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月希
2026-01-01 15:05:05
2042文字
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夢小説
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月明かりは未だ届かず
荀攸→アプリ主夢。荀攸視点
1人で抱え込むアプリ主と、彼女に好意を抱いてる荀攸の話。明るくはない。
25/09/01
ふっ、と突然帳を下ろされたかのように、辺りが暗くなった。
伏せていた顔を上げれば、今まで光があった場所
――
年季の入った燭台から、ゆらゆらとか細い白煙が立ち上っていた。
長かった蝋が燃え尽きるまでの間、策を練るのに没頭していたようだ。
もう少し戦術の細部を詰めたいが、飾り窓から差す月光が床に落とす影の具合からして、すっかり夜は更けている。これ以上長引けば、次の軍議に障る。
どうしたものか
――
逡巡の最中、不意に懇意にしている女傭兵の顔が浮かんだ。
彼女は今、どうしているだろう。夢の中か、はたまた夜警にでも駆り出されているか。
逸れた思考は迷いを払い、自然、身体を突き動かした。
己の手と闇の境界も不確かな暗い部屋を出て、煌々とした月明かりの下を行く。
たとえ彼女が部屋にいたとて、非常時でもないこんな真夜中に訪う理由はない。
ただ叶うなら、一目彼女の姿を見たい。一言でも彼女の声を聞きたい。そう思ってしまった。
足音を消し廊を幾度か曲がった先
――
中庭の池に面した高欄に、思いがけず彼女の姿があった。
「
――
傭兵殿」
知らず口をついた呟きは、日中の暑さの余韻が残る温い夜気を伝って、彼女に届いたようだ。
やおら振り返った彼女は「こんばんは、荀攸殿」と微笑んだ。
控えめな笑みは夜半だからか、何かを憂いていたからなのか。尋ねようとして、
「荀攸殿、また策を練るのに夢中で時を忘れていたんですか?」
少しの呆れを含んだ彼女の声に、遮られた。
彼女が意図してそうしたのかはわからないが、やはり声音にいつもの明るさが感じられない。
「
……
ご明察の通りです」
「やっぱり。戦術を考えるのもいいですけど、自分の身体の事もちゃんと労ってくださいね」
「ええ
……
そうします。あなたも、ご自愛ください。何か
……
俺に出来ることがあれば、いくらでも手を貸します。他ならぬあなたのためなら、喜んで」
心配のあまり、少し意気込み過ぎたか。やや早口になった自覚はあった。
彼女は他人の事はあれこれと気にかけ世話を焼くが、自分の事は後回しにするきらいがある。そういった所が気がかりであり、もっと頼ってくれればと、もどかしさもあった。
彼女に伝えた「一蓮托生」は何も、あの一時だけを示した言葉ではない。この先もずっと仲間として
……
更にもっと深く、強固な関係を結んで行きたい。
「ありがとうございます。荀攸殿にそんなに気にかけてもらえて、嬉しいです」
彼女は照れたように笑い、髪を耳にかける。
よく変わる表情から一見分かりやすい様でいて、その実、彼女はのらりくらりと追求を躱し、なかなか心の内を見せてはくれない。
短い付き合いではないというのに。
もどかしさに突き動かされるまま、その細く白い手を取って彼女を掻き抱けば、この胸を埋め尽くす熱が伝わるだろうか
――
沸き起こった感情のうねりは、いつも通りの無表情で押し隠す。事を急いて彼女の意思を蔑ろにしてはならない。日に日に身を焦がし膨れ上がる好意は、あくまで一方的なものだ。双方向ではない。今は、まだ。
「俺は、社交辞令は言いません。あなただからこそ、言葉を
……
心を尽くしたいと思うのです」
失礼。一言断りを入れ、彼女の頬に触れる。
彼女はびくりと肩を揺らすこともなければ、身体を引き逃げるような素振りもない。
信頼
――
されているのだろう。それ自体は喜ばしいが、男として意識されていないのは考え物だ。
「
……
荀攸殿?」
「夏とは言え、長い事夜風に晒されていては身体に障ります。眠れないのであれば、一献付き合います」
「ふふ。魅力的なお誘いですけど、今日は辞めておきます。また今度、一緒に飲みましょう」
春の日差しの如く穏やかに微笑んだ彼女は、腰を下ろしていた高欄からひらりと飛び降りると、足取り軽く自室へ帰って行く。
揺れる髪と華奢な背を、ただただ視線で追う。
彼女の意識を囚えていたものは、多少なりとも和らいだのだろうか。そうであれば良いが
……
。
気にかかるあまり不躾に見つめすぎたのか、扉を開けた彼女はこちらを見て苦笑気味に「おやすみなさい」と手を振った。
「おやすみなさい。
……
良い夢を」
小さな音と共に扉が閉まり、彼女の足音が遠ざかって行く。
自分も部屋へ戻らなければ。気配に敏感な彼女の事だ、このままここに居ては眠りを妨げてしまう。
しかし頭では理解していても、身体はなかなか動こうとしない。心とは難儀なものだ。
ついさっきまで彼女がいた高欄に手をつき、短く息を吐きながら夜空を仰ぐ。
いつか彼女の許しを得られたら、秘匿されている心の奥底に触れたい。彼女が何を憂い、何を怖れ、何を思っているのか知りたい。
無理に暴くのではなく、彼女自身の口から抱えているものを打ち明けられたい。
そうして、何人も介在出来ない深い繋がりを築きたい。
「いつか、必ず
――
」
彼女からの好意を、勝ち得てみせる。
決意に拳を握り、月影に背を向けて踵を返した。
*終わり
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