フリンズさんがお手伝いしてくれる話


 ――よっと。
 
 心の中で自分に掛け声をかけて、勢いよく大きな箱を持ち上げる。セールだったとは言え、少々買い込み過ぎた気がする。職場のフラッグシップまでが遠く感じる……
 肩から下げた大きめの鞄にも沢山食材などが入っており、手元の箱には貴重な外国産フルーツが山盛りになっている。せっかくなので、デミアンさんに良いカクテルなどができないか相談してみる予定だ。
 しかし、歩くたびにずれ落ちてくる肩紐に苦戦する。これだから撫で肩の人間には、肩掛け鞄はダメなんだよなぁ。出かける時の自分へ恨み言を言うことにした……今更ではあるが。
 
 ずれる肩紐を気にして箱を持ち替えようとした時、ガタンと揺れた箱からバブルオレンジが飛び出すのが見えた。
 あ、勿体無い――と思った瞬間に、後ろから腕が伸びてきた。
 
「ふぅ、ぎりぎり間に合いましたね」
……! フリンズさんっ」
 
 落ちかけたバブルオレンジは、彼の手の中に収まっていた。すごい!
「はい、こんにちは。随分と大荷物ですねぇ」
「えへへさすがに買い過ぎましたね」
「フラッグシップまでですよね。丁度これから伺う予定でしたので、ご一緒しても?」
「当店をご利用いただきありがとうございます!ぜひどうぞ」
 彼は少し頷いて、手にしていたバブルオレンジを箱に戻し、何事でもないかのようにそっと私が持つ箱を受け取る。
「では、僕はこちらを担当しますね」
「え!いや、自分でも持てるので――
「大荷物の女性の隣に、手ぶらな僕を歩かせないで下さいね」
 彼はそう言って、片目を閉じながらクスリと笑う。
……あ、ありがとうございますっ」
「えぇこちらこそ、手伝わせていただいて助かりました」
 お礼を言うのは私だけのはずなのに、うぅフリンズさんは良い人過ぎるね。
 
 フラッグシップの裏手に到着し、ようやく一息ついた。
「運んでいただいた箱は、こちらの入り口に置いて下さい」
「はい、こちらですね」
「とっても助かりました!一人ではフルーツをいくつ無駄にしていたことか
「ふふっ、その姿も想像できてしまいますね」
 フリンズさんは口元に手を添えて、クスクス笑っている。自分でもその姿が想像できてしまうので、あははと苦笑いするしか無かった。
「それでは次は是非、困った時は貴女からお声かけて下さいね」
……ぇえ?」
 そう言われてもなぁと曖昧な回答しかできない私を、彼は目尻を下げてニッコリ笑いながら見つめていた。そしてフリンズさんは少し屈んで、私の耳元でそっと囁く。
 
――お声かけていただくのを、心よりお待ちしておりますからね」
…………はいっ」
「良いお返事ですね。本当にお待ちしてますからね」
 そう言ってフリンズさんは後ろを振り返り、フラグシップの入り口の方へと歩いて行った。
 
 
 ひとまず今日のお礼には、お酒に合いそうなフルーツ盛り合わせを出すことにしようかな……?と、そんなことを考えながら裏口からフラッグシップ店内へと入る。
 さっき別れたばかりのフリンズさんが笑顔でカウンターに座っているのが見えて、思わずドキッとしてしまった。私へ向けて手を振られたので、手を振りかえす。
 ……さすがに早過ぎない?
 
 
 
『次のお手伝いは、いつになりますか?』