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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第30回お題「クリスマス」or「雪」
両片想いの赤安。
あかいさんに告白されたれいくんは、自分の気持ちと向き合いはじめ…
警察庁内、自分たちがよく使う会議室の入口前に、クリスマスツリーが立っていた。
非日常的な日々を送る自分にとって、イベント事に触れられる機会は貴重なものでもある。
引き寄せられるようにして、降谷はクリスマスツリーのもとへ歩いていった。
ツリーの背丈は、自分より高く、赤井よりも低い。
ツリーの頂上には、銀色の大きな星。飾りもつけられて、ライトアップもされている。
もうすぐクリスマスか、と降谷は心の中でぽつりと呟いた。
先日、赤井に告白をされた。
赤井が自分の家にやってきて看病をしてくれた日。目を閉じている自分に、赤井は二度、マスク越しにキスをした。一度目は熱が高く意識も曖昧で、自分の勘違いかもしれないと思った。
しかし、二度目は熱も幾分下がり、はっきりと意識があった。真夜中、ふと目を覚ましたときの出来事だ。マスク同士が触れ合う感触を確かに感じて、胸がどきりと跳ね上がる感覚があった。
一度目もきっと、自分の勘違いではない。そう確信したとき、降谷は赤井に問いかけていた。
『なぜ、僕にこういうことを?』
純粋に、溢れ出た疑問だった。
少しの静寂の後、赤井から返事があった。
『好き』『愛おしい』という言葉を、赤井の口から聞いた。
その言葉を聞いたときの感情を、降谷は今でも言葉にできずにいる。
どんな状況でも流暢に言葉を紡げるはずの自分が、声を上げることすらできなくなってしまったのだ。
自分が混乱しているのを見抜いたのか、赤井は言った。
『今は何も考えず、朝までゆっくり眠るといい』
自分はこんなにも赤井に甘やかされていいのだろうか。
そう思いながらも、赤井の優しい声に導かれるようにして、降谷はそのまま目を閉じた。
朝、目を覚ましたとき。赤井の姿はどこにも見当たらなかった。見慣れたひとりぼっちの光景が、さみしさを連れてくる。
部屋の隅に敷いていた来客用の布団は、役目を終えたようで三つ折りに畳まれていた。
――
もっと一緒にいてほしかった。
やわらかな朝の陽の光が降り注ぐ中。溢れ出る気持ちを、降谷は静かに受けとめていた。
幸い自分の風邪が赤井にうつることはなかった。
年の暮れが近づくにつれて、次の作戦に参加するメンバーは慌ただしい日々を送っていた。
赤井とは会議や現場でしか顔を合わせることもなく、ほとんど会話を交わすこともないまま日々が過ぎていった。
頭の中の多くは、次の作戦に向けての準備で占められている。だが、ふとした瞬間に反芻するのだ。赤井からマスク越しにキスされたあの日のことを。
赤井の言葉に対する返事は、まだしていない。
会議室の前に飾られたクリスマスツリーを眺めながら、このまま静かに時が過ぎていくのを受け入れていいのだろうかと、降谷は焦りにも似た感情を抱いていた。
クリスマスイブの日。外は寒く、曇り空が広がっていた。天気予報によれば、雪の降る確率が五十パーセントほどあるらしい。
今年のクリスマスは、イブも含めて平日だ。仕事終わりにパートナーと食事に出かける者もいれば、仕事に追われて残業を余儀なくされる者もいる。降谷たちは後者だった。次の作戦に向けての情報集めや会議などで、プライベートの時間はほぼない。仮眠や休憩の時間を取ることができる程度だ。
降谷がようやく一息つけたとき、時刻は午後九時を回っていた。
イブの夜。予定よりも作業の進みが早く、上層部の人間を除いてほとんどのメンバーが帰宅していった。海外から来日したメンバーの多くが、午後七時頃にはクリスマスマーケットへ行くと言って笑顔で警察庁をあとにした。
来日してから、彼らはゆっくり日本を楽しむ時間もなかったはずだ。束の間のひとときかもしれないが、楽しんでもらえるといい。そう願いながら警察庁内を歩いていると、ちょうど会議室の前にあるクリスマスツリーが目に入った。
ツリーはライトアップされている。独り占めするのはもったいないと思える程、それはきらきらと輝いて見えた。
ふと、こちらに向かってくる足音が聞こえて、降谷は足音のする方向へ目をやった。見れば、赤井がこちらに向かって歩いている。
思いがけない赤井との出会いに、降谷は驚く。降谷の存在に気づいた赤井も、少し驚いたように目を見開いて、それからゆっくりと微笑んだ。赤井の笑顔に、降谷の胸はどきりとする。
やわらかで優しいその表情。言葉がなくても、赤井が今どんな気持ちを抱いているのかがわかってしまう。
どきどきする自分の胸の音に緊張しながらも、降谷は普段通りを心掛けて言った。
「そちらの進捗はどうですか?」
「ああ、さっきようやく一段落ついたよ」
「お疲れ様です」
仕事仲間として振る舞うのが精一杯で、気の利いた言葉ひとつ、出てこない。
赤井は周囲を見渡したあと、問いかけてきた。
「君はここで何を?」
自分がこの会議室に用があるように見えたのかもしれない。
「僕はたまたまここを通りかかって
……
このツリーを見ていました」
「前から思ってはいたが、随分と可愛らしいツリーだな」
背の高い赤井にとっては、そこそこ大きなこのツリーもミニチュアに見えてしまうのかもしれない。
「ええ、そうですね」
作戦の準備に追われているとは思えないほど、穏やかな時間が流れていた。
「少し、一休みしないか」
赤井からの誘いに、再び緊張の波が訪れる。
「は、はい
……
」
「中で、少し待っていてくれ」
赤井が親指で会議室を差した。赤井はどこへ行くのだろうと思ったが、降谷は言われた通りに会議室の中へと入った。
会議室の中には誰もいないが、暖房が効いたままなので暖かい。いつでも緊急会議が開けるように、上層部の取り計らいで暖房を入れたままにしてあるのだろう。
降谷は会議室の中をゆっくりと歩いて、最前列にある椅子に座った。赤井を待つ間、落ち着かずにスマホを見る。通知は何も来ていないが、待ち受け画面に設定していた天気予報のウィジェットが雪のマークを表示していた。窓の外を見るが雪の気配はまだない。もうすぐ降りはじめるのかもしれない。
会議室の入口から足音が聞こえてきて、降谷は後ろを振り返る。赤井が湯気の立つ紙コップを二つ持って、こちらに歩いてきた。赤井は飲み物を買いに行ってくれていたのだ。
赤井は自分の隣の席に腰を下ろした。近くもなく遠くもない、自然な隣り合わせの距離。
赤井が差し出したほうの紙コップを、降谷は礼を言って受け取った。コップに口をつけると、ほんの少し甘いカフェオレの味がする。以前も、赤井に同じものをもらったことがあった。会議室のそばにある自販機で売っているものだ。
「あったまりますねぇ
……
」
身体の芯が暖められてゆくような心地がして、思わず呟く。
「そうだな」
赤井もゆったりと珈琲を口に含んだ。
この時間にもなると、警察庁内で仕事をしている人間は限られている。呼び出しでもない限り、会議室に入って来る人間もおそらくいない。
久しぶりに赤井と二人きりというこの状況。“あの日”の続きに触れられる、またとない機会だ。
もしかすると、赤井も自分が返事をするのを待っているかもしれない。しかし、降谷にはあともう少し、自分の背中を押す勇気が必要だった。
自分の気持ちと客観的な事実。どれを取ってみても、自分が赤井をどう想っているのかは明らかだ。
これまで幾度も、赤井に触れる機会があった。
額にキスをされても、手を握られても、マスク越しにキスをされても、嫌だと感じたことは一度もなかった。
赤井以外の人間に同じことをされたら、きっと嫌悪感を抱くに違いない。そう断言できるほどに、降谷にとっての赤井は特別になっていた。
自分たちが付き合っていると周囲に噂されたこともあった。赤井の同僚に、自分がヤキモチを妬いていると思われたこともあった。
自分の行動を振り返ってみても、そう思われるに値する“根拠”が自分の中にあった。
降谷はゆっくりと赤井の方へ身体を向けた。赤井は何も言わず静かに珈琲を口に運んでいたが、何かを察したように紙コップを机に置いた。
心臓が今にも爆発しそうなほど激しい音を立てている。
降谷は覚悟を決めて、話を切り出した。
「あの、赤井
……
」
降谷の声に重なるように、赤井と自分のスマホがほぼ同時に鳴る。緊急招集だ。指定された場所に、これからすぐ向かわなければならない。
降谷は赤井と顔を見合わせて頷いた。
急いで会議室を出て、警察庁の出口へと向かう。外に出てすぐ、小さな白色がふわりと目の前にちらついて、降谷はその場に立ち止まった。
「
……
あ」
「どうした?」
「雪ですよ、赤井」
赤井も立ち止まり、天を仰ぐ。
「
……
ホワイトクリスマスだな」
「
……
はい」
降谷は頷く。
赤井に返事をすることはできなかったけれど、今、イブの夜に降る雪を、ふたりで眺めている。まるで特別な夜を過ごしているようで、降谷は胸が熱くなった。
雪を受けとめるように、赤井は左手を前に差し出した。そして、強く拳を握り締める。
降谷は息を呑んだ。
降谷の目には、世界が、赤井が、きらきらと輝いて見えていた。
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