syanpon
2025-12-31 22:32:52
1513文字
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虎視眈々

オトスバサンド
現パロ


 教材を両手いっぱいに抱えてオットー・スーウェンは廊下を歩く。その背中を追いかけるように駆け足の音が響きオットーを追い越して止まった。
 
「オットー!」
「ナツキさん! 廊下は走らない! あと学校では先生をつけてください」
「うわ、なんか先生みてぇ」
「みたいじゃなくてそうなんです!」

 前髪を上げたその広い額をこづいてやりたいがあいにく両手は塞がっているし校内でそれは下手をすれば体罰だ。ため息をついて目の前の少年をもう一度見つめれば両手を差し出している。

「ん、手伝ってやるよ」
「それはありがたいですけど重いですよ」
「そこまでヒョロくないって! これでも筋トレしてるんだから……ってほぼ全部持たせるなよ!」
「ははは、やっぱり細いですねえナツキさん」

 よろけた“振り”をしてスバルはオットーの肩に体をトンと寄せる。受け止める“振り”をしてオットーもそれを拒まなかった。
 いつからこの少年に好意を抱かれていたのかはわからない。この少年を特別扱いして出鱈目に甘やかしてやりたいという欲がいつから出てきたのかもわからない。オットーとしてはそんな重たい愛情をひた隠すのに精一杯だというのにこの少年は一途に思いをぶつけてくるのだから困る。
  
「なぁ好きだよオットー」
……学校ですよ」
「お前は違うの」
……あんたは未成年だ」
…………ちょっと歳の差があるだけの幼馴染みたいなもんじゃん」

 口を尖らせてブスくれるスバルの頭を今度は空いた手でぐしゃりとかき混ぜてオットーは笑う。

「そういうこという時、あんたが耳を赤くして照れなくなる頃にはあっという間に卒業ですよ」
「い、意地悪〜!!!」

 ***

「オットーにキスしてもらいてぇ〜」

 放課後、机に頬をつけて足をばたつかせるスバルを男は静かな瞳で見つめる。そのまま近くの椅子をひいてスバルの横に腰掛けた。スバルの顔が赤く照らされているのはきっと夕焼けのせいだけではないのだろう。恋に焦がれる表情は可愛らしくてそれ故に腹立たしい。

 ――なので男は近づけた距離をさらに縮めてゼロにする。

……どうですか」
「お前じゃないんだよなぁ」
「おや、それは残念」
「んむ、そういいながらもう一回してくんな」

 おまけに冬の乾燥のせいかほんの少しカサついた唇を舐めてやれば頭を叩かれた。初めに口付けをした時は頬を張られたな、なんて思い出す。「とびきり仲のいい友人ならすると聞いた」なんて口先だけの嘘に今でも丸め込まれているから警戒心が薄いと思うしそこにつけ込んでいるため何も言えない。
 この可愛い生き物がどうしたって欲しい。男にとってそれ以外いらないというのにそれは自分とよく似た別の男に懸想している。

「ちなみになんでスーウェン先生のことを呼び捨てで僕は苗字なんですか?」
「オットーと出会ったのが先だっただけ。お前ら2人とも同名なのが悪い。オットーとおっとーの言い換えできねえよ俺」
「ふうん。……僕が自分の苗字嫌いって言ってもですか?」
「もう呼び慣れちまったもん……

 今日も名前で呼んでもらう特権を彼から奪い取ることはできなかったらしい。目の前のスバルを困らせたいわけではなかったのでもう一度悪戯に唇を塞いで誤魔化した。

「いてっ。はあ、あの人……スーウェン先生と僕よく似てると思うんですよ。僕にしたらすぐなのに」
「ん、何か言ったかフェロー?」

 びしりと遠慮のないデコピンが飛んでくる。それを受けて額をさすりながらオットー・フェローは困ったように微笑んだ。


「いいえ、卒業するまでが勝負だなあ、と」