墨色
2025-12-31 16:35:40
2844文字
Public れめししお題
 

ワガママな夜更け

れめししお題企画「ワガママ」お借りしました

ねぼけ🦁さんが書きたかった

「それじゃ、今日の配信はここまでだ」

 気付けば長尺になってしまっていたゲリラ配信。すでに今日という表現が適切ではない時間になっていた。さすがに朝日が昇る時間ではないものの、明け方と言っても差し支えない時間だ。

「三時かぁー……

 眠気の峠も越えてしまっている。配信とゲームのせいで神経が昂っているのもあり、すぐには眠れそうにない。
 とは言うものの、こんな時間に何をするか。配信部屋は元々明かりを落としているが、外界も真っ暗闇の時間に起きていると、世界から切り取られた気分になる。まさにオレだけの世界だ。
 けれど、世界がオレだけはつまらない。
 頭を過ぎるのは、会いたい人間。だが、こんな時間に連絡を取れるか。相手は健康優良児、早寝早起きの節制人間。

「敬一君がこんな時間に……ん?」

 起きているわけがないと分かっていつつもスマホに手を伸ばすと、新着メッセージの知らせが入っていた。
 配信中は着信音もバイブも切っていたから気付かなかった。

 『今夜の配信は長くなりそうだな。徹夜するなら、朝飯食いに来いよ』

 ディスプレイに映し出されたメッセージ。送信時間は日付が変わった直後だった。
 確かに二三時前から配信を始めて、ちょうど最初に手こずるボス戦が一時間後で……

……我慢しようと思ったのにな」

 会いたいと思ったときに、こんなメッセージを見たら、我慢なんて出来るわけないじゃないか。
 『オメーが我慢なんてするタイプかよ』敬一君の声で脳内再生される。
 全くその通り。我慢なんてオレらしくない。よし、会いに行こう。
 会って何をするか、何がしたいかなんて、そんなものはない。ただ会いたいし、顔が見たい。そう思うオレの話を聞いて欲しい。

「敬一君の眠る枕元で一人で喋っててもいいし」

 配車アプリを立ち上げる。こんな時間だから、マッチに時間が掛かるのも覚悟したが、割とすんなりマッチングした。
 スマホ片手に、オレは愛しい人の元へ向かう。敬一君家の合鍵とセキュリティーカードも。さすがに夜中は警備システムが入ってるからな。
 オレたちが合鍵を持ってることを知った敬一君は、観念したようにセキュリティーカードを配付したのだ。有り難いけど、どうかと思うよ?


 敬一君の家に着いたときには、四時前になっていた。

「さすがにまだ寝てるよな?」

 邸内からは光が漏れていないし、いくら敬一君が早起きだと言っても起きるには早過ぎる時間だ。
 家に入ると、そのまま主寝室へと向かう。侵入しといてなんだけど、全然気付く様子がないのは、防犯上大丈夫なのか?
 そして辿り着いた部屋の扉を開けた。
 ベッドの上に、敬一君の身体が確認出来た。起きている様子はない。

「おじゃまします」

 小声で断りを入れ、そっと布団の中に潜り込んだ。ベッドのスプリングは優秀なもので、オレの振動は伝わらない筈だ。右手で頬杖をついて、寝顔を覗き見る。暖かな体温が伝わる距離だ。
 すると、こちらを向いていた敬一君の睫毛が微かに震え、薄っすらと瞼が持ち上げられた。

……かのぉ?」

 覚醒していない舌っ足らずの声で名前を呼ばれる。

「ゴメンな、起こしたか?」
……んー……ゆめ……か?」

 焦点定まらない視点のまま、敬一君の手が伸びて、オレの頬に触れた。

「わりぃな……ワガママ言って」
「ワガママ?」

 敬一君からオレにワガママ?何のことだ、とオレは最近の敬一君とのやり取りを思い出そうとする。

「配信見てたら……会いたくなった」
「え?」

 会話が成立せず話し続ける敬一君の言葉に、目を瞬かせる。

 会いたくなった?そう言った?

 そんなストレートな言葉、今までで言ってくれたことなんてあったか?!
 夢だと思って話しかけているのか?覚醒を促すのはやめ、黙って聞いておくことにしよう。ワックスのついていないサラサラの髪に触れたい衝動を我慢して、オレは敬一君を見つめる。

「会いたいから……疲れてるだろうけど、朝飯誘った……良かった、来て……くれて」

 そこまで言い終わると、触れられていた手がポトリと掛け布団の上に落ちた。

……は?」

 思わずマヌケな声が口から漏れた。右腕の力が抜け、カクンとオレの頭もベッドへ落ちる。

 え?ナニ??可愛い過ぎるんだけど?!

 枕に顔を押し付け、両足を静かにバタつかせ身悶えた。
 反則だっ!!不意打ちだっ!!
 そんなオレの横で、スースーと規則正しい寝息で敬一君は再び眠りについていた。

「夢の中でもオレに会ってるかな?」

 もしもそうなら、オレはオレ自身に嫉妬しなくてはいけない。オレの世界はオレだけのものなのだから。

……ふぁ」

 愛しい恋人の顔を見れた安堵からか、オレの副交感神経が大人しくなった。
 このまま睡魔に従おうとオレは布団を肩まで掛け直した。瞼を閉じると、世界が回転する感覚。そのまま大人しく意識を手放した。



……おいっ!起きろよっ!!」
……んー……?」

 眩しい光と怒鳴り声に、まだまだ重い瞼を持ち上げる。
 視界に入ってきた敬一君は、しっかり身支度を整えているから、一度オレを起こそうとしたものの起きないから、諦めて先に支度を済ませたか。そこで、改めてオレを起こしに来たのか。

「おはよう、敬一君」
「おはよう、じゃねえよ!なんで人のベッドで寝てんだよ!」

 掛け布団を奪われた。まだ寝たいと言う思いが見抜かれたか。

「朝ご飯食べにきたんだけど」

 ベッド脇に仁王立ちしている敬一君を見あげて言えば、
「確かに食いに来いとは行ったけどよ……
 モゴモゴと口籠った。

 うんうん、夜中のテンションって怖いよな。昼間ならあんなメッセージ送ってくれなかっただろう。

「会いたいから、待ちきれなくて来たぞ」
「会いた……そ、そうか」

 敬一君が、顔を背けて赤くなる。

「悪かったな……疲れてるのに無理言って」 
「無理なんかじゃないよ」
「まだ寝とけよ」

 敬一君が掛け布団を返しながら言う。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 もぞもぞと眠る体勢に戻りながら、もう一度敬一君の方を見上げた。

「敬一君、これからジョギングだろ?そしたら、帰ってきてシャワー浴びたら一緒に朝ご飯食べよう?」
……一時間かそこらだぞ?」
「うん、また二度寝するかもだけど、敬一君と朝ご飯食べたい」

 今朝の空みたいな綺麗な水色の瞳が、優しく細められた。

「分かった。ちゃんと起きろよ」

 ワシャワシャと髪を引っ掻き回すように撫でられる。最近、人の頭を撫でるのが気に入ってるようだ。

「オッケー」

 その手を捕まえて、チュッと音を立ててキスをした。

「早く帰ってきてね」
……ワガママなヤツ」
 そう、オレたちはワガママな恋人ってわけだな。