フリンズさんと夜の海辺をお散歩する話


 こんな夜中に出かけるなんて、久々かも。
 
「スターダストビーチまでお出かけしませんか?お勧めの時間は夜中になってしまうのですが」
 数日前、そんなお誘いをフリンズから受けた。夜中に連れ出すとは珍しいこともあるもんだ、と二つ返事で了承しておいた。これでも冒険者の端くれなので、一人でスターダストビーチまで向かう予定だったのだが、ナシャタウンから一緒に向かうことをなった。
――信用してないってこと?」
「そういうことではありません。ですが例えば、一人でワイルドハントに遭遇してしまったら、それぞれ面倒でしょう?」
 そう言われると、たしかに面倒ではあるので一緒に向かうことにも了承した。
 
 ナシャタウンの月神像の前で待ち合わせをして、スターダストビーチ方面へ歩くことに。今夜は特に邪魔入ることなく、到着できた。
「ワイルドハントや野盗などはともかく、動物にも合わないなんて珍しい夜だね」
「あぁそれに関しては……僕は動物達に好まれていないようでして、それが影響しているかもしれません」
「え、可哀想――
「何か言いましたか?」
「何も言ってないです!!」
 その低い声だして横目で見てくるのやめて!怖いから!
 
「さて、着きましたね」
「で結局、全然教えてくれないんだけど、ここに何かあるの?」
「はい、あちらの方をご覧ください」
 今日は曇も少ない月が綺麗な夜。海の水平線を見るようにと、フリンズは遠くを指を差す。すると、突然聞こえたバシャン!という大きな水音におどろいた。
「わぁーっ!なに?!」
 海の方を見ると、大きなイルカ達が水面をジャンプしていたのだ。すごい迫力!思わず見惚れてしまい、最初の感想以降は声も出さずに、私はじっとイルカ達を観察してしまう。
 
 ――少し時間が経った頃、そっとフリンズが声を掛けてきた。
「ここ数日のこの時間帯に、本来はもっとヒーシ島側にいるイルカ達が、この辺りを回遊していると耳にしましてね。貴女はこういうの、お好きでしょう?」
「うん、すごい好き。ありがとう」
「はい」
 まだイルカ達の泳ぐ姿、ジャンプする姿から目を離せずにいる私を咎めることなく、私の少し後方に彼が移動した気配がした。
 
 さらに時が過ぎたころ、私は岩に腰かけながらイルカ達を観察していた。そろそろイルカ達がヒーシ島側に帰る様子で、それを見守った。
「一つ、二つ、三つ……
「何を数えてるんですか?」
「イルカの数だよ、家族なのかなぁ」
「さぁ、どうでしょうか」
 フリンズの方を見ると、彼も岩に腰かけて海の方を見ていた。私が振り向くと同時に、こちらに目線をくれる。
「へへっ、連れてきてくれてありがとね」
「えぇはい。お気に召したようで何よりです」
 長い時間付き合わされたにも関わらず、フリンズは穏やかな笑みを浮かべていた。
 
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうだね。イルカ達も無事に帰れるといいなぁ」
「そうですね。きっと帰れますよ」
 近寄ってきた彼は、不意に私の方へ手を差し出す。
「帰り道は僕にお任せくださいね」
「大丈夫だよ、別に疲れてるわけじゃないからね」
「まぁそう言わないで下さい。夜は僕が得意とする時間ですからね。それに、ランプは暗闇を照らすためにあるものでしょう?」
……うん、そうだね。ではお言葉に甘えておきましょう」
 差し出された彼の手を取り、私はゆっくりと家に帰ることにした。
 
 
「もうすぐナシャタウンだけど、フリンズはどうするの?夜明かしの墓まで遠くない?」
「おや?泊めていただけると思ってました」
「えぇ、でもフリンズがあのベッドに入ると足出ちゃうよ?」
「ふふ、我慢して差し上げますよ」
「なんだってー?ひどい言い草だなぁ!」
 
 
 
『好きなことをする貴女の横顔が、僕は見たいだけです』