紫輝
2026-01-02 23:25:02
2768文字
Public リオヌヴィ
 

揃いの影で逍遥を

新しいお洋服を見て見てしたいヌ様とつがいが眩しくてずっと目がくらんでるリ殿と小旅行の約束の話。おべべのつくりとかりゆえにいる理由とか色々明らかになる前なので何でも許されるというつよいきもち。齟齬が出たらすみません。先に謝っておきます。ヌ様の新しいおべべどういう風になってるんですかねあれ

 入室の瞬間、リオセスリは目を眇めた。
「来てくれたか、リオセスリ殿。待っていた」
 そう口にして、ごきげんようと笑ったそのひとがあまりにも眩しかったので。
「急に呼び立ててすまない。あの子達が贈ってくれたこの服を、君に一番に見てほしかったのだ」
 休暇を使って璃月に行くのだとメリュジーヌ達に話したところ『ヌヴィレット様のお休み』に喜んだ彼女たちから楽しんできてくださいと贈られたらしい新しい洋服一式を纏ったそのひとに、どうだろうかと得意げに、期待したように向けられるきらきらとした笑顔と言葉の内容に追加の光源を差し出された気持ちになって、目を覆いたいのをなんとか堪えて口角を上げる。
「ごきげんようヌヴィレットさん。ちょうどあんたの顔が見たいところだったんだ。機会をくれて嬉しいよ。新しい服もよく似合ってる。さすがメリュジーヌのお嬢さんたちは、ヌヴィレットさんの良さの立て方をよく知ってるな」
 まるでこのフォンテーヌ中の泉から水を紡いで縫製されたかのような清廉で優美な装束は、けれど彼が常に纏う法服のような堅苦しさは感じさせない。愛する眷属たちからの贈り物という点を差し引いても着心地の良いものに仕上がっているように見える。綺麗だ、と口をつきかけた言葉をそのまま出力していいものか迷って二番目の賛辞を音に乗せれば、ヌヴィレットは嬉しげに、少しだけ胸を張って。
「ありがとう。君の眼鏡にも適って嬉しい限りだ」
 背部のデザインも美しいのだ、と後ろを向いてくれる。その手で前身へと流された白銀にひとつ、余計かもしれないことを思いついてしまった。
「ヌヴィレットさん、お嬢さん達からは前髪以外のヘアセットの指定とか受けてるかい?」
「ヘアセット。いや、あの子達は何も。なにか問題があっただろうか」
「いやいや。せっかくだし、髪型も変えてみたらどうかなと思ってさ」
 いつものふわりとした三つ編みもいいが、この服のシルエットにはもっとすっきりした髪型の方が合いそうだな、なんて思ってしまったのだ。見てみたいな、とも。頬を掻きつつそう告げてみれば、ヌヴィレットは君の見立てなら間違いはない、試してみよう、とうなずいてくれてから眉を下げた。
しかし、この髪が上手くまとまった試しがないのだ。君が思うようにはできないかもしれない」
「あんたの髪、好奇心旺盛だもんな。俺に任せてもらってもいいかい?」
……よろしく頼む」
 肩も下げてしまったそのひとにくつりと喉を揺らせば、むうと唸ったヌヴィレットは恥ずかしそうに顔を逸らす。ちらとこちらに寄越された視線に隠しきれない期待を見て、また光源が増えた、と心中で呟いた。水龍であるこのひとは、リオセスリが髪に触れる行為全般を好む。たてがみは龍にとって特別な部位だそうで、そこに番が触れるのは犬猫で言うグルーミングに近い感覚らしい。
 全幅の信頼と共に預けられた髪を丁寧に梳り、ヌヴィレット曰く前髪にしか使ったことがないらしいヘアオイルを後ろ髪に馴染ませる。あまり使い過ぎると重くなってしまい不快感を与えかねないので慎重を期して。主に似て好奇心旺盛で、けれども素直な白銀がふわふわと揺蕩うようだった姿を清流の如き姿に変えたところで、一度ほどいたリボンでまとめ直す。何の変哲もないローポニーテールだが、土台が良すぎるので何か凄い髪型に見えるのが不思議だ。
「どうだい? 俺は結構好きなんだが」
 手鏡を使って即席の合わせ鏡を作ってやれば、鏡の中のヌヴィレットが瞳を輝かせる。
「うむ。確かに君の言うとおり、こちらの方がこの服には相応しいと思える。ありがとう、リオセスリ殿。やはり君の言うことに間違いはないな」
 軽やかに立ち上がり、くるりと振り向き、ほわほわと花を飛ばし、ついでに首筋に懐いてくるそのひとの、堅苦しく上げられていない前髪が皮膚をくすぐってきてこそばゆい。ご機嫌が麗しすぎていつにも増してふわふわとしているその気配に意識して呼吸を深くしながら、気に入ってもらえて良かったと笑みを浮かべた。
「娘さん達からのプレゼントもあるんだ。いい休暇になるな」
 土産話楽しみにしてる、とこめかみに唇を寄せれば、ヌヴィレットの動きが止まる。
「リオセスリ殿、その、」
「ん?」
「君の、予定が許すなら共に、どうだろうか。この時期璃月で行われる海灯祭では、霄灯、というランプが宙に舞い上がる催しがあるという。とても美しいのだそうだ。君と見られたらと、思うの、だが」
 おずおずと上がったかんばせには遠慮と不安が陰りを作っていた。まさかのお誘いに一瞬思考が止まってしまった失態に、陰りは色を増してしまう。
「すまない。メロピデ要塞の長たる君のプライベートを押さえるのだ。もっと早くにアポイントメントを取るべきだった。この話は、」
「待った待った待った。聞かなかったことにはしないからな? あんたと旅行できる機会をみすみす棒に振るなんて勿体なさ過ぎることはしない。絶対だ」
「そ、そうか」
 絶対か、と、妙なところを反芻されて自分の必死さに気恥ずかしさを覚えたが、反芻するそのひとの、あまりにも嬉しそうな笑顔に覚えたそれはあっけなく霧散していった。
誘ってくれてありがとう。今のあんたみたいな洒落た服には持ち合わせがないからデート服はこの一張羅になるがそれでよければ喜んで。海灯祭は新聞でしか見たことないんだ。楽しみだよ」
 予定はなんとでもなる、心配しないでくれと是を返せば、陰を晴らしたヌヴィレットはよかったと微笑んで。
「衣服に関してはいつもの君で来てもらえると私も嬉しい」
 するりと腕の中を抜け出して、ハンガーに掛けられていたコートを手に取る。ふわ、とそれが翻り。
「あの子達はコートも仕立ててくれたのだがこうすると、君と揃いの佇まいに見えることに気づいたのだ。これで君の隣を、」
 ああ、ヌヴィレットさんの言葉を遮ってしまったなあ、なんて思いつつ、弾む声音と輝く表情に胸の内に噴き上がった衝動を抑え込むのはかなり、だいぶ、無理があった。肩に羽織ったコートごとヌヴィレットを捉えた腕に力を込める。困った。水龍という存在、際限なく可愛い。どうしよう。腹の底からため息をつく。ああそういえば少し前に口を滑らせて、看護師長に「アナタの水龍になったから可愛くなったのよ」なんてきゃらきゃら笑われたななんて思い出してしまって心臓への負荷を増やしつつ恋びとがよくするように頬をすり寄せると、ふふ、と声が跳ねて。
「君の隣を、歩いてみたい」
 よいだろうか、と。
 顔を上げ、途切れた言葉おねだりを言いきって期待に夜明けの瞳を煌めかせるヌヴィレットに、リオセスリは勿論と口づけを贈った。