プロローグ

虚構神話録KALMAの始まり


俺は、ヒーローになりたかった。

ヒーローになりたいと思った理由は憶えていないが……ただひたすらに"なりたいという訳ではない。

"正義の味方?"だと思っている訳でもない――
まぁ、そんなモノは成り行き任せな気紛れと惰性に過ぎない。
そう、俺はーー無力だ。

英雄になれないなら勇者ではなく一介の男として、ただの一人として歩こうとは考えていたのだ。
……だがそれは、この世界のルールに縛られるならばの話だ。

もしも――――【あの子】が生きていたら、きっと。

俺をーー……

……そう思った事が何回かある。



***

この世界に生まれた者は皆、何らかの異能と共に生まれる。
大概それらは成長とともに細胞ごと消滅するか、あるいはコントロールしていけるのだが逆に精神が疲弊したり虚弱体質者にも発現するケースが存在する。
それらが能力暴走のトリガーとなり、この世界で時々事件が起きている。

それを知る者は一般市民の何処にもおらず。
また、知る事もなく今日に至るだけなのかも知れなくはない。
しかし、最近は能力暴走事件が多発している。


ーーー



無明の八咫烏
現屋敷 幕鵺
Arayashiki Maya


事の始まりは数ヵ月前、治安はお世辞にも良くないが、そこそこ整った街の一角。
俺が配置された区付近ので不可思議な出来事が起きたことだ。


【本日のニュースです、近日未明、この街で能力暴走事件が立て続けに……

「正直多すぎんだよ……

携帯タバコからタバコを一本取り出し、それに火をつけて休憩しているが
こんなふうになったのは、いつの日からだろうか……

そもそも。 誰が、こんな事を始めたのか。

或いは何らかの組織がやった結果という可能性も捨てきれないくらいである程になってきてしまっている為、調べても分からないまま……だ。

もしかするとこれは能力の暴走ではなくて
―――"因果(カルマ)"だとか、そういう類いのものだと俺は思っている。

それは、まるで――……


ピロリン、ピロリン。

「やっほ〜、マヤ君元気かな〜?」

……なんだよ、社長」

いきなり電話をかけてきたのは俺が所属する会社の社長からだ。
この社長は中々の曲者で何を考えているのか解らないが――俺に目を掛けてくれていて、よく世話にもなっている。
勿論、他の奴らもそれなりに良くしてもらってるし、信頼されているのだが。
何故か、俺が一番世話になっている気がする。
そして、電話してきた内容は……俺にとってはあまり聞きたくないものだった。
まぁ、そんなことだろうとは思っていたのだが。

「ーー、依頼か?」

「うんうん、そゆこと。 場所は某区付近、詳しい資料はメールで送っておくから」

と、軽く受け答えをして通話を切る。

ふぅ、と息を吐くように俺はタバコの煙を吐いた。

一息つき空を見上げるとそこには雲が覆っていて青空が見えない光景が広がっていた。
雲一つない空は何処か不気味さを醸し出すがその景色こそが普通だ。
ただ単に、それが当たり前なのだから。
それに、空なんて気にしている暇も余裕もない。
今は、目の前のやるべきことをやるだけだ。


そうして、俺は立ち上がり、現場へ向かう準備をする事にした。
……それにしても今日は風が強い。
なんだか、嫌な予感がするな。

そう思いながら、メールに添付されていたファイルを確認する。
どうやら、今回の事件内容についてわかりやすく記述されている。

『能力暴走事件、ついに激化へ』

まず、一つ目の事件の被害者は男性二名、女性二名の計四名で、いずれも能力が暴走した痕跡が見られた事から同一犯の可能性が高い。
現場に居合わせた警察によると、犯行手口は突然体が動かなくなり痛みを伴った状態で意識を失い、その間に破壊行為を行ってしまうというものだと言う。
幸いにも、機動隊が頑張っている為目立った怪我などはない。

次に、二つ目の被害は若い女性だったようで、こちらも同じく突然体の自由を奪われた上に気絶するという、何とも言い難い状況だったという。
ここまで聞いて思ったことは……やはり何かの目的でこんなことをしているということであった。
何かの目的を持って能力者を狙っているのだろう事は解っているのだが、何故能力者だけを狙うのだろうか……

そもそもこんな事が可能なのは、もうーー。

「もしかしたら、この事件の犯人を見つけ出し拘束すればわかるかも知れねぇな」





プロローグ、終わり。