ojinuko
2025-12-31 16:27:03
3923文字
Public
 

シャッターチャンスにご用心

ジョシュクラ/現パロ

大掃除がどこかへいってしまった大掃除の話。年の瀬に何も考えずゆるーくお付き合いください
思いつきの突貫作業につき色々お目こぼしの御慈悲を…(*ノωノ)

みなさまよいお年をお過ごしください!

 散らかっているというほどではないけれど、雑然と積まれた本や書類に紙の束。
 デジタル時代ではあるが、クライヴは紙に乗った活字の方が好きだった。パソコンやタブレット・スマートフォンのバックライトは目が疲れるし、すんなり文字が頭に入ってこない。古いと言われれば否定はしないが、大切なものはモノとして手元に置いておきたい。
 その最たるものが写真かもしれない。それこそスマートフォンなんて、手のひらサイズのデバイスに数え切れないほどの画像データを入れておけるのだ。それでも、特に気に入った写真なんかは紙に焼いた写真として手元に置いておきたい。バックアップとしてデジタルで保存もしてはいるが、プリントして手元に置いておきたいのだ。
 ただその大切なはずの写真も、気がつけば過ぎ去る日々に忙殺され整理しないまま雑然とデスクに積まれてしまっていた。
 それをこの年末、大掃除ついでに整理しようと思い立ったのはつい昨晩。それをジョシュアに宣言し、朝食を摂ってすぐ部屋にこもったのが今朝のこと。意気揚々と始めたはいいがその作業が遅々として進まない。
 どうせなら昔の写真も合わせて分類しておこうと、古いアルバムを引っ張り出してしまったのが運の尽きだった。まだ若い両親や叔父と幼い自分が、小さなジョシュアを囲んで様々な表情をみせている。特にジョシュアは一枚ごとにそのあどけない表情を惜しみなく披露しているものだから、つい見入って手が止まってしまう。あの頃の匂いとか音だとか、空気丸ごとまるで花が薫るように蘇った。あまり母と折り合いが良くなかったクライヴだったが、写真の中では確かにそれは家族の過去として存在していた。
 このあどけない天使のようなジョシュアが今では……と思わず笑みがこぼれたその時、コツコツとドアが鳴った。その音に弾かれたように顔を上げれば、時計の針はもう昼も近い時を指していた。結局デスクの上はほとんど片付かないまま、いや気がつけばそれはデスクだけでなく床にまで散乱してむしろ昨日までよりも散らかっていた。
 開けるよ、と声がしてかちゃりと控えめな音のあとジョシュアが顔を出した。
「そろそろお昼だけど……って兄さん、片付けるって言ってなかったっけ?」
「いや、これはあれだ。どうせなら古いものから全部整理しようと……
 ジョシュアはクライヴの言い訳を聞き流し、知ってたけどね、と半ば呆れ顔でため息混じりに付け加えた。

 昼食の後、自分でやるからと固辞するクライヴをジョシュアが手伝うと押し切った。
「あれじゃ年が明けちゃうよ」
 そう言ったジョシュアに何も言い返せず、甘んじて部屋へ迎え入れるしかなかった。見られて困るもの……はないと思うが、なにせクライヴのアルバムは半分、いやたぶん8割以上がジョシュアの写真なのだ。今更ではあるが、なるべく本人には知られたくない。
「写真の類は俺がやるから、本の方を頼みたい。本の分類はお前のほうが上手いだろう」
 苦し紛れになんとか躱そうとしたクライヴに、ジョシュアは訳知り顔で片眉を上げふふんと笑った。
「何か見られたくないものでも?」
 駄目だ。
 やはりこんなことで誤魔化されてくれる弟ではない。
 いやそんなことは、と口籠るクライヴを横目にジョシュアは雑然としたデスクへ手を伸ばした。その手は無造作に積まれたアルバムの中から、他より少しだけ新しいアルバムを選んで引っ張り出した。クライヴは思わず、あ、と声の出そうになった口を手で押さえ、わざとらしい咳払いで誤魔化した。
 よりによってそれに手を伸ばすとは、さすがジョシュアだ。
 などと変に感心している場合ではない。ジョシュアが手に取ったそれは、アルバムの中でも一番見られたくないものだった。
 携帯電話のカメラ機能で、ジョシュアには気づかれないよう撮り溜めてきた数多の写真。真剣に集中する横顔から寝顔まで、本人の知らないところでクライヴが魅せられ切り取ってきた表情の数々。有り体に言えば、つまりそれは隠し撮りのようなもので……
 叱られる前の子供のような心地で、表紙を捲る指をただ見つめた。数枚捲ったあたりで、整えられた爪の先がぴくりと揺れたのを見た。長い睫毛がスローなまばたきにぱちりと揺れ、アルバムに落とされていた視線がふっとクライヴに向いた。
 ふうん……、と口角が弧を描き親指が白い顎を撫でる。
「こんなの撮ってたんだ。全然知らなかったな」
「いや、それは。……すまない」
 パタン、と音を立て薄い表紙が閉じられる。ふーん、と品定めでもするようにもう一度アルバムの表紙を眺め、ジョシュアは目を伏せたクライヴをそのアルバムでひらひらと仰いでみせた。送られた風がまるで責めるように前髪を揺らし、嫌な汗の滲む額をくすぐる。
「兄さんばっかりずるいな、そう思わない?」
 そう思わない?――なんて言われても、クライヴには返す言葉もない。ああ、とか、いや、とか視線を泳がせ要領を得ない返答を繰り返すばかり。
 意地悪な口元がふっと和らいだかと思うと、次にジョシュアが言った言葉に耳を疑った。 
「なら、僕もベッドにスマホ持ち込んでも構わないよね?」
 ベッド……?それは、その、つまり。何を撮るって?
「ベッド、に……か?」
 不埒なイメージが頭をよぎる。
 いやそれはさすがに、万一流出なんかしたら……。ジョシュアがそんな間の抜けたことをするとは思わないが、一方で現実は何が起こるかわからない。いやちがう。そういうことではなくて、そもそもそんな写真を撮ること自体が問題で――
 勝手な自問自答を繰り返し目元を染めるクライヴに、ジョシュアが悪戯っぽく笑ってスマホを出してみせた。
「寝顔撮るならベッドだよね?」
「ね、がお……?」
 思わず頓狂な声が出てしまい、ふと我に返った。寝顔、そうか、寝顔。そうだ、ベッドだからって何もそういうわけではなかったのか。
 安易にそんな思考に陥った自分を恥じ、誤魔化すように顎の髭を撫でる。含みのある笑みを浮かべたジョシュアが紅潮した顔を半眼で覗き込んだ。
 見透かすような視線が痛い。
……何考えたの、兄さん」
「あ、いや……
 わかっているくせに、こういう時のジョシュアは本当に意地が悪い。何も言えないクライヴに畳み掛けて、獲物を捉えた碧い瞳がずいと一歩距離を詰めた。思わずつられて後退ったクライヴをさらに追いかけまた一歩にじり寄る。背後のデスクに退路を断たれ、もうこれ以上は逃げ場がない。
「言ってみてよ。何、考えたの」
 耳朶を舐めるほどの近さで囁かれ、ぞくりと甘い痺れが背を走る。耳朶を撫でる吐息に、追い込まれた後ろ手がきゅっとデスクの縁を掴んだ。
「ハメ撮り、とか?」
 びくっと震えた肩に、図星だね、とトーンを抑えた声が僅かに笑う。つい先刻まで捲っていたアルバムの中の天使は、なんとも下品な言葉を放ち妖しく微笑んだ。
 緩く弧を描いた朱い唇に目を奪われる。
……お前、そんな言葉どこで……
 クライヴが半分譫言のように零した言葉に、かつての天使は優しく諭すように微笑んだ。 
「嫌だな兄さん、僕だっていつまでも砂糖菓子みたいな子供じゃないんだ」
 追い込んだ腰を、逃がさないと言わんばかりに長い腕がしかと絡みつく。指先が腰の線を滑り降り、緊張に強張る尻をついと撫でた。 
「ああ、でもそんな顔されたら撮りたくなっちゃうな」
 クライヴはわかっている。きっと、カメラなんて向けられたらいつも以上に乱れてしまうに決まっている。羞恥と快楽に呑まれたみっともない姿を晒して。
 そしてジョシュアはこう囁くのだ。

――もっと乱れて、クライヴ。 
 
 実際に聞いたわけでもない囁きに、疼痛のような重さを伴うとろりとした甘さが下腹部を走る。
 だめだ。こんな距離で反応してしまったらジョシュアにはすぐにそれとわかってしまう。勝手な妄想で暴走しかけた劣情を冷まそうと理性を総動員するが、それはジョシュアの手によっていともあっさりと阻まれた。
「こっちはこんなにも素直なのにね?」
 追い込まれた脚の間に割り入った膝が、反応しかけたそれをおもむろに擦り上げた。
……っ!……やめ、っ」
 うわべの言葉だけの制止など何の意味もない。ゆるゆると柔い刺激を享受したそこは、もう言い訳もできないほど硬く反応していた。
 デスクの上に開いたままのアルバムから無垢な天使がこちらを見て微笑んでいる。いけないと思うほど、そのありもしない視線に焼かれて身体が熱い。
「この時の僕に見せてあげたいな。格好良くて優しい憧れの兄さんが、実はこんなにいやらしくて可愛いんだよって……
 この碧い瞳は、どこまでクライヴの不埒な思考を見透かせば気が済むのか。恨めしく送った視線はするりと躱され、代わりにしっとりと柔らかなキスが返ってくる。引き結んだはずの唇はあっさりとその甘い口づけに陥落し、熱い舌を迎え入れようと自ら歯列を開く。下半身に与えられる刺激はゆるいばかりでもどかしく、勝手に腰が揺れた。
 下腹に当たるジョシュアの昂りを感じ、歓喜がぶわりと膨張して全身に散る。今からここで抱かれるのだと頭で理解するより先に脊髄が反応をみせた。
 
 部屋に散乱した過去の記録。
 整理できるのはいつになることか。
 ジョシュアの熱に翻弄されながら、追加されることとなるであろう不本意な一枚にクライヴは白旗を上げた。
 ぎしりと軋みをあげたデスクからあどけない天使の写真が一枚、面映ゆげにはらりと舞い落ちた。