望月 鏡翠
2026-01-02 22:58:12
939文字
Public 日課
 

#1951 泥の味を知るものたち1

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作

 他の部屋まで響く泣き言が、トルガの部屋に迫ってきた。
 お行儀の良い育ちの貴族の方々には、この主人にしてこの侍従あり。そう思われているのだろうな。
 心の中で皮肉をいい、しかしその存在には助かっているから、邪険にするほどその気取らぬ振る舞いに迷惑しているわけではなかった。
 彼は今、貴族の従者に相応しい振る舞いをジョアンからしっかりと教え込まれているところだった。彼は彼で、家令としての仕事があるからずっと新人教育に時間を割くわけにはいかない。使える程度になればいいと、任せてある。
 従者として覚えるべきは、礼儀作法だけではない。隣に立つのであれば、最低限の教養も必要になるし、政治のことも大まかにでいいから把握してもらわないと困る。
 読み書きはジョアンが教え、その他のことは持ち回りで教えているらしかった。まずは最低限。それさえ身につけたら、あとは実践の中でトルガの横で学べばいい。
 普段の仕事に追加して勉強の時間を取るというのは、大変な負担な負担だろう。しかし必要な教養を身につければ、貴族への近道になると唆せば彼は喜んで合意した。そのくせ、辛くなるともう嫌だと言って泣きながら逃げてくるのだ。
 彼が助けを求めてくるときは、概ねジョアンが教師役を受け持っているときだ。よほど厳しく指導されているのだろう。相性が良くなさそうな二人だし、トルガが気に入って侍従でしたということで日頃の鬱憤ばらしに使われているのかも知れない。
 必要なことを身につけてきてくれるのであれば、指導の種類はいうことはない。
 部屋に飛び込んでくるエリセオの泣き言を聞きながらトルガはため息をついて、書いている最中だった書状を一度伏せた。まだ文字を習い始めたばかりで、公的な書状の言い回しは読み解けないだろうが、どこから何が漏れるのかわかったものではない。
 まだ彼には、言っていいことと悪いことを判断する能力がない エリセオの問題点は、教養というよりは警戒心のなさだ。聞かれたことは知っていたらそのまま口にしてしまう。
 人の口に戸は立てられない。それを頼みに情報収取している身の上だから、よくわかる。
「トルガ様ぁ」
 ノックもなしに飛び込んできたエリセオを呆れた顔で迎え入れた。