかも。)
執着を向けて、縛るのはとても簡単。でもむっちゃんは、「それをしたら主の顔を曇らせてしまう」と嫌がる。本音をこぼしはするものの、強行しようなんて事は絶対にしない。
想うこと。愛すこと。それは相手を思いやることで、決して自分の気持ちだけで相手を縛らないこと。それを、私はむっちゃんと想い合う中でやっと分かるようになった。
(想われる事を知らないと、考えが独善的になるんだな
…
。)
諦めていれば、期待せずに済むから手離す事は安易に出来た。でも、少しでも手に入るのではと希望があると、振り返って欲しくて、見返りを求めて、それを手にいれようとなりふり構わなくなり出す。
(悪癖過ぎて普通に引くけどね
…
。)
1つ言い訳が許されるのなら、あまりに他人に大事にされて来ず、多分、というか確実にそうだと思うけど、私は【愛】に飢えていたんだと思う。誰かに大事にされたかった。愛されたかった。愛して欲しかった。それを求めるあまり、独り善がりな愛し方になっていたんだと思う。
「
……
。」
チラリとむっちゃんを見る。テレビを見ながらみかんを食べている。
(可愛い
…
)
もぐもぐ動く口元が可愛い。もうとてつもなく可愛い。ふとむっちゃんの茶色い目がきょろりと動いてこっちを見た。
「ん?主も食うかえ。」
剥いていたみかんを1房差し出してくれる。あむ、とそのまま食べれば「ふはっ」と笑うむっちゃん。
「ふぁに?」
「んー?ハムスターみたいで可愛いと思うての。」
「むっふぁんわはひのほほひょうほうふつとおほってう?」
「飲み込んでから話しや。」
「んぐ、むっちゃん私のこと小動物と思ってる?」
「いんや?」
カラカラ笑いながらもう1房差し出してくるむっちゃん。差し出されるままにもぐもぐ食べてしまう。
「ねぇ。」
「どういた?」
「
…
むっちゃん、私のこと好き?」
「おん、大好きじゃ。」
「
……
。」
「主?」
こてん、と首を傾げてこっちを見るむっちゃん。いちいち仕草が可愛いあざといずるいふざけんな。じゃなくて。
「私も、むっちゃんが好きだよ。」
「嬉しいにゃあ。」
「
…
ねぇ。」
「ん?」
優しい目をするむっちゃん。
「
…
むっちゃんの事、ちゃんと想えてる?私ばっかりになってない?」
「なっちょらんよ。ずーっとわしの事気にしゆうろう?」
「自分勝手な気の掛け方になってない?縛ってない?独り善がりじゃない?」
「わしの意思をこういて聞いて確認しようとするおまさんのどこが自分勝手じゃ?独り善がりにもならん。」
「依存になってない?」
「してくれたら、それはそれでわしは別にかまんがの。」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「何に不安を感じて、何をあんぜゆうかわしには分からん。けんど、おまさんのわしへの想いが勝手なぞ、そがな事を思った事は1度もないぜよ。」
「むっちゃんのこと、大事にできてる?」
「大事にしてくれゆうよ。」
「
……
むっちゃんは今、幸せ?」
あなたの隣は、きっと誰にも譲れない。譲りたくない。でも、私じゃむっちゃんを幸せに出来ないなら、私は
……
「主?」
君が幸せであるなら、それだけでいいの。むっちゃんが幸せだったら、私も幸せなの。
「どういて泣きゆう?なんぞ気に障る事言ってしもうた?泣かんで主
…
。」
「
……
?」
オロオロするむっちゃん。何でオロオロしてるのか分からなかったけど、パタッという音で「あ、泣いてるのか」と気付いた。
「なんで涙
…
。」
「おまさん。」
「
……
?」
「おまさんが一緒におってくれたら、笑っちょってくれたら、おまさんが幸せじゃったら、それが見れたら、わしはもう充分幸せじゃ。」
「!」
人間綺麗な思いばっかりじゃない。欲にまみれた汚い思いを抱える事だってある。苦しみだらけの哀しい心を持つ事だってある。
でも、その先で大好きな人の幸せを想えたら、それだけで幸せだし、その想いこそが【愛】なんじゃないだろうか。
「やき、もう泣きな。」
ほろほろ落ちていく涙をむっちゃんの指が拭っていく。
「むっちゃんが、幸せならっ、私、それでいいの。」
「おん。」
「大好きなの。」
「わしも大好きじゃ。」
ぎゅうっと抱き締められて、そのまま腕の中に身を委ねた。
(でもやっぱり、このあたたかさだけは離せないな
…
)
ほんの少しの執着には、目を瞑らせてほしい。幸せを願う心に、嘘はないから。
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