桜崎
2026-01-03 17:35:04
2360文字
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三賀日

れめゆみ 正月の短い話三つ 最後だけささやかなR-18

一日目


「夜の供物はすき焼きにしろ」
「いや私が持ってきた蟹と豚肉がある。しゃぶしゃぶにしろ」
「めんどくせーからどっちも作ってやるけどテメーらさっき馬鹿みたいに餅食ってなかったか?」
 他愛のない会話を炬燵で交わしながら、全員、その手は蜜柑が握られている。真経津だけ中身のない皮で遊んでいて、何かよくわからない創造物が生まれていた。
「餅といえば、正月だし小さい鏡餅をテラリウムにも飾ってきたんだよな……
「黎明、絶食している人間にいきなり固形物を与えると死ぬぞ」
「知ってる知ってる。でもそんなことも知らねーやつは観る価値もないだろ。帰って生きてるやつには七草粥でもやるよ」
「おい、正月から物騒な話すんな!」
「獅子神さんからの恵みだね〜」
「しかもオレが作んのかよ!」
 黎明が剥く。天堂が食べる。隣では獅子神と村雨によって同じような光景が判を押したように繰り返されている。冬になって蜜柑の登場により、皮を剥く人間、獅子神の取り合いという不毛な争いが連日行われたので仕方なく黎明が仲裁に入った。スマホを片手に天堂は剥かれた実を分けずに丸ごと食べている。
「ユミピコ、正月まで天罰下してんの……
「神の行いに休息日などない」
天堂は画面から目を離さず、一心に指を動かしている。あまりに速すぎて黎明でも動きが追えなかった。
また剥けた蜜柑を渡す。これが最後だと思った。
 天堂の食べる量を満足したか見ていたらわかるので黎明は剥く数を誤ったことがない。
そのはずなのだけど再び差し出された手のひらはあとひとつを要求していた。
追加で剥いたそのうちのひとふさを天堂はもいで黎明の口元に押し付ける。
ああそういえば。口角が上がる。缶は空になっていてちょうど喉が渇いたところだった。


 


二日目


 羽つきは天堂の独壇場である。相手に飛んでいく羽のあまりの速さに打ち返せないし、動体視力の良さで天堂の足元に落ちることは一度もない。
 黎明は何度か往復したのち敗北し村雨に至っては自分から飛ばした羽が相手に届いていない。真経津は打ち返した瞬間、あらぬ方向へと羽子板ごとすっぽ抜けて飛んでいった。
最後の砦である獅子神が惜敗したことにより全員の顔に神、と刻まれて、所有物が増えたような感覚に天堂はご満悦である。
「ユミピコ、もう一回もう一回!」
「いいだろう、黎明、こい」
何度かは打ち返せたが、やはり天堂の動きにはついていけなくなって、羽が遠くに落ちる。
「負けても嬉しそうだな、黎明」
「オレだけ違ったらそれでいいんだよ」
何を書くか迷っている天堂にそう言って笑った。






三日目


 黒いひとつしかない目がちょうどすぐ前にある。向かい合うといつもすこし下から向けられる視線が真っ直ぐ黎明を見ていて、普段よりずっとぞわぞわした。
寝台に押し付けても表情は見えるけれど、この脚の上、にいる体勢の方がよく見られて良いなと思った。
いつも目を引く赤い唇に今は色はなく、熱を帯びた吐息が短く溢れている。
それごと呑み込みように口づけて、中身を舌先で探る。
唇を合わせていても、離してもずっとその黎明を写し込む色が、目前にある。
締め付けられたわけでもないのに含ませているものが膨らんで中を広げる。曲げた口端から勝手に声が漏れた。
「そんなに善いのか」
「だってユミピコの目線がおんなじとこにある、し」
体が傾ぎそうになるのを片手で支えて、立て直す。
「おまえにいつ押し倒されるかで興奮するだろ」
させるつもりはないけど。油断するとすぐに主導権を握ろうとしてくるので、さっさと神さまを満足させるために、その体をゆっくりと揺さぶりはじめた。





「黎明」
 後始末を終えた後、まだ身を起こしたままの天堂に眠る気はないようだった。黎明は名前を呼ばれただけだったが、察しはついていたので立ち上がって台所に向かう。そのついでに風呂を沸かしておく。
「ユミピコ、カップ麺嫌いだろ、オレんちアイスくらいしかないぞ」
もぞもぞとその辺りに散らばる部屋着を身につけ、小さなテーブルの前に座った天堂はそれで文句はないようだった。
冷凍庫から取り出したアイスを三つほど天堂の前に置いてスプーンを渡す。
そのまま背後に回って、寝台に座った。乱れた髪が目に入る。
下になってやっているのだから事後は奉仕されて当然らしい天堂の髪を櫛で梳いてやる。
 どう見ても疲労感を感じている黎明より目前のアイスを全て平らげても物足りなさそうに思う天堂の方が体力が有り余っているのだが。
なんだか納得がいかないような気がして、しかし蒸し返すと立場が逆転してもおかしくないので黙すに限る。隠す気もない感情をただ口を噤むだけではあまり意味はないけれど。
「動けなくなったおまえを神が世話をしてやっても良いぞ、黎明」
「いーよ、オレは神さまの世話、嫌いじゃないから」
まあ、手入れしてると自分の所有物だと思えるしそれは悪くない気分である。黎明の、可愛い可愛い神様だ。
「相変わらず神に対して不敬だな、おまえは」
ほつれのとれた髪をみて、櫛を置いた。ちょうど天堂はアイスを食べ終わり、風呂が沸いた知らせが響く。
立ち上がった天堂はしかし、浴室には向かわず黎明の膝の上に乗る。黎明と目線が揃った瞳が愉快そうに揺れている。さっきはあんなによく思えたのに今は最悪だった。
「おまえが大事に愛でている物、なのだろう、さっさと運べ、丁重にな」
首筋に鎖のように絡んだ腕が重い、し嫌がらせなのか力を抜いて全体重をかけてくる。嘆息して、天堂の肩口に額をつけた黎明は、頭を撫で付けてくるその手のひらを振り払う気力もなく、諦めたようにその腰に腕を巻きつけた。