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ugatuno
2026-01-09 19:00:00
2425文字
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二次小説
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その心臓は世界のかたち 25話
——
朝だった。
薄いカーテンの向こうで、光がやわらかく広がっている。
それが目の裏に触れて、ジンペイはゆっくりと意識を浮かせた。
「
……
っ
……
」
瞬きが、思った以上に重かった。
まぶたが腫れぼったくて、焦点が合わない。
目が覚めたというよりは、眠ることをやめたに近かった。
——
痛みはない。
けれど、身体の奥底が異様に重い。
筋肉じゃない。骨でもない。
もっと奥
……
内臓そのものが、疲れ切っているような感覚。
「
……
ふ
……
」
息を吸う。
浅い。思ったよりも、肺が広がらない。
それでも、目を閉じていたときよりはマシだ。
そう思おうとした。
——
けど、次の瞬間。
「
……
あ」
喉から漏れたのは、
自分でも驚くほど情けない声だった。
腕が動かなかった。
いや、動かそうと思えば、きっと動く。
でも、力が入らない。
肩を持ち上げる気力が、どこにもなかった。
目だけを動かして、天井を見た。
見慣れた病室の天井。
一度はこの天井を見上げながら、「もう起き上がれそう」だと思ったのに。
今は、あのときよりもずっと遠くに感じた。
「
……
また、
……
戻ってんのかよ
……
」
そう呟いたつもりが、声にならなかった。
喉が詰まって、空気だけが漏れていった。
胸の奥には、まだ“何か”がある。
息をするたびに、そこがギュッと抑えられる。
苦しいわけじゃない。
でも、“全快”とは程遠い。
頭も、うっすらと重い。
霧がかかったような思考の中で、
ジンペイは、自分がいま「どれくらい動けないのか」を確かめようとした。
指を、少しだけ曲げてみる。
反応はある。
でも、そこから先が動かない。
……
ナースコールには、たぶん届かない。
「
……
なんだよ、またかよ
……
」
今度こそ、言葉になった。
でも、誰に向けるでもない、独り言だった。
——
せっかく、スープ飲めたのにな。
——
コマくんに、ちょっとだけ元気な顔見せられたのに。
そう思った瞬間、
胸の中に、ジワッと何かが広がってきた。
怒り?悲しみ?
わからない。
ただ、無力さだけが、ずっしりとのしかかっていた。
——
俺、また戻ってんじゃん。
また、動けないあの時間に。
何日も、天井を見上げて、起き上がれなくて、
呼吸を整えることで精一杯だったあの時間に。
「
……
っ
……
くそ
……
」
まぶたを強く閉じる。
でも、それだけで体力を使う。
浅い呼吸が続く中、
ジンペイは、ただ天井を睨みつけていた。
窓の外はもう真っ暗で、街の光がぼんやりとカーテン越しに差し込んでいる。
時計の針が何時を指しているのか、ジンペイには分からなかった。
分かろうとも思えなかった。
——
重い。
身体が。胸が。
呼吸ができないわけじゃない。声も出せるし、痛みだって一瞬のものだ。
でも、それでも
——
ずっと鉛みたいに圧し掛かってくる。
「
……
っ
……
ぅ、
……
くそ
……
」
小さな声が、喉の奥でこぼれた。
ベッドに横になったまま、ジンペイは胸のあたりに手を当てていた。
温度があるはずなのに、そこは妙に冷たく感じる。
何かが、自分の中でズレてしまっている
——
そんな感覚だけが、ひたすらに鮮明だった。
「
……
俺
……
なんで、こんなこと
……
」
ひとりごと。
誰にも聞かれない。
聞かせたくもない。
——
やっと目を覚ましたのに。
——
また動けるって思ったのに。
——
スープも飲めたし、笑うこともできたのに。
なのに今、身体はまた深く沈み込んでいて、
胸の奥は何かを思い出すように痛んでいて、
言葉にできない絶望だけが、息の隙間から染みてくる。
「
……
やっぱ、ダメだな
……
俺
……
」
誰にも聞かせないつもりの声が、かすかに震える。
「
……
なんかもう
……
“ヒーロー”って、何だったんだろうな
……
」
笑えなかった。
いつもなら、ここで軽口を挟めた。
適当に茶化してごまかせたはずだった。
でも、今のジンペイには、それすら出てこない。
「
……
さむ
……
」
毛布を引き寄せようとしたけど、腕が重い。
ちょっと持ち上げただけで、肩がギシッと軋んだ。
「
……
なんで
……
俺が
……
」
誰にも聞かせるつもりのない、問い。
——
選ばれた意味なんか、知らない。
——
戦いたくて戦ってたわけでもない。
——
ただ、“助けたかった”だけだったのに。
それが、なんでこんな形になるんだよ。
「
……
父さん
……
」
かすれた声で、ぽつりとこぼれた名前。
でもすぐに、ジンペイは目を閉じて、唇を噛む。
父さんが悪いわけじゃない。
誰かのせいにしたかったわけでもない。
ただ
——
「
……
たすけたのに
……
俺
……
」
かすかに震える声と一緒に、目尻から熱がこぼれた。
やっと流れた涙だった。
喉が詰まって、呼吸が浅くなっていく。
けれど、声を重ねようとした瞬間、胸の奥がずしりと軋んだ。
「
……
っ、く
……
」
心臓の鼓動が一拍ごとに鋭く刺さってくる。
息が吸えない。喉の奥が乾いて、空気が通らない。
耐えきれず、咳き込んだ。
「ごほっ、
——
ごほ、ごほっ!」
肺の奥がひっくり返るみたいに震えて、舌の先に鉄の味が広がる。
視界がかすんで、腕を持ち上げた指先まで震えていた。
涙はまだ残っているのに、もう流れなかった。
息をするだけで胸が裂けそうで、それどころじゃなかった。
横隔膜が勝手に痙攣する。
肩が上下して、酸素を掴もうとしても掴めない。
「
……
っ
……
は、
……
はぁ
……
」
それ以上、声は出なかった。
泣くことすら、まともにできない。
自分の身体が、自分を裏切っていく。
――
なんで、今まで、こんなに頑張ってきたのだろう。
(
……
もう、いいや)
思った途端、胸の痛みも、息の詰まりも、少し遠くに消えた。
手放したら、全部どうでもよくなった。
苦しいのも、悔しいのも、もう自分のことじゃないみたいだった。
……
それでいい。
そう思えたのが、怖いとも思えなかった。
まるで、夢の続きに落ちていくみたいに
——
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