kgsg_hirg
2026-01-03 22:00:58
1325文字
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正月(喧嘩・お願い)

ワンドロワンライ1/3分

ぱんっと手を合わせ寒空の下で神様に拝むフリをして隣を盗み見る。神様よりもきちんとしてくれそうな彼は何を願っているのだろうか。
人混みを避けるように鳥居を早々に潜って振り返ってお辞儀。神社のマナーはなんとなくでしているが北さんならきっと理由も知っているだろうと思いながら、付近に並んでいる屋台の匂いに腹がつられてなってしまった。恥ずかしいよりも腹減ったの感情がデカい。
「なんか買うか?」
「うーん……とりあえず牛タン串だけ食ってどっか店入りたいっす」
屋台で食べ物を買っても腹が満ち足りることはそんなにない。学生の小遣いでは屋台価格の食べ物は高すぎるのだ。
「帰って飯食わんの?」
「えっ、新年早々北さんとお出かけやのにさっさと帰るとかそんなことしませんて」
お互いに高校を卒業してほんの少しだけ自由が広がったのに、……俺の腹をもう少し信用してほしいものだ。
そんな俺に対してクスクス笑う彼。惚れた弱みというか、こういう顔を見ると思わず言葉を詰まらせてしまう。新年早々彼の隣に立っていられるという幸せが胸を苦しくさせる。
「あ、そう言えば北さんは何をお願いしたんすか」
「お願い?」
「神様に」
「ああ、お参りのか」
彼は少し考えるような素振りを見せてから俺の顔を覗き込んだ。なんだろうと思って待っていると「お願い人に話したら叶わん言わんかったか?」と聞いたことのある迷信を俺に言った。
「えっ、そんなん迷信でしょ」
「おう、そうやな」
「そうやなって……信じてへんやん」
「信じてへんで。そもそもお参りって昨年の報告と感謝を神様にするもんやろ」
「えっ! めっちゃお願いしてしもた!」
「ふふっ、お前はそれでええやろ。それにお前以外もお願いしとる人の方が多いやろうし……なんにせよそこは好きに参ってええ思うで」
それなら前もって知っておきたかったなと彼を少し恨めしそうに見ると今度は声を上げて笑う。揶揄われているのかわからないが年々こんな風に表情を見せてくれるようになった。
「それと俺のお願い聞くんやったらお前も話すんやろ?」
「えっ、えぇ~……えっと」
「言えへんことお願いしたんか?」
「そ、そんなことないですって!」
その返しは正直予想していなかった。俺がお願いしたことは恥ずかしすぎて口に出したくない。なんて矛盾だろう。これ渋って怒られないか、この人とは滅多にしない喧嘩を想像して少しだけ肝が冷える。言葉で殴ってくる人に勝てた試しは片割れ以外にない。
そんなくそな想像をかき消したのは隣からの声で。
「来年の正月も治と参らせもらいますって神様言うてやったわ」
ほんの少しだけ恥ずかしそうな彼の声に釣られて彼の顔をゆっくりと見る。白い息を吐き出す彼の頬は赤い。
――……俺も、似たようなことお願いしました」
……それは神様にお願いするようなことやないやろ」
「そ、うっすね」
顔が熱い。外気が寒いせいで余計にそう思う。
しかしそんな甘い空気も俺の腹の音が切り裂いてしまった。耐え切れなくなってしまったらしい彼が大笑い、きっと彼の今年初の大笑いだろう。
「ほら、さっさと腹満たそか」
そう引かぬ笑いを浮かべたまま彼は俺の手を引いた。