墨色
2025-12-31 16:41:25
2307文字
Public れめししお題
 

ダブルをトリプルにする方法

れめししお題企画「一口」お借りしました。
アイスを食べる二人。

 午後の相場が終わり、軽くトレーニングでもするかと椅子から立ち上がり身体を伸ばした。

「敬一君、出かけるぞ!!」

 ノックもなしに開けられた扉から現れた人物に、獅子神はため息を吐いた。
 いつもながらいいタイミングで叶が仕事部屋へと飛び込んで来たのだ。
 一体いつからいたのかと問い質したいところだが、ソレを聞いても現状が変わるわけではない。なので、その言葉をグッと飲み込んだ。

「ほら、早く早く」

 そう言われて叶に手を掴まれれば、獅子神は大人しく従ってしまう。傍若無人で唯我独尊のこの男に、振り回されることを良しとしてしまったのだ。

「どこ行くんだよ?」
「アイスクリームだ」

  

 叶が口にした店は、いつだか真経津が両手を怪我したときに大量に買い込んだチェーン店だった。 

「今、トリプルキャンペーンをやってるんだよ」

 そう遠くはない場所に店舗があったため、二人で歩いて店に向かうことにした。その道すがら、叶が説明する。

「ダブルの値段でトリプルになるから、オトクだよな」と言うが、トリプルどころか、店の品物買い占めても懐が痛まないようなヤツが何を言うのか。
 呆れ顔の獅子神に、叶は笑みで答える。

「ソレはソレ、コレはコレだ」

 大体にして、獅子神がつるんでいる仲間は金を持っているくせに、集まるときに大量の駄菓子を持ってきたりするのだ。価値は自分で決めればいいのだ。
 獅子神は叶を見やって笑った。

「オメー、3つに絞れんのかよ?」
「それが問題だよなー、期間限定もあるし」

 叶はツラツラと食べたいフレーバーを並べ立てた。
 15種類目を口にしたところで、店頭に着いた。そのまま、自動ドアを二人揃ってくぐる。
 店内をグルリと見回した獅子神が、叶の腕をつついた。

「なに?」
「おい、キャンペーンは来週からじゃないか?」

 指し示すポスターには、とびきりの笑顔のアイドルがアイスを持っていた。そして、キャンペーン開始日付はしっかりと今から5日後だった。

「えぇっ?!マジかぁ〜」

 叶は項垂れながら座り込んだ。

「おいっ、ジャマだろ」
「痛っ!!」

 190センチの男が入口の前に座り込んでは、邪魔で仕方ない。獅子神は膝で曲げられても尚長い足を爪先で蹴った。

「どうすんだよ?出直すのか?」
「いや、もうアイスの口だから……

 芝居がかった様子で、叶が立ち上がる。

「はぁー、でもダブルか……
「トリプル頼めばイイじゃねえか」
「キャンペーンで頼むことに意義があるんだよ」

 ねえよ、と獅子神は心の中で突っ込む。口に出すと面倒くさくなりそうだから。

「あー、じゃあオレがオマエの好きなの一個頼んでやるよ。そしたら、オメーは3種類食べられるだろ?」

 駄々っ子を宥めるように、獅子神が提案した。キラキラとした瞳を向けて叶は、ニヤリと笑いながら頷いた。

……テメー、わざとだな」
「さあ?なんのことかな?オレは敬一君の優しさに感動しただけだぞ」

 調子のいいことを言いながら、叶が獅子神の肩を抱く。

「たくっ、いいから注文するぞ」

 ショーケースを眺めると、色とりどりのアイスクリームが並んでいる。

「オレはポッピングシャワーとラブポーションにするぞ」
「じゃ、オレはオレンジソルベと……オメーのもう一つは、チョコミントか?」

 以前に好んで食べていたことを覚えていた獅子神が尋ねると、叶はキョトンと目を見開いた。それから「うーん、敬一君が知ってるとは……いや、そんなわけないしなー……」と、何やらぶつぶつと考え込んだ。

「なんだ?どうしたんだよ」

 その顔を覗き込んだ獅子神に、叶はいちかばちかメロディに乗せて尋ね返した。

「チョコミントより?」
「???」
「あ、やっぱり知らなかったか」

 〝あ・な・た〟とは返ってこなかった。

「なんでもない。うん、チョコミントにするよ。ちゃんと敬一君がオレを見ててくれたから」
「そうかよ」

 獅子神が店員にダブルを二つ注文した。ややあって、コーンに載せられた重なったアイスクリームが差し出される。それぞれ受取り、店を出た。

「うん、やっぱりこの弾けるのがイイな」

 ポッピングシャワーを口にして、叶が満悦する。

「ほら、敬一君も食べてみて」

 スプーンに一口掬って、顔の前に差し出す。

「お、おぅ……ん?スゲーな、ホントにパチパチ弾けるんだな」

 どうやら初めて食べたらしく、目を丸くした獅子神の表情に、叶は目を細めてそれを見守った。

「ほら、こっちも食べてみなよ」

 二段目のアイスも勧め、
「ラブポーションだから、オレ以外から食べちゃダメだからな」
 耳元で囁いた。

「んっ?!……な、なんだよソレ?!」

 慌てる獅子神の反応が予想通りすぎて、そのまま目元に口付けた。

「おいっ!!」
「あー、ほらアイス落ちるぞ」

 近づいた身体を払いのけようとする獅子神の手を受け止め、叶は注意する。

「敬一君のも一口ちょうだい」

 言うが早いか、叶はその大きな口を開け、チョコミントにかぶりついた。
 叶がアイスクリームから口を離すと、綺麗な球体はすっかり半円に形を変えていた。

「テメー!一口がデカいんだよ!!」

 思わず獅子神が吠えると、叶の顔が近づいた。次に、唇に清涼感が。

「どう?チョコミントも初めて?」
……くそっ。……歯磨きかよ」
「あー、敬一君。それは禁句だよ」

 叶は悪戯っぽく笑い、唇の端に残ったアイスを舌で舐め取った。