モモハナ
2026-01-01 17:02:17
2685文字
Public
 

プレゼントは魔法のように

黒様お誕生日おめでとう御座います!!<一日遅れ
ふ、とネタが浮かんだので書いてしまいました。
まさかの堀鍔・黒ファイです…! ただ堀鍔に関してはX(ついった)君で見聞きした情報ぐらいしか知識がないので、ほぼ捏造です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

「一人じゃ寂しいから、一緒に年越ししようよ」
 最初のきっかけは、職員寮の隣に住む化学教師のそんな些細な一言だった。
 ファイから誘いを受けた時、黒鋼はどの道帰省するのは正月になってからだし、それは別に構わないと特に否定する要素もなかったので二つ返事で了承した。
 その後で、お前は年末帰省はしないのかと聞き返した黒鋼に、ファイはんー、と考えるような素振りを見せてから、ここしばらく年末は帰ってないと答えた。
 それと言うのも、ファイの出身地は日本国外のイタリアで、帰国するとなるとそれなりに時間とお金が掛かるからという理由で年末は帰国せずに日本で過ごしているのだとファイは気にする風でもなく黒鋼に話して聞かせた。
「帰るとしたら夏休みの時かなぁ」
 夏休みなら長期の休みが取れるから帰りやすい、とファイは昼休みに押し掛けた体育準備室で紅茶を飲みながら呟いていた。
 何か事情があって帰省しない訳じゃないのならいいかと、改めて年末年始を共に過ごす約束を交わしたのが三年ほど前の事。
 それからと言うもの、黒鋼とファイは特に約束したわけでもないのだが、毎年、年末年始はどちらかの部屋に集い、共に過ごすのが当たり前になっていた。
 しかし今年はいつもと違い、黒鋼は一人で年末を過ごすことになった。
 何故かといえば、今年は件の化学教師ファイは、春先に新しく赴任してきた家庭科教師の双子の弟・ユゥイと数年ぶりに帰国したからに他ならない。
 ファイから今年はユゥイとイタリアに帰国する旨を聞き、それならば黒鋼も今年は実家に帰省しようかとも思ったのだが、そもそも黒鋼が毎年帰省していなかったのは学生寮に残っている生徒達が滞りなく冬休みを過ごせるように手の空いている教員たちでの監督業務の一環でもあったからだ。
 遠方からこの堀鍔学園に赴任してきている教師も多く、夏休みや年末年始にくらいは帰省したいという気持ちは黒鋼にも分かる。それに、黒鋼の実家は東京から新幹線で二時間ほどで行ける場所にあるため、そこまで急くことも無いだろうと思いなおし、例年通り年が明けてから帰省することにしたのだ。
「今年はうるせえのがいなくて清々するぜ」と、数日前に帰国するファイとユゥイを見送る際に宣った黒鋼にひどーいとむくれていたファイとのあの会話もすでに懐かしい。
 最後の仕事を終え、学生寮の見回りをしてから帰宅した黒鋼は、コンビニで買ってきた海老天入りの年越しそばを食べて、風呂も済ませるとファイが作り置きしていったつまみを肴に熱燗を飲み始めた。
 いつもなら、料理上手のファイがその場で作ったつまみや、正月用に作った煮物などを味見してーと言いながら振舞ってくれるのだが、今年はその件の相手がいないのでそれもない。
 清々すると思っていた筈なのに、逆に静かな空間が何となく落ち着かなくてテレビを付ければ年末恒例の歌合戦の番組がやっていた。
 番組はすでに佳境の様で、メイン司会者がまもなく最終審査が終わります、などとマイクを片手に熱弁を振るっていて、それに合わせるように画面が忙しなく切り替わる。
 毎年この日だけはちょっと良いものを、と厳選して購入した日本酒はとてもまろやかで口当たりがよく、ファイが用意しておいてくれたつまみともとても良く合う。
 黒鋼は最初の一杯を一気に飲み干すと、そのまま二杯目を注ぎ入れた。
 熱燗を徳利から猪口に注ぎ、飲み進めているとあっという間に用意していた分を飲み切ってしまう。
と、もう終わりか。仕方ねぇ、もう一回作ってくるか」
 空の徳利が乗ったお盆を片手に立ち上がった丁度その時、ピンポーンと呼び鈴が室内に響き渡った。
「あ? 誰だこんな時間に
 大晦日の夜も更けようという時間に突然鳴らされた呼び鈴に黒鋼は眉を顰める。
 時間が時間だし、こんな非常識な時間に来るような知り合いもいないし、と無視を決め込もうとした黒鋼だったが、それを拒むかの様に再度ピンポンと呼び鈴が鳴らされる。
 しかしそれも無視して、徳利の乗った盆をキッチンに運んでいるとまたしても呼び鈴が鳴らされる。
「あー、もう、うっせぇなぁっ」
 数回鳴らして応答がないようなら諦めて帰るだろうと思ったのだが、この突然の来訪者は諦めるどころか尚も呼び鈴を押し続けていて、黒鋼は鳴り続ける呼び鈴にちっと小さく舌打ちすると持っていた盆をステンレスの調理台の空きスペースに置いた。
 この際だから文句を付けてやろうと苛ついているのを隠そうともせず、足早に玄関まで歩いていくと黒鋼は手早くチェーンロックと鍵を開けてドアノブを引っ掴むようにしてドアを開いた。
「いい加減にしやがれ!! 今何時だと思ってやがる!!?」
「良かったぁ、全然返事がないから黒ぽん先生もう寝ちゃったのかと思ってたよぉ。あ、今ねぇ23時55分! こっちもギリギリセーフだね‼」
……は? お、まえ何で此処に? イタリアは?」
 ドアを開けた瞬間に黒鋼の目に入ったのは、青いスーツケースを傍らに置き、淡い金髪とアクアマリンを彷彿とさせる蒼い瞳をキラキラとさせた隣人の化学教師の姿で。
 今は祖国にいるはずのファイの姿に先ほどまでの怒りはすっかり消えうせ、黒鋼は信じられないとでも言うように目を瞬かせた。
「えへへ~、黒りん先生のお誕生日のお祝いしたかったから、超特急で帰ってきちゃった」
「お前なぁ……。それならそうと連絡くらい寄越せ阿呆」
「先に連絡しちゃったらサプライズになんないでしょ?」
 ニコニコと悪びれることなくそう宣うファイに、黒鋼はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
 はぁ、と小さく息を吐くと、黒鋼は左手でそっとファイの頬に触れた。
 すると、掌に伝わるひやりとした感触に、ファイの身体が冬の冷気ですっかり冷えているのが伝わってくる。
「とりあえず中入れ。ココアくらいなら入れてやれるから」
 これ以上、真冬の屋外にいさせてファイに風邪でも引かせでもしたら、後から帰国するであろう彼を溺愛する双子の弟に嫌味を言われるのは目に見えている。
 ファイの足元のスーツケースを手に取り、中に入るように促すと遠くからゴーンという大晦日を締めくくる鐘の音が聞こえてきた。
 その音を合図にする様にファイは黒鋼の胸に飛び込んだ。
「黒たん先生、お誕生日おめでとう。大好きだよ」
 黒鋼に抱き着いたまま、極上の笑顔で誕生日を祝う言葉を告げると、ファイはそのまま僅かに伸び上がると彼の唇にそっと口付けた。