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ニイナ
2025-12-31 22:59:50
5502文字
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ぼくらは真夜中に語り出す
転生パロのロドフの続き。まだ若様視点が続いてます。
すこしずつ、寄り添って近付く二人になればいいな。
眠りに沈んでいた意識がぼんやりと浮かび上がり、ドフラミンゴはそろりと瞼を開いた。よくある天井は、けれどもドフラミンゴの知るものではなく、一瞬だけ記憶が曖昧になる。ただそれも本当に一瞬で、ぱちりと瞬きをくり返せば今の状況が理解できた。カーテンの引かれた窓の向こうはまだ夜の気配が色濃く漂っていて、時間がわからなくとも夜が深いことがわかる。そんな時間になっても寒さの感じない室内は暖房がよく効いているのだろう。そういえばこの部屋に上がった時も、寒さを感じなかったなとドフラミンゴは思い返していた。ローがそれほど寒さに備えているとは思えないので、つけられていた暖房もドフラミンゴのためなのかも知れなかった。
そんなことを意味もなく考え、ドフラミンゴは冴えてしまった頭を持て余し、とりあえず何か飲もうかとベッドを出た。ぺたぺたと部屋を歩いてドアを開いてリビングへと向かえば、そこにはラグの上で眠るローの姿が見えた。ラグの上とは言え床で寝ては身体が痛いだろうし、仮にホットカーペットがあるにしても寒いのではないか、とドフラミンゴは眉を寄せる。ローが包まる毛布は厚手のもので保温性がありそうではあるものの、ローがかぶるのはそれだけだった。ロー自身の防寒というものを考えられていない状態に、嘆息しそうになり、ドフラミンゴはそれを呑み込んだ。ローがリビングで寝ることになったのは、ドフラミンゴがベッドを占領したからである。一緒には寝ない、と宣言して突き付けたドフラミンゴの意思を尊重したのか、はたまた何も考えずにいたのかはわからないのだが、ローが床で眠る理由は間違いなくドフラミンゴにあった。
律儀なことをするものだと思いつつ、それも仕方のないことだとも思う。ローに半ば強引にこの部屋に引き込まれたのだから、警戒するなというほうが無理な話だった。眠りに就いている時は誰しも無防備にならざるを得ない。その中で寝首をかかれる可能性はゼロだとは言えなかった。今のローがそんな雰囲気でなかったとしても、ドフラミンゴとしては当然の懸念だったのだ。
どことなくモヤモヤとしたものを抱えながら、ドフラミンゴはそぅっとローのすぐ傍まで近付いてみる。枕はなくラグの上に直に頭を置いてわずかに身体を丸くさせたローの顔には、穏やかさが見て取れた。ほとんど同じ状況だというのにドフラミンゴがした警戒などもなく、無防備に眠るローを見ていると自分がしていたことが馬鹿らしくなってくる。そもそもローがぐっすりと眠りに就いてしまっていればドフラミンゴは一人で部屋に戻ることも、どこかに逃げることもできるのだ。この部屋の鍵がどこにあるかわからなくても、鍵など閉めずに出て行けば良いだけである。それがいかに簡単で容易なことかわかっているはずのローが、それでもそのことを少しも想定していない気がして、ドフラミンゴは口を曲げた。考えてみればドフラミンゴの逃走(と言っていいのかはわからないが)は必然であり、当然である。だというのにも関わらず、ローがドフラミンゴの逃走を考えていもしないようでドフラミンゴは無性に腹が立ってきた。こっちはいくらでも勝手ができるのに、ドフラミンゴがそうしないと踏んでいるローの考えの甘さに苛立っていく。何を悠長に無防備に寝ているのだ、と詰りたくなりつつもドフラミンゴは声を上げることはしなかった。
「
…………
ロー」
その代わりにちいさくその名前を呼んでみる。ドフラミンゴが近付く気配で目覚めなかったのだから、どうせ名前を呼んだところで起きるはずもない、とドフラミンゴは思っていた。ドアが開く音より、歩く足音より、この声はかすかなものなのだから、ローに届くはずもない、と思っていたのだ。
「
……
ドフラ、ミンゴ
……
?」
「
……
ッ」
そんなドフラミンゴの思いをあっさりと裏切り、ローが反応を見せる。それにドフラミンゴは息を呑んでローを見下すしかなかった。どんな耳をしているのかと思うほど確かにドフラミンゴの声を拾いあげたローがそろりと目を開いた。すっと伸びた漆黒の睫毛が瞬き、薄暗い部屋の中で、月をとかした眸がゆらりと揺れる。まだおぼろげな意識でもはっきりとドフラミンゴを捉えたローが身動ぎしてのそりと顔を上げた。
「どう、した
……
?眠れねェのか?」
「
…………
あれだけ寝たら目も覚める」
「まァ、確かに」
「
…………
」
一言二言話しただけで意識がクリアになっていくローに、寝起きが良すぎるだろう、と心の内で舌を打ち、ドフラミンゴはますます眉を顰めた。たまたま浅い眠りだったのか、そもそも眠りが浅いのかは判然とはしないのだが、ドフラミンゴにとっては面倒なことである。眠気が掻き消えたのかすっきりした表情で身体を起こすローを苦い気持ちで見遣り、ドフラミンゴは息を吐いた。ベッドに潜り込むのが最適解だとは思えども、睡魔は遠のきすぎている。
「眠れないなら、外でも歩くか」
「はァ?」
「さすがにそのままじゃ冷えるな
……
ダウンだと短いか
……
別のやつは
……
」
「ロー、ちょっと待て。俺は行くとは言ってない」
「こっちを着とけ」
話が通じない、と何度となく思ったことを改めて思ってローを目で追い、ドフラミンゴは唖然とするしかない。起き上がったローが段ボールを開いて中を探り、昼に着たものとは違うウールのコートを出してきた。これもやはり真新しい子ども用のもので、ドフラミンゴに用意されたのだといやでもわかる。ローの物ではない段ボールの中身に、まさか、という思いが湧いてドフラミンゴはローに問いかけた。
「それ、全部子ども服、じゃないだろうな」
「服以外もあるが大体はそうだな」
「なんの為なんだそれは
……
」
「お前用だ」
「
…………
」
ドフラミンゴの問いかけにあっさり肯定してみせたローに、目が回りそうになる。ドフラミンゴのために用意したという物が段ボールの中身だという事実に思考が追いつかない。子どもの服なんてすぐにサイズが合わなくなるし、ドフラミンゴの生活にローがずっと居るはずもないのだ。それなのにドフラミンゴのために何かしらを用意するローの気が知れなかった。
「行くぞ」
「あァ
……
」
ドフラミンゴの反応を気にもせずコートを手に取って羽織ったローが促して、ドフラミンゴはそれに続くしかない。ローに対して様々思うことはあれど、いつだって平行線で押し問答にしかならないことが明白で口にするのも億劫になっていた。手渡された膝下までの青いコートを羽織ると上質な手触りとすこしの重みとぬくもりが伝わり息を吐く。防寒としては申し分ないほどのコートに加えてマフラーも巻かれ、ドフラミンゴは万全の体制で外に出ることになった。
暖房の効いた部屋から出ると、さすがに冷えた空気が額に触れて、寒さを実感する。それでも寒さを遮断する格好のおかげで震えるほどではなかった。夜が深まり寝静まった世界はしぃんとしていて、星の瞬きの音さえ聞こえてきそうだった。アパートの外を歩くこともかなり久しぶりで、周りの景色が新鮮に見える。ぽつぽつと立つ街灯のあかりが落ちてアスファルトをぼんやりと染めていた。そこを踏みながら歩くローもドフラミンゴも、会話をすることはなく、口からこぼれる息が白くにごって消えていく。
視線を上げて空を見ると、深い濃紺を刷いた夜にすこし欠けた月が出ていて、ドフラミンゴはふと足を止めた。雪白というよりももっと黄みがかった月の色は、ローの眸とやはりよく似ていた。月をとかした眸に月が映って、燦めいている。ローの隣を歩くと、今まで見ていた世界がやけに鮮やかに見えた。
「なんだ?」
「月が
……
」
「月?」
「お前の目に似てるなと思っただけだ」
ドフラミンゴの視線を受けたローに訝しげに見下され、ドフラミンゴはぽつんと口を開く。そうしてオウム返しにされたものをもう一度見上げ、静かに返した。相変わらず濃紺を刷いた夜空には瞬く星とすこし欠けた月がゆらりと浮かんでいる。それに手を伸ばすことはもうないだろうとぼんやり思っていれば、隣がやけに静かなことに気付いてドフラミンゴはローを見遣った。
「
…………
」
「ロー?」
「おれは
……
おれには、月はお前の髪の色だ」
何とも言えない顔をしたローが秘密を打ち明けるみたいにこぼして、ドフラミンゴの髪をするりと撫ぜていく。ローの顔は何かを堪えるようでもあり、噛み締めているようでもあり、すこしだけ泣きそうでもあった。その時のローの感情をドフラミンゴはきっと一生理解できない。それでもローの手付きのやさしさと、熱が伝わりそうな感覚には胸が締め付けられる気がした。
「フッフッフッ
……
お前にも情緒ってもんがわかるようになったのか。俺が女だったら落ちてるぞ」
「
…………
女じゃなくても、落ちろよ」
「ロー?」
「なんでもねェ」
笑みをこぼして言ったものに、ローがぼそりと呟いたものの、それをドフラミンゴの耳は拾うことが出来なかった。星の瞬きよりもささやかな呟きは、ドフラミンゴにとっては意味のないものだろうと決め付けて、ローの言葉を呑むことにした。二度言われずドフラミンゴにとどかないものならば、大したことではないのだ。
「そういえば、事情聴取の相手がコビー大佐だったぞ」
「へェ、あの」
特に会話は必要なかったものの、ふと思い出してドフラミンゴは昼間のことを口にする。それを受けたローが意外そうに目をかるく見開いたので、案外興味があるのかも知れないとドフラミンゴは思った。コビーのことが出てくると、記憶の中でローにも結び付いて引き摺り出され、つい笑みがおちる。
「海軍の英雄の呼び名を思うと、お前の事件も思い出せるな」
「なっ、」
「よくもまァ、おかしなことに首を突っ込んだもんだ。いやあれはお前が甘かっただけの話か」
「なんで知ってるんだそんなこと!」
思わぬことを言われたらしいローがカッと声を荒げるのにドフラミンゴは目を瞬かせた。息を詰めて怒りでか顔を赤くしたローの手がぎゅっと握られるのを見てドフラミンゴはむしろ知らないほうがおかしいだろう、という言葉を呑み込んだ。
「お前の動向くらい、気にしてたに決まってるだろう」
「〜〜ッ」
それは実に今更の吐露ではあったものの、ドフラミンゴとしては深い意味はなかった。ドフラミンゴと手元から離れて海軍に保護されていたかと思えばそうではなく、なぜか海賊団を結成していたローの様子をドフラミンゴはそれなりに調べていた。それは当然、ローのことが気懸かりだったからなのだがそれを口にする機会は前世ではついぞ来なかった。言ったところでローがまともに受け止めたとは思えないので、こうやって伝えたほうが良かった気がする。
「ロー、どうした?」
「だったら!なんで何も言わなかったんだ!」
「言う必要がどこにある。それにそんな機会もなかっただろう」
「それでも、おれは
……
っ」
お前から聞きたかった、と歪になった声が告げてドフラミンゴは呆気に取られた。今生で何度ローに驚かされ、言葉を失くせばいいのかわからない。はるか昔にそのやり取りをしたからといって、ローの中で何かが変わったはずもないだろうに、ドフラミンゴが胸に留めていたことを知りたがる意味がわからなかった。そもそもローの動向を気にかけていたのは、疑念と邪推も含まれていたので、純粋に気懸かりだけではないのだ。
「ロー」
「おれは、お前に、もっと認められたかった」
それはひどく切実な感情の吐露だった。あまりに哀切さを含んだ、心からの吐き出しですらあった。俯くローの顔を見上げることが出来るせいでその歪んだ顔がわかってしまい、ドフラミンゴはなんと言っていいかわからなくなる。泣きそうになっているローの握り込まれた手に、そろりと触れる。指先まで冷えた手をあたためるようにちいさな手でローの手を包み、ドフラミンゴはローを見つめた。
「認めてるさ」
「ドフラミンゴ」
ぐしゃりとローの顔がますます歪んで、それが泣き出す前の子どものそれに見えた。ローのことを認めていないわけがなかった。実力の差は大いにあれど、そのやり口も能力も手段も、ドフラミンゴは確かに認めていたのだ。最悪の世代、と呼ばれる若者たちの悪名も知らぬままではいられない。そこにローがいることも、ドフラミンゴにとっては愉快なものだったのだ。月をとかした眸がゆらゆらと揺れて、ローの手がほどけ、ドフラミンゴの手を握りしめた。
「ロー」
「
…………
お前と、もっと話ができてたら、」
「今更だろう、そんなことは」
「そう、だな
……
」
過去のことをいくら言ったところで意味がない。あの時はきっとお互いに聞く耳を持っていなかったし、話そうという気持ちもなかったし、歩み寄るなど考えられもしないことだった。だからこそ、過去の二人が話をできたとは思えない。そんなふうに回顧できるのは、今こうして再び出逢っているからにすぎないのだ。
「そろそろ帰るか。冷えてきた」
「あァ
……
」
ローの手を握り返して声をかければ、ちいさく返事がされて、ドフラミンゴはこれで良かったのだと思う。まだ夜は深く、朝が目覚める気配もない。眠気も遠のいたままで目は冴えていた。それでも外に出ている気にはなれず、暖かい部屋に戻りたかった。そこでローとの会話はおそらく無いだろうが、ドフラミンゴは気にもしない。暖かい部屋で温まるものを飲んで、眠るフリだけをしたかった。
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