小話倉庫(深上)
2025-12-31 16:55:53
2309文字
Public 悠アキ/haruwise
 

過去を切り取る(悠アキ/haruwise)

ver2.5終わりました、の感想文。その2。

 工房に続く扉を開けると、中で盛り上がっていたらしい二人が途端に声を潜め、何かを隠すようにソファの後ろに手を引っ込めたのが見えた。アキラは後ろ手に扉を閉め、ソファの上で視線をそらそうとしている二人に声をかける。
「何をやっているんだい? リン、悠真」
「べ、別に何も? ね、悠真!」
「え? あ、そうそう。映画何見よっかな〜って話してただけ」
 ここまで「怪しい」を全身に貼り付けていたら誰だって眉をしかめるというもの。近付いて見てみると、彼らの手には案の定ビデオテープの一つもない。ただ、何かのファイルがリンの後ろに見えたので、すっと手を伸ばして引っ張ってみる。
「あ、やば」
 慌てるリンの声を無視して取り上げたファイルを開くと、それは普通のファイルではなく、アルバム帳だった。上から写真を入れるタイプの簡易的なもの。自分の知らないものに驚いてリンを見ると、彼女は隠していたいたずらがバレて萎縮する猫のように視線をしたに向け、小さくなっていた。
「君、こんなものを作っていたのか」
 最近のものだけではない。六分街で店を開くよりも前、まだ研究所にいた頃の写真も含まれている。あまり数があるわけではないが、確かに持ち出してきていた。悠真には簡単に自分たちの出自について話したが、ここまであけすけというのもさすがに複雑な気持ちになる。無言で写真を見つめるアキラを怒っていると勘違いしたのか、悠真の方が慌てたように言葉を重ねてきた。
「リンちゃんは悪くないよ。僕がリンちゃんに聞いたんだ。あんたらの小さい頃の写真ってないの? って」
「小さい頃? どうして」
「単純に気になっちゃったんだよねぇ……あんたが昔、どんな子供だったのか」
 ぽり、と頬を掻く悠真を一瞥して、アキラはアルバム帳をめくる。リンが自分に黙ってこのようなアルバムを作っていたのは、研究所には辛い記憶以上に、手放したくない思い出があったからだろう。自分に見せたら感傷に浸ってしまうと隠していたか、過去に思いを馳せる弱気を兄には見せたくなかったか。
 ぴたり、とページをめくる手を止める。その中から一枚を抜き取るとアルバムをリンに返し、アキラは手にした写真を悠真に突き出した。
「君が見たいのはこういうのかい?」
 アキラとリンが揃って立っている写真だ。アキラは無表情、リンは少し俯いている。制服を着ているから、ヘーリオス研究所にいた頃だろう。年齢はおそらく十にもなっていない、まだ何も分からなかった幼い自分。
 悠真は写真を受け取ると、食い入るように見つめて黙り込んだ。あまりに反応がないので思わずリンと顔を見合わせると、はあぁ、と悠真の口から深いため息が溢れた。
「これ、どっちがアキラくん?」
「髪の色でわかるだろう」
「え、じゃあこっち!? こっちのめちゃくちゃ美少女なのが、アキラくん!?」
 驚きに満ちた声で幼い頃の自分を指さされて、アキラはどうにもむず痒くなる。うん、と小さく頷くアキラの横から、ずいっとリンが割り込む。
「悠真? 私を差し置いてお兄ちゃんを美少女っていうのやめてよ!」
「え、や、でもさぁ……こんなの美人姉妹じゃん……
「あ、それならいいよ。ふふん、そうでしょう、お兄ちゃんはこの頃から女の子と間違えられてたもんね〜」
「リン……兄の恥を嬉しそうに暴露するんじゃない。そして悠真、さりげなく写真をポケットにしまおうとするんじゃない」
 いそいそと写真を懐にしまおうとする悠真の手首を掴んで阻止する。ちぇ、と大人しくアキラに写真を返す悠真に、横から悪魔の囁きが響く。
「そうだよ、悠真。お兄ちゃんの写真でもっとかわいいのあるんだから! これなんかどう?」
「いくら?」
「今ならなんと……
「リン……!」
 敵は身内にあり。ここぞとばかりに金稼ぎをしようとする妹から再度アルバムを取り上げると、ブーイングを浴びせてくる二人を残してアキラは工房を飛び出した。
 背後を気にして急いで二階の自室に向かう。扉を閉めてはぁと息を吐き、ソファに腰掛ける。ぱら、とアルバムを開くと昔の写真だけではなく、最近の写真もまとめられていた。その中にはもちろん友人たち、そして悠真の写真もある。彼が写る写真をそっと撫でながら、アキラはあの場で言えなかった言葉を頭のなかに浮かばせる。
(僕も、悠真の子供の頃の写真が見たいな)
 病院にいたのがほとんどだろう。あまり他人に見せたくないものかもしれないが、それでも見てみたい。そんな事を悶々と考えていると、コン、と部屋の扉がノックされる音がしてガバリと顔を上げる。
……あのー、アキラくん? その、ごめんね。ちょっと無神経だったかもって……
 扉の隙間から顔を覗かせた悠真が、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。まるで叱られた猫のようだ。しゅんと垂れる耳が見える気がして、アキラはふっと笑ってしまった。
「悠真、その、代わりと言ってはなんだけど――
 思うままに言葉を吐き出す。アキラの等価交換の提案を聞いた悠真がもちろんと嬉しそうに笑うので、つられてアキラも口元を緩めた。


 それからしばらく経った頃。六課の作戦に参加している時だった。
「アキラ。お前の幼少期は、なかなかに可憐なのだな」
 雅にさらりとそんなことを言われたアキラは、作戦終了後、呑気にビデオ屋にやって来た悠真の襟元を無言で掴み上げた。
 ギブギブ、と腕を叩く悠真に威圧感すら感じる綺麗な微笑みを向けるアキラ。その状況を知っているのは当人たちを除くと、お菓子を食べながらやれやれと肩を竦めて見守っていたリンだけであった。