koto
3255文字
Public れめしし😈🦁
 

2026正月SS

新年朝のれめしし
突貫で書きましたが季節ものということで!
獅子神さんが「してやったり」になってます

 日本という国は大昔から他所の文化を取り入れ、独自のスタイルへと発展させる国民性を持つ。それはイベントにも言えて古くはクリスマスに始まり、ハロウィンもだいぶ市民権を得て、その派生で死者の日なんかも知られるようになってきた。イースターもサンクスギビングデー由来のブラックフライデーもなんとなくだが認知されてきている。
 こんなにも目新しいイベントが増えていく中で、それでもやっぱり日本人にとって正月というのは特別らしい。年の瀬になると一年の総決算とばかりにテレビは特番だらけになるし、スーパーでは食料品が正月用の包装を纏い、年が明ければ有名神社は初詣客でごったがえす。どこもかしこも正月気分で溢れかえっている。
 
 一年の計は元旦にあり、なんて言うが案外間違っちゃいないのかもしれない。獅子神はカーテンを開けながらそんなことを思う。
 一月一日、朝。清々しいくらいの快晴。陽の光が直接室内に差し込むと、そこここで小さくうめき声が上がる。ブランケットにくるまったのが二体。突然の眩しさにイモムシのようにうごめきながら日光から顔を逃し始めてた。真経津と叶だ。昨夜は大晦日で年越しをしようと獅子神宅の一室をたまり場にしていた。
 なんでウチなんだよっ! なんて文句も既に出ない。去年を振り返っても、年の半分くらいは誰かしら家に居たからだ。あまりに当たり前の顔で出入りをするものだから回数をわざわざ数える気にもならなかった。回数増加の一因は昨年から付き合い始めた叶の来訪がぐんと増えたことも大いに関係しているのだが。
 
 大晦日、思い思いのタイミングで姿を現した面々は八時くらいには揃っていた気がする。オードブルを食べながら年末番組にチャチャを入れ、ボードゲームで四人が獅子神をカモにして、小腹が空いたと言われ作ってやった夜食が口に運ばれていった。そうして日付が変わった瞬間、どこに隠し持っていたのかクラッカーが鳴らされて、獅子神の怒声まじりに賑やかな新年の挨拶がかわされた。
 年が明けて少しすると天堂は客間に引っ込んでいった。美容におけるシンデレラタイムを逃すことは罪深いことらしい。
 村雨はソファからまさしく高みの見物とばかりに真経津と叶のゲーム盤面を眺めていたが、テーブルでスマホが震えだしたことで、それも終わりを告げた。
 職場の人間相手に丁寧な言葉遣いで電話に応じながら一旦廊下へと出て、数分後に戻ってきたときには深々とため息をついた。その場の全員が病院からの呼び出しを確信する。終わり次第戻ってくるということだったが、おそらくは昼前後。元旦と呼べる時間帯に戻ってこられるかどうかは微妙なラインのようだった。
「いい加減キリのいいところで部屋戻って寝ろよ」
 獅子神もそろそろ翌日に差し障りそうで、ブランケットをソファに二人分置いて部屋に戻った。空調も効いているからそこまで寒くはないはずだ。
 端からこの二人に片付けは期待していない。部屋に戻って寝ていたら及第点だったが、念のため置いていったブランケットが活躍する羽目になっていたらしい。

 獅子神は改めて床とソファに転がった二体が朝の光に晒された様をを眺める。二人とも夜明けの名前を持ち合わせているくせに、ご来光とかにはとことん縁遠そうだななんて思いながら。
 朝ではあるが急いで起こす理由も特にない。獅子神は散らかった食器や空き缶の類を集めて部屋を出ていった。
 

 正月とは言え、一日の間にやることはそう大きく変わらない。衣食住に関する営みは日々行われる。イベントは食事や家の飾り付けが多少変わるくらいだ。
 そんな中で、正月ならではを感じさせる一つが年賀状だった。毎年発行部数の減少が小さくニュースで取り上げられがちだが、たしかにここ数年で減ったなと思う。獅子神のもとに届くのはもっぱら仕事関係か、もしくはよく利用するショップからくる販促を兼ねたものだ。
 獅子神は郵便受けに届いていたそれらに書斎でざっと目を通す。確認し終えたものは机の上へ。機械的に動いていた獅子神の手がピタリと止まった。
 手にしたハガキには手書きの文字で近況報告が二行ほど添えられていた。昔、獅子神が開放した債務者のうちの一人だ。獅子神から連絡を取ったことは一度も無いが、送り主はこの家を出て行ったあともお中元に暑中見舞い、お歳暮にとなにかと律儀に送ってくる。今はどうやら実家の家業を継ぐべく下働きに勤しんでいるらしい。

「ナニソレ。元奴隷?」
 顔の真横に気配を感じたのと数センチあるかないかの距離で声を発せられたのはほぼ同時だった。
 ビクッッと大きく身体が跳ねたのが自分でも分かる。肩口から顔をのぞき込ませた叶が獅子神の手元に視線を落としていた。
「オッマエ! 普通に入って来られねぇのかよ!?」
 別にやましいものでもないが、手に持っていた年賀状を残りの分も含めて机の上に放りながら獅子神は背後を振り向く。いくらドアに背を向けていたとはいえ、ここまで気配を消すことができるものなのか。化け物じみた部分を再認識させられる。
 叶はと言えば、視線はさっきの年賀状に注いだままで口を開く。
「敬一君、オレわざわざ北海道まで新入居者迎えに行くのとかダルいんだけど」
 ――コイツしっかり住所記憶してやがる。
 机の年賀状は通信面が上向きになっているというのに、どこかのタイミングでしっかりチェックしていたらしい。
 叶ならそれくらい造作もない。頭では分かっている。驚きはしないがそれでも内心少し引く。その発想と本気で遣りかねないあたりに。
 じゃあ行かなきゃいいだろう。と言いたいところだが、そういう話じゃないんだろう。
「ただの近況報告兼ねた年賀状だぞ? 別にオレから送ってもねぇし」
 そこまで目くじら立てるほどのことかと言外に含ませるが、叶の不機嫌顔はそのままだ。
「さわやかな新年の朝一発目に見た恋人の顔が別の男からのハガキ見て微笑んでたオレの気持ち考えてもそう言えるか?」
「あー、そいつは災難だったな」
 さわやかな新年の朝に床で転がってたヤツがもっともらしいこと言ってるじゃねぇか。そう思わなくもなかったが、言って事態が好転するはずもないので口にはしない。

 それだけ怨念を込めて視線を注いでたら発火でもするんじゃないだろうか。そんなくだらないことが頭に浮かびつつ、獅子神は元凶を机からつまみあげる。
 真ん中に両手の指を添え、叶の目の前で真っ二つに破る。ハガキ特有のもそりとした感触を指に覚えながら、重ねて破ってを二度三度と繰り返す。結果、大ぶりで不細工な紙吹雪ができあがりゴミ箱の中へヒラヒラと舞っていった。
 最低限、といったところか。目の前の男の機嫌が悪化することはなかったが、依然としてヘソは曲げたままらしい。その辺の人間なら恐怖すら覚えるようなありさまだが、獅子神はそんな叶に思わず吹き出した。

 苛立ちに塗れた叶の顔に少しだけ怪訝さが滲む。
「なに笑ってんの」
「いや、オマエ寝起きでまだ頭働いてねぇんだなって思って」
 獅子神の言葉に叶はますます不可解そうな顔をする。
 獅子神はたしかに叶の言うとおりハガキを見ていたし、もしかしたら微笑んでもいたかもしれない。ただ、そのとき浮かんでいたのは差出人の顔ではなかった。
「北海道。なんか美味いものとかも多いし、今年はオマエと行ってみるのも悪くねぇーかなって思ってたんだよ」
 獅子神の言葉に叶の顔から毒気が抜かれる。そうして浮かんだのはなんとも言えない表情で。なかなか拝めない様子に獅子神はニヤニヤ顔だ。
「新年早々、自分に嫉妬してんだから世話ねぇな!」
「あー……もう」
 ご機嫌な獅子神に叶の腕が伸びてきたかと思えば、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。思い違いの照れ隠しもあるのだろう。いつも一枚上手な恋人を珍しくからかえる機会に、今年は幸先がいいかもしれないなんて考えた。


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マシュマロ
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