荒野ハチ
2026-01-03 18:13:57
3500文字
Public 小話
 

夢幻のおもい

夢は醒めるものだと、知っている

「アオガミはさ、夢って見るの?」

ただの会話の種。
そして、単純に疑問だった

「いや。私は情報を記憶するシステムが人間の脳のそれとは異なる。故に夢を見ることはない」
「そうなんだ

その種は、花咲くどころか芽吹くことすらなかった。そう思われたが、
発言の裏に何かがあると察したのか、神造魔人は意外な方向から話を続けてきた

「悪い夢でも見たのか。少年」
「えっ?」

そう。覚えてはいないけれど何かを見たんだ。
彼のお察しの通り、その内容を考えている中で生まれてきた話題であることに違いはなかったけども。

「ううん。悪い夢じゃなかったと思うけど何かを見た気がするなと考えてるうちに、そういえばアオガミはどうなんだろうって」
「そうか」
「まあ。見た夢を思い出そうとする行為なんて無駄で無意味もいいところだけどね」

昨夜見た夢を思い返したところで、現実での出来事ではないソレには何の価値もない。
それこそ今のような話の種くらいにしかならない。

「結局、現実以上のものなんてないから。夢は夢だし」
「ふむ

そう。それこそが“ 夢 ”なのだ。
ただ、微睡みの中で見せられるだけの幻。

「私は見たことが無い故に分からないが」
「うん」
「例えば、悪い夢ならまだしも、それが幸せな夢だったとして、
眠っている間にも幸せだと感じることがあれば、それは無意味ではないと思うのだが」

眠っている間に感じる幸せ。確かに夢の中ではそう感じるかもしれないけれど、
夢なんて醒めるもの。その間に見たものは現実に戻れば嘘に等しい。
それに___

「うーん……だって、幸せな夢ほど目が覚めた時に感じる喪失感っていうのかな。
ああ夢だったんだって思っちゃうんだよね」

そういうこと。
夢が良いものであるほど、無意味以上に感情的にマイナスになることもある。
しかもそれが寝起きと同時とあらば、それだけで朝が憂鬱になったりもする。

「悪い夢なら悪い夢で、目覚めた後も当然いい気分はしないしやっぱり夢なんて、無意味に感じるよ」

だったら内容はどうであれ見ないほうが総合的に考えてマシだろう。の結論に至る。
実際、夢を見ている間は眠りが浅い状態で、目覚めた後もその内容を覚えているということは脳がきちんと休まっていない証拠でもある。
夢を頻繁に見ることは医学的観点からもあまりいいものだとは言われていない。

……だが」
「ん?」
「たとえ夢であったとしても、その中で“幸せだ”と感じた気持ちだけは、本物ではないのか」
「そう、かもしれないけど

さっきから、夢に対する僕の考え方をやんわりと否定する様子の神造魔人。
夢を見たことがないという彼だが、一体何を頑なになっているんだろう。

「じゃあそこまで言うなら、アオガミはもし見られるならどんな夢を見てみたいの」
「私か?」

幸せな夢についてそこまで擁護するのなら、夢に対する具体的な理想がアオガミにはあるのだろう。
それが何なのか、聞いてみようじゃないか

「アオガミが “ 幸せだ ” と感じる夢って、なに?」
「私が幸せだと感じる夢、か

そう言いながら腕を組み、やや上の方を見上げる。
そうして暫く考え込むのかと思いきや、彼はすぐに腕を解いてこちらに向き直る

「そうだな、それは


__少年。 君が、幸せだと笑う夢_____


えっ……

……僕、が?」


「君がやるべきことを悔いなくやり遂げ、その先で幸せになる。その姿を見届けること。
これが、私が最も幸せだと感じる夢だろうな。
そんな夢が見られるのだとしたら、私は夢も無意味だとは思わない」

またこの神造魔人は真剣な顔をしてそういう事を言う。
しかしそれを“夢”だと言う意図に疑問を感じてしまう。
まるで「それを叶えるのは自分ではない」と遠巻きに言われているようで___

「それ、夢にするの?」
……

なんとなくアオガミの表情が見られず、自分の手元に視線を落としたまま尋ねる。

………。言葉は返ってこない

他人の嘘こそ見抜けるが、未だに自分は嘘をつくことができない彼は、
僕をあまり良くない気分にさせるだろうと判断される発言を迫られると誤魔化せずに黙ってしまう。
つまり、この場の彼の沈黙は「是」と同義なのだ。

「夢のままにしないでよ」
「少年

淋しく、悔しい感情がどんどん胸に満ちていく……
その気持ちを振り払いたくて、つい声量が大きくなり、魔人に当たるような口調で吐き捨てる

「夢にしようとしないでよ!
目が醒めたらっ!全部、消えてしまうじゃない
だから、“夢”なのだろう」
「どういう意味

僕が悔いなく生きられるように。その為なら何だってする。
そこまで言ってくれたのに、ここで途端に身を引こうとするのはどうして?
僕が勝手にその気になっていただけで僕の気持ちはアオガミに全く伝わっていないのか?
だったら

「なら、僕の幸せはその人がいないと成り立たないって言ったら?
僕の幸せを叶えられる相手は一人しかいないって言ったら??」

気持ちがみるみる込み上げ、口からも言葉が次々と漏れ出る。
まるで越水(えっすい)を起こしたように収拾がつかず、
堤防から溢れてしまった言葉が相手に容赦なく畳み掛けた。

「僕の幸せは、アオ……っ!」


僕の言葉を遮るように、突然口が塞がれた。
神造魔人の口づけによって____

「んっ!……んぅ……

舌が容赦なく口内に差し込まれ、こちらの舌をしっかりと絡め取り、まるで黙らせるような
アオガミらしくない半ば強引なキス……

「ふぅっ…… はぁ……

苦しい____
攻め立てるように口内を弄られ、受け止めることに必死で呼吸もまともにできず
次第に頭がぼうっとしてきた……

(ムキになってる……
まるで僕の言葉をこれ以上聞くことを拒むように……)


___深く長い口封じからようやく解放された僕は、神造魔人の大きな身体にぐったりと身を預けた。
肩で荒く息をする僕を彼は逞しい両腕で優しく包み、頭をそっと撫でながら
耳元で囁くように話す

……少年
ハァッ……
「それは “ 夢 ” だ」
ハァ……ハァ……
「君にとって夢は、無意味なものなのだろう?」

ズルい……
口内をたっぷり弄ばれ、酸素を欠乏させやや意識が朧げな僕に対して、
今はまともに返事ができないことを知ってて
そんなことを聞くの……

それでも彼の言葉を肯定してやるものかと、
ぐっと彼の胸に強く顔を埋め、身体を押し付ける

「少年……

意図は伝わったようだ。
やや戸惑いを含んだ声で神造魔人は小さく僕を呼んだ。

……アオガミ、だって

息が落ち着いてきた。ようやく言い返してやれそうだ

「アオガミだって夢のままにしたくないくせに」
………

黙らせるようで、けれどもそんな拒絶とは裏腹に僕を求めるような熱い欲望を
先程のキスから感じたからだ……

「違うなら、キスで黙らせたりなんてことしないでしょ?」
それは」
「誤魔化せてないんだから」

彼の首に腕を回し、軽いキスを返す。
その静かなる欲望を肯定し受け入れるという意思表示。
僕もアオガミと同じ気持ちなんだと___

「僕、アオガミとずっと一緒にいたいよ」
……
「僕たちは二人で一つで、離れたくないと望んでてそれで一緒にいられない理由がどこにあるの?」

彼はだんまりだったが、僕を抱く腕に僅かに力が入るのを感じて
互いが望むものは同じなんだと改めて確信する。

「全部終わったら」
「ん?」
「二人で創った世界を、一緒に見て回ろう? 僕たち二人の夢が叶った世界を」
「我々の夢が叶った世界か

僕には目指すべき創世があって、アオガミは僕の創る世界こそが自分の望みだと話してくれた。
なら、この旅の終わりである創世の先にあるのは二人の望みや夢が叶った世界
まだその形は曖昧だが、そういうことになるんだろう。

「ああ、そうだな」
「うん。約束


神造魔人の大きな身体に寄りかかり、ゆっくり目を閉じる。
彼もまた、そんな僕を再び包んで顔を寄せる。

今はまだ二人の夢の途中だけれど、
今僕たちが感じているお互いの温もりは確かに本物で、この先その夢が現実になった後も
決して嘘や幻にはならないんだ ___と

そう、疑わずにいる