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墨色
2025-12-31 16:59:41
4204文字
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れめししお題
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二人で埋めるカレンダー
れめししお題企画「いい子/悪い子、カウントダウン、カレンダー」お借りしました
クリスマスれめしし
十一月三十日の昼下がり。獅子神邸に四つの大きな荷物が転がり込んできた。
「ちょっと、敬一君?荷物の一つにオレがカウントされてない?」
そう言って、叶が唇を尖らせる。
「自覚があったのか、それは良かった」
獅子神は腕を組んで叶を睨む。例えポーズだとしても、怒っていることを見せなくてはいけない。
(犬のしつけ本にそう書いてあったからな)
「ちょっと!今度は犬扱い?!」
「いい子にしてたら、おやつやるぞ?」
「そこはご褒美だろ?」
叶は獅子神の頬にキスを落として抗議する。
「
……
いい子にしてたらな」
「はーい」
いい子のお返事をした叶は、二つの段ボールを抱え上げた。獅子神は仕方なく残り一つを持ち上げ、二人揃ってリビングへ足を進めた。
リビングに入ると、叶は自分の持ってきた段ボールを開封する。中から、数字の書かれた箱が出てくる。
「なんだ、それ?」
獅子神が首を傾げると、叶は胸を張る。
「オレ特製のアドベントカレンダーだぞ!」
クリスマスまでカウントダウンするように、一つの日付に小さなプレゼントの入ったカレンダー。それがアドベントカレンダーだと教えられた。
「ほらほら、今日の日付のところ開けてみてよ」
促され、獅子神がミシン目を開き、中を確認する。そこには小さなもみの木の形をしたガラス細工が入っていた。
「それと、コレだな」
叶が未開封の残りの箱を開け、中身を取り出した。それは二メートル以上はあるクリスマスツリーだった。
獅子神が幼い頃、町中で見上げたキラキラとしたクリスマスツリー。あれよりは勿論小さいとは言え、一般住宅としては大きいものだろう。
「オメーが隣にいると、デカいのかわかんねえな」
「敬一君、たまに自販機見てオレのこと思い出してるだろ?」
ニヤついた笑みに腹が立ち、獅子神は叶の頬を両側から掴んで潰す。それにさらにニヤニヤと相好を崩すので、ムスッとしながら獅子神が手を離すと、
「今日からクリスマスまで、せいぜいオレのことを思い出してくれよ」
その右手に叶の左手を絡められ、腰を引き寄せられた。
叶にアドベントカレンダーを贈られてから、獅子神は毎朝一つずつカレンダーを開けていった。
初日にもらったツリーに飾りがないとは思っていたら、プレゼントの中にオーナメントやLEDライトが用意されていて、一週間で立派なツリーへと変わっていった。
十二月七日には、ツリーの天辺に飾る大きな星が入っていた。
その日は、珍しく朝から叶が獅子神の家にやって来た。
「一緒に星を飾ろうと思ってさ」
そう言ってスマホを回して動画を撮りながら、クリスマスソングなんか流して、二人でツリーを完成させた。
ツリーが完成した次の日からのアドベントカレンダーには、ランチョンマット、ゴールドのカトラリー、柊が描かれた食器、キャンドルに燭台などなど。
十二月十四日のこと、バカでかい皿とともに『七面鳥用』と書かれたメモが入っているのを確認した獅子神は、叶に電話を掛けた。
「もしもし?」
ワンコールで通話になったスマホに向かって、獅子神が叫ぶ。
「なんだよ、コレは?!またオレん家で何かするつもりか?!」
「もちろん」
明るい声で答える叶に、獅子神がもう一言言ってやろうとすると、
「みんなでクリスマスパーティーしような」
と返ってきた。
「クリスマス
……
パーティー?」
「二人きりもイイけど、今年だけはみんなで賑やかにやろうな」
甘い声が耳に直接届く。
「ちゃんと夜にはみんな追い出すから、安心しろよ」
さらに付け加えられる言葉に、獅子神の頬が熱くなる。
クリスマスなど、どこか遠い世界の話だと思っていた。子供の頃だけでなく、自分の足で立つようになっても、年末年始などただの稼ぎ時以上の意味はなかった。
けれど、あのピカピカとキラキラとした空気を、自分も楽しめるのだ
――
楽しんでいいのだと、蓋をしていた自分の気持ちに気づいた。
「あぁ
……
楽しみにしてる」
自然に出た言葉に、少しだけ自分でもビックリする。叶に何か言われる前に急いで電話を切った。
クリスマス・イヴまでの一週間。残りのアドベントカレンダーの中身は、基本に則って菓子が入っていた。サンタの形のキャンディに、星みたいな金平糖、駄菓子のスナック菓子、それから甘いココアとチョコレート。子どもの頃、会費を払っていないから参加出来なかった子供会のクリスマス会。そこで、みんなもらっていたお菓子の詰め合わせみたいな。
二十三日のカレンダーには、カットされたシュトーレンが一切れと、また叶からの手紙が入っていた。
『今までの敬一君にもプレゼントだ』
小さな菓子は全部で二十六個になった。
「カッコいいことしてんなよ」
小さく笑うと、獅子神はシュトーレンを食べるためにコーヒーを淹れた。洋酒の効いたシュトーレンは、子どもの獅子神のためではなく、今の獅子神のためのプレゼントだ。
クリスマス・イヴ当日。獅子神は朝から七面鳥を仕込み、ケーキを焼いた。
他の友人より早く来た叶が、キッチンでウロチョロと纏わりつきながら、スポンジに生クリームを塗る獅子神を止めた。
「敬一君、ケーキは二個いるぞ!」
「あぁ?なんでだよ?」
「ユミピコの誕生日ケーキもいるだろ」
叶の言葉に、獅子神も「それはそうだな」と、デコレーションする手を一旦止めた。
「なあなあ、敬一君。オレ、クリスマスケーキはこれがイイな」
叶の見せてきたスマホ画面を覗き込めば、木を模したケーキが映っていた。
「ブッシュ・ド・ノエルか」
「材料なら、あるだろ?」
ニッと笑みを浮かべる叶が言う“材料“は、アドベントカレンダーに入っていたチョコレートとココアのことだ。
「
……
ったく、それなら最初からそう言えよ」
急いでもう一台スポンジケーキを焼くことにした。
「ユミピコ、喜ぶな」
「どうだかな」
あの天堂が素直に喜ぶとは思えなかったが、叶は自信満々に大丈夫だと胸を張った。
結果的に叶の予想は見事に当たった。二個用意されたケーキに天堂はもちろん、村雨もご満悦で、パーティーは楽しい時間を過ぎていった。
とっぷりと日が暮れた頃、天堂は「教会でイベントがある」と言い、村雨も「独身者はイベント事の際に当直が回ってくる」と嘆きながら、仕事場へ向かった。
真経津は何やらニマニマとした笑みを堪えながら、御手洗を呼び出し獅子神の家を後にした。
「それじゃ、二人きりのクリスマスの仕切り直しをしようか」
シンと静まり返ったリビングで、叶が冷蔵庫からシャンパンを持ってくる。獅子神もフルートグラスを取り出し、ポンと景気のいい音を立てるとシャンパンを注いだ。
「そう言えば、今日の分は確認したか?」
叶が最後の数字の書かれたアドベントカレンダーを指差した。
「まだだ。どうせなら、最後はオマエと開けようかと思ってよ」
「カワイイこと言ってくれるな」
首筋にキスしながら付いてくる叶を邪魔だと感じながら、アドベントカレンダーを手に取った。
十二月二十四日の日付のミシン目を切り取る。中に入っていたのは
――
「靴下?」
片方だけの真っ赤な靴下は、獅子神の足のサイズより大きなものだった。
「いい子の敬一君には、きっとサンタさんが来てくれるぞ」
後ろから抱き締める叶が、枕元に置いておけ、と囁く。
「サンタさんの正体は知っているか?」
「
……
オレには縁がないヤツだな」
「ブー、不正解。
……
恋人がサンタクロースってヤツだ」
獅子神の顎を捉えると、唇を重ねた。
二人同じベッドで眠ったクリスマスの朝。
スマホのアラーム音で、獅子神が目を覚ます。枕元に手を伸ばすと
……
そこにはスマホ以外、何もなかった。
(ん?何もない?)
おかしいな、と上半身を起こし、ベッドライトを点ける。確かに眠る前に、しつこいくらい叶が煩く靴下を置くように言っていたから、そこに置いたはずなのに。
「おい、叶」
獅子神は、横で気持ちよさそうに寝ている叶の身体を揺すった。
「
……
んー?
……
なに?」
「靴下、知らねえ?」
その問いに、まだ開かない瞼はそのまま口元が緩く綻んだ。
「サンタさんが来たろ?」
「つーか、靴下がないんだよ」
「靴下もプレゼントもあるぞ」
パチリと大きな瞳が獅子神に向けられた。
「いや、ここに置いてたのがねえんだけど」
獅子神が枕元を指すと、叶が「そっちじゃないぞ」と足元を指差した。
「ほら、ここにあるだろ」
叶が足を上げ、布団から爪先を出した。
その足には、しっかりと靴下が履かれていた。もちろん、獅子神が昨晩枕元に置いたものだ。
「プレゼントはオレだ」
ガシッと獅子神の腰に抱き着いた。
「いい子の敬一君が欲しがったものだろ?」
「あー
……
そうだな」
意外と素直に獅子神が頷くと、叶のあちこち跳ねている髪を撫でた。
「っつーか、悪ぃな。オレ、何もプレゼント用意してなかったな」
膝枕を堪能している叶に、獅子神が詫びる。
「オレはワルモノだったからな。悪い子にはサンタさんは来ないから、今年は仕方ないぞ」
ケラケラと笑う叶に、苦笑いで返す。
「そんなら、昼飯は好きなもん作ってやるよ」
ささやかなプレゼントの提案をすると、
「それもイイけどさ」
叶が右足を上げる。
赤い靴下は、叶の足のサイズだったのだろう、ピッタリだ。
「どうだ?」
叶は獅子神の顔を見つめる。その悪戯な瞳が、『プレゼントは靴下に入れるんだろ?』と雄弁に語っていた。
「
……
あー、なるほどな」
獅子神が太腿に乗った叶の頭を、ベッドマットにどける。
ベッドから立ち上がると、クロゼットを開け、引き出しから自分の靴下を取り出した。
ベッドの縁に腰掛けると、靴下を片方だけ履く。
「コレがオマエへのプレゼントだ」
「大正ー解!」
両手を広げる叶に抱き着いた。
せっかく履いた靴下は、すぐに脱ぐことになりそうだ。
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