井見
2026-01-01 17:09:25
2636文字
Public ライドウ二次
 

ただの悪い夢

よりにもよって年の瀬にしんどい夢見たな〜な鳴海さんの雑談文です。
さいごに蛇足説明をつけてみました🐍

 夢を見ている。
 俺はライドウの両肩を掴んでいて、何度も強く揺さぶっている。何だかのっぴきならない状況らしく、ひどく焦っている。ライドウはといえば、いつもと何ら変わらない、探偵社の入口で門番をしているときの、むしろ欠伸でも噛み殺していそうなほど退屈そうな顔をしている‪──ように俺には見えている。多分俺の勘違いだ。馬鹿だなあ、ライドウのこの顔は、困っているときの顔じゃないか。唇がきゅっとなっているのをよく見ろ、俺。
 そんなことにも気づけずに、俺の口は好き放題動いている。なあ、無茶だ、みすみす死にに行くようなものだ‪、頼むから、だって? 俺はなんでそんなことを言うんだろう。ライドウは俺を振り払うでもなく、大人しく俺にぐらぐら体を揺らされている。俺はさらに焦る。このままじゃ、お前は‪──、やめよう、こんなこと‪──とかなんとか。俺は必死だ。だが今更な言葉だ。それは言わないと決めたはずだ。だからこれは、夢だった。
 ライドウは辛抱強く俺を待ってから、続きの言葉が出なくなったのを見計らって、肩を掴んでいる俺の手をすっと持ち上げる。ああ、そろそろ時間切れだ。俺はとうとう言う。あんな奴らのために、なんでお前が。‪──なるほど、今更言いたくなる気持ちもわかる。口が悪い、とライドウは呟く。おい、それも微妙じゃないか?
 お前はそのままゆっくりと俺の両手を自分の肩から下ろし、「どうせなら、また言ってくれませんか?」と言った。何を? 俺は困惑している。「お前にはできない、ではなくて」そんなこと言ったつもりはないのだが、そういう風に聞こえたのかもしれない。お前は凝と俺を見上げる。無理矢理な笑顔が浮かんでいる。誰の真似なんだ、と思う。俺は観念する。
 言うのか? 言ったら最後だ。ぎゅっと目を閉じて息を吸う。言ってやれ。無責任に、無遠慮に。とびきりの笑顔で。
 お前なら‪──。

   *
  
……初夢の逆ってある?」
 鳴海は頬杖をつきながら呟いた。指先でつまんだカップから珈琲の香りが漂うものの、それだけでは寝不足を解決することはできない。年の瀬らしさを全く無視して、いつも通りのトーストを皿に積んでみてはいるものの、まるで食欲がなかった。
 一方ライドウは、応接用の机でこれまたいつも通り朝食を摂っている。食んでいたトーストの最後の一口をごくりと飲み込んでから、
「聞いたことはありません」
 と律儀に答えた。
 鳴海は皿とカップを持ち、ライドウの向かいの席に移動した。手をつけていないトーストの皿を彼に向けてずいと押しやると、ライドウは無言で了解する。何枚目かもわからないトーストが少年の口に吸い込まれていくのを眺めながら、鳴海は続けた。
「初夢がその年の縁起っていうならさぁ、その年最後に見る夢はその年の総括、みたいな……
「良い夢なら良い年、悪い夢なら悪い年、と?」
「そうそう、そういうなんかがね……
『今から寝直して、気に入った夢でも探せ』
 窓辺で丸まっているゴウトが面倒そうに鼻を鳴らす。ライドウは鳴海に「もう一度寝たらいいのでは、と心配しているようです」と偏った情報を伝えた。
「そっか、日が変わるまでに新しい夢を見れば、気持ちよく新年を迎えられる……流石だぜ、ゴウトちゃん」
 ゴウトは尻尾を激しく振って抗議したが、鳴海は「じゃあお早い昼寝でも……」と机にもたれる。言葉通り、鳴海は眠そうだ。それに鳴海は今のところ気持ちよく新年を迎えられないらしい。ライドウは鳴海の状況を想像することに成功した。
「悪い夢を見たのですか」
 ぽつりと放たれた質問のあと、ぱり、とトーストの食まれる音が響く。彼の指先が口元についたパン屑を拾い上げる様子を鳴海はたっぷりと見つめた。悪夢だったのだろうか。わからない。それっぽい夢だったし、嫌な夢だった。何が嫌って、いつかあり得そうなことがだ。
 鳴海は重たい口を開いた。
「そう、ひどい悪夢だったわけ。
 ゴウトちゃんがなんか怒ってて、俺がしこたま引っ掻かれているだけの……。朝起きて、今年一年はゴウトちゃんに怒られる年だったというわけか……と思うとがっくりきてさあ」
『なるほど、単なる正夢にしてやっても良いがな』
「既に概ね正夢では……
「いや! まだ間に合う、かもしらん。今から俺は二度寝する。これで迎え撃つ」
「それでも悪い夢を見たら、良い年だったと言えなくなってしまうのですか」
 ライドウは再び最後の一口‪──今度は鳴海から渡された皿の‪──を頬張った。さっき見たばかりの光景は、鳴海に強烈なデジャヴをもたらす。ああともいやとも言えないまま、ライドウの咀嚼を見守っていると、彼は最後に珈琲を飲み干した。舌先で唇をほんの少し舐め、
「ただの悪い夢でしょう」
 違いますか、とカップを置いた。


🐍蛇足説明🐍
・ライドウが大変な目にあっていそうな夢
悪い夢と言い切ってしまうのもなんだかライドウに失礼だけど、目覚めは悪いこと間違いなし。年の最後にやたらリアルでしんどいものを見た……のをライドウたちがまだ探偵社にいるせいだっていう話の流れにしようとしましたが、無限の雑談になるのでやめました。

・というか年末年始にライドウたちは探偵社にいるのか?
まあ年末年始に何が起こるともわからないし……という気持ちや、お里本体で何か行事があるなら旧暦依存なんじゃないか?とか……あと鳴海さんは帰る場所なくてさびしいので……いてもらいました。

・それは言わないと決めたはずだ
超力で言うべきことをあらかた言っている上にライドウは止まらなかったので、もうそういう系は言わないように控えている→✨お前ならできるさ✨がでたかな〜&アバ王のいい部下をもったねえ系のセリフが増えているといいな〜という妄想があります。

・なめらかに誤魔化す鳴海
鳴海さんは凄腕なのでいくらでもなんでも自然に取り繕えるはずだーーっっと思い込んでいます。でも嘘ついてるな〜というか無理してるな〜はアバ王でもタヱちゃんが気づいていたし、その方向の場合は意外とみんな気づいているのかも、という温度感だと……いいねと思っています。

・ただの悪い夢
たかがしんどい夢見ただけで!!これまでの俺たちの日々は!!悪いもんだったことになんのかよ🔥🔥って、鳴海に言われたから仕方ないんだよ!!系の口調のライドウくんは言ってました。




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