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桜崎
2025-12-31 11:30:58
9263文字
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細くて軽くて唯一の
れめゆみ 薄らR-18
酒で思考バグった黎明が感情ダダ漏れで天堂とヤった後、記憶が飛び他の男の痕跡だと勘違いし浮気だと騒ぐ話 付き合ってはいない
一日が終わる直前だった。咎人の救済に少々手間取って、天堂としては遅めの風呂にでも入ろうとしていた時である。
天堂は鳴り響く着信音にスマホを取り出す。黎明と表記された画面に指を横に動かして通話に出た。
「あ、ユミピコ? ユミピコだよな〜今から家、きてよ、なあ、いいだろ、かみさまはいい子のお願い聞いてくれるだろ〜」
黎明が良い子であるかを判じるよりもいつも以上にその口調が軽く、異様に陽気であることが天堂の気を引いた。そうでなければ風呂が優先され、とっくに会話を打ち切っている。
そういえば、黎明が獅子神邸で酒を飲む会をするとか口にしていた。真経津がコンビニで鮮やかな缶を指差して飲みたいと言っていたことから派生したのだろう。天堂も誘われていたが用事を理由に欠席報告をした記憶がある。今日がその日で、この黎明は酔っ払いだ。
「ユミピコユミピコ、きいてる〜? なあ、ちゃんとオレの話きけよ〜ユミピコってば〜」
天堂は無言だというのに一方的に捲し立てて、会いたいと喚く黎明の様子がいつもと違って端的に面白そうだと思った。行くと伝えたのに、ずっとユミピコと話してたい、声が聞きたいなんて妄言を吐き、通話を切りたがらない黎明を無視しスマホを片付けた天堂は家に向かう。
貰っている合鍵で玄関の扉を開けた瞬間、天堂よりすこし大きな影が迫る。思わず拳を握りしめたがそれが黎明だと分かって、手元を緩めた。
覆い被さるように抱きついてきた黎明は首筋に頭を埋める。漂う酒の香りに眉を寄せた。
「ユミピコ、つめて〜、もっと早くこいよ、ここでずっと待ってたのに」
「神が訪れてやっただけ有り難く思え」
「そうだな、ユミピコ、ありがとう」
肩口から覗くのは見たことのない緩み切った笑みだった。
どうも玄関で待ち構えてたらしい黎明は普段と違って会えて嬉しいなんて気持ちを顕にべたべたと触れてくる。
ただ楽しいから。そんな理由で交わったり、唇を合わせたりするが、距離感は他の友人たちとそれほど変わらない。そのはずなのに酒に酔っているせいか、黎明はやけに機嫌が良くて、口調は甘ったるくて、いつも以上に子どもっぽく、天堂は興味深く観察する。動画に撮って後で本人に見せたら爆笑しそうだ。
酒で鈍っていながらも眺めていたのを敏感に察知した黎明は肩口から面を上げて、天堂の頬を冷たい手のひらで包んで目線を合わせる。
「オレのこと見てる? 見てるよな? ずっとこのままでいろよ」
黎明を面白がっているといってもこんなところにずっといるなんて、寒くて嫌な天堂は黎明を引き剥がして、さっさと部屋に向かう。
長い脚を駆使してあっという間に追いついた黎明は、寝台に腰掛けた天堂の隣に隙間なく座って再び体に腕を回す。
「ユミピコ〜、ちゅーしたい、ちゅーしよ」
何か言う前に唇が塞がれる。アルコールで体温が上がっているせいか熱い舌先が咥内を掻き回す。肉体的な享楽は好きだった。だから口づけのぞくぞくとした生ぬるい快楽は嫌いではなくてけれど染みる酒の味が厭で歯を立てて追い出す。
「いてぇ
……
ユミピコ、ひどくない?
……
血、出てきたんだけど」
微かに赤が滲む舌を差し出した黎明は舐めて、なんて可愛い子ぶってきたが額を指で軽く弾いて黙らせる。
頭を抱える黎明にスマホを向けてカメラを起動した。動画を撮る音が小さく響く。
「黎明、酔ってるな?」
「酔ってない、そんな飲んでねーもん」
酔っ払いはみんなそう言う。らしい。生憎例が目の前の男しかいない。が明らかにそんな、程度の酔い方ではないくらいわかる。
「今日は楽しかったか?」
「うん、晨くんは酎ハイ一口舐めて、もういいやって言ってたからもらって、礼二くんは敬一くんの高っけえワインをどっかから見つけてきて勝手に飲んでた。オレももらったけど美味かったな。すぐなくなったからまた探してきて、あと敬一くんも今日は飲むってビール飲んでたから乾杯して。つまみが美味いから酒がすすんで、敬一くんと飲み比べとかしたな〜オレの勝ち〜」
やっぱり全員に付き合ってかなり飲んでいる。村雨の判断できっと帰されているだろうから中毒で倒れることはないだろうが。
手を伸ばしてその頭を撫でる。瞳を細めて、表情を綻ばせる黎明は幼子のようにも見えた。普段ならとっくに振り払われている。黎明は撫でられるのは嫌いだ。天堂が上から見下ろしているのを知っているから。
「今日は楽しかったけどユミピコがいたらもっと楽しかっただろうな、ユミピコといるといつも楽しい」
今みたいに口に出さないけれど黎明がいつもそう思っていることを知っている。天堂も同じでどちらも隠す気もないから互いに共有している感情をちゃんとわかっている。
「あ、おい、画面越しじゃなくて、ちゃんとオレを見ろ」
ようやく気づいたのか、スマホを取り上げられる。天堂の手が届く前に寝台の端に滑っていく。思わずそちらに視線を飛ばしたが肩を強く掴まれた衝撃に黎明へ向き直る。同じ数の瞳がそこだけはいつもと変わらず天堂を見ていた。
「よそ見すんな。ユミピコ、オレだけ見てよ。オレの神さま」
そのまま全体重をかけてくるものだから、天堂は一瞬、逡巡して、力を抜く。柔らかな敷布に頭が沈む。密着する体は服越しなのにいつもより熱い。
「黎明、お前の神になった覚えはない」
黎明の手で首元の釦が外れる。さらに下へひとつふたつみっつ。滑り込んだ手のひらが触れた肌をつたって心臓が規則正しく鳴っている。
「いいんだよ、オレの世界に神さまはいないからユミピコが代わりにいるんだ」
「神の声をきいて信徒になるのか、黎明」
「いいや、ただいるだけ。それでいい」
オレはおまえの声を聞かないし、おまえだってそうだろ、ユミピコ。
そう言って惚けたように笑った黎明は唇を寄せて、同じところに重ねる。一瞬触れて、天堂が押しのけると不満そうに今口づけたそれを尖らせた。
今夜の黎明は哀れなほどわかりやすい、し天堂を読むのにも上手くいっていない。
「なんでさせてくんねーの」
「酒臭い、やめろ」
黎明は鼻で笑う。
再び合わさってくる唇から伸びた舌先が絡んで、咥内を弄る。快感と不快感が混じり合って、奇妙な心地だった。
先ほどみたいに奔放に這い回る舌を噛んでやろうかと思ったが、この調子だとまだまだ面白いものを見せてくれるだろうし、この、感情が透けている黎明は新鮮で楽しそうだから好きにさせてみたくなった。たまにはこんな児戯も良いだろう。
「ユミピコなんで笑ってんの」
唇を離した黎明は引きずる唾液を舐めて、首を横に倒す。
「楽しいからな。黎明、おまえといると」
今の感覚が鈍り切った黎明にはきっと分からない気がして口に出して言えば、なんだかあまり見たことのない類の表情を弾けさせるものだから可笑しくなって天堂も釣られたように笑った。
黎明が先日のことを覚えていないようだと気づいたのは、流れで酒の話題に出た時だった。
どうも獅子神邸で酒を口にした辺りからもう覚えていなくて通話した記憶すらない黎明は朝、家で目覚めて驚いたらしい。
そもそもエナドリばかり口にしていて普段飲まないので自身の酒癖に気づくこともなかったようだ。
天堂は黎明の奇行を途中から声だけになった動画付きで指摘してやるべきか一瞬だけ迷い、やめた。その方がきっと面白いことになる、気がする。し同じ事を同じ量だけ共有する隣の男が知らない何かを持つこと自体気分が良い。
今度は参加したいだとか、他にも何か催したいことがあるだとか他愛もない話をしながら、さっき捕まえた咎人を袋に詰めていた二人は、黎明の家に向かって、それをとりあえずテラリウムの一室に放り込んだ。夜も更けていて帰るのも億劫だった天堂は、軽く配信をする黎明を横目にそのまま泊まるつもりで勝手に風呂を占領した。出てきた天堂へユミピコ、長すぎ、ととっくに配信を終えた黎明に悪態吐かれたから神だから当然だ、なんて言い放って呆れた目を背にさっさと黎明の寝室に入り込んだ。
つま先から髪の毛へ、身の手入れをしていると天堂の半分以下で風呂から出てきた黎明が無造作に髪を拭きながら寝台に上がる。
「乾かさないのか」
「んー今日はいいや、面倒。ユミピコはいっつも綺麗にしてるよなー、大変そー」
スマホを手に寝転ぶ黎明を横にしばらく整えるのを続けてから、櫛を置いて、寝台に体を乗り上げた。その瞬間、落ちる影が手入れしたばかりのそこに口づけて、リップクリームを剥ぐ。わざとらしく頭を乱暴に掴むから髪が乱れて、整えたばかりのその端正な形は見る影も無くなった。
「おまえは自分で言った言葉をすぐに忘れるのか」
「いや、だって綺麗だと汚したくなるじゃん。雪の積もったとことか、踏み荒らしたくなるだろ」
そう言って白い首筋に噛みついた黎明は、くっきりとついた赤い歯形を満足そうに眺めている。あとでやり返すとして、今日の天堂は、咎人への天罰も速やかに行われたこともあり大層機嫌が良かったので、身を整えたばかりではあったけど寛大な心で赦してやることにした。当然、黎明は天堂が尊大な態度であるのを言葉を交わさずとも見抜いているので呆れたようにはいはい、ありがと、ご機嫌な神さま、なんて軽口叩きながら、また唇を重ねて、寝台に押し付けた体に触れながら互いの服を散らしていく。
混じり合う体温が同じくらい熱くなって、額に汗が浮かんだ。黎明は天堂をよく見ているから、反応に乏しくともどこが善いのかなんてわかりきっていて、望んだ通りの快楽を身に浴びながら体内を突かれる感覚に瞳を細める。黎明は意識をぜんぶ向けられていないと機嫌が悪くなるので、その瞬間までは天堂の視界も聴覚も感覚も黎明を見ている。そろそろだろうなと思って背中に回した手で骨の形を確かめながら耳元で名前を呼んだ。
掠れた甘ったるい声色で黎明、と呼ばれるのが好きなようで腹の奥を抉る質量が増す。頭の中が溶けるような酩酊感に背へ深く爪を立てながら、締め付けてやると黎明は口にした通り綺麗なものを汚したくなったらしく、引き抜いたそれを天堂の腹に置いて、吐き出した。
肌にこすりつけてから体液にまみれたものを口元に差し出す黎明は熱に浮かれた瞳で笑んでいる。
「ユミピコ、綺麗にしてよ」
どんな反応をしようが勝手に突っ込んでくるのはわかっているので、さっさと唇と舌で拭ってやった。珍しく後ろからが良いと言うので体勢を変えるついでに口づけてやったら、物凄く嫌そうな顔をして、まずいと舌を出していたのですこし溜飲が下がる。
「おまえのだろう」
「最悪」
うつ伏せになった天堂の肩に頭が乗る。
「ユミピコの顔、あんま見えねーじゃん」
自分で望んだくせに苛立たしげに舌を打つ黎明は、しかし、このまま続けるつもりであてがわれたものが体を開いていく。
内臓を押し上げられるような感覚と共に背中へちりちりとした痛みが走った。白くて綺麗な場所をきっと荒らしたくなったのだろう。
表情すらわからないのに、黎明の動きは、天堂の中を知り尽くしていて、歯の当たる痛みですらぞわりとした快感に変わる。
酔っていた黎明は頭が回らなかったのかこの間は、一々、天堂の様子を訊いてきたのに。
その違いが面白くふと思い出し薄く笑みを浮かべた。瞬間、深く突き上げられて、強い衝撃に目前が白く染まった。そのまま同じところを擦られて強引に意識を落とされる。長く続く甘い痺れに陶酔して、熱を帯びた浅い呼吸が唇を濡らした。
「ユミピコ、おまえ、今、他のヤツのこと考えた?」
本当によく見ている。だからこそひどく愉快に思えて笑い声を枕に沈ませた。
「
……
その発言は神への冒涜だ。黎明、神はおまえだけを見てやっている」
覗き込んできた顔を、絶頂の余韻の残るせいでぎこちなくしか動かない半身を捻って見返して、歪めた口端のまま正しいこと言う。黎明はとても疑り深いのを知っているけれど、その一抹の差異をきっと暴けない。
「へえ、それにしては随分楽しそうだな、オレが知らないことを知ってるみたいだ」
「違うな、おまえの勝手な勘違いが面白いだけだ」
可愛いなあ、黎明。心からそう言ってやれば舌打ちが響く。
「おまえ、オレがイライラするのわかって言ってるだろ、それ。ほんっと性格の悪い神さまだな」
黎明の腰を掴む指の力が痛みを覚えるほどになる。苛立ちを示すように奥深くを何度も乱暴に突き上げられた。息苦しさと可笑しさが混じり合って、短い呼吸が喉を鳴らす。自分だけ昇りつめて、中に熱をぶちまけた黎明は、ずるりと引き抜いて、天堂の体を仰向けに倒す。
「神への奉仕とは思えんな。まあ今日は大変機嫌が良い。赦してやろう」
「ああ、そうかよ、だったら今夜はずっとご機嫌でいろよ」
脚を肩に引っ掛けて正面から再び押し込んでくる黎明は怒りを浮かべながらも目の奥は冷静だった。
今からその黎明から隠し事を守るのはとても楽しく愉快で、胸の内を騒がせるぞわぞわとした高揚感のまま、挑発するように唇を歪ませた。
獅子神邸のソファの上、黎明はいつもみたいに体を投げ出して寝転がっていた。天堂は趣味の天罰で不在、村雨は新聞を片手に茶を飲んでる獅子神におやつの催促をしていて、真経津はひとりでできる卓上ゲームをしていた。
黎明はSNSを流し見して、視覚から入る情報とは別でああそういえばと思い出す。
「ユミピコとたまにヤッてるんだけどさ」
せっかく注意が黎明に向いたのに獅子神の茶を吹き出す音に他二人の意識は取られてしまう。
「獅子神さん、汚いよ」
「いや、え、ヤッ、は?」
「何を今更そんなに動揺している? まさかヤるという言葉に羞恥心でもあるのか」
「いやそうじゃねーよ、叶と天堂がってとこに決まってるだろ!? テメーわかって言って
……
あ? またオレだけ知らねーのかよ!?」
「マヌケが」
嫌そうな顔をして避難していた村雨は戻って席に着いたが、その表情は獅子神の愚かさに呆れたままだ。
「えー獅子神さんほんとに知らなかったの? すごくわかりやすいのに。ほら今日もついてるよ、天堂さんがつけたキスマーク」
「んなの相手が天堂だってのわかるわけねーだろ、女でもいるかと思うだろ普通。この間テメーがホテル入ってくのみたし」
「敬一くん、もっとオレを見ろよ、オレが魅せない道具にそんなこと赦すと思う?」
「この男の気性を知っていてそこから少し考えれば叶の対象など絞られるだろう? そもそも私にはそんな推測を立てるまでもない。アナタたちしょっちゅう混じり合ってて不快だ、すこしはひかえろ」
村雨に指摘されて気づいたが、まあ確かにたまにとは言い難い。
あの神さま、欲求に忠実で、血の気に比例してるのか、咎人を罰した後とか結構誘ってくるし、黎明も悪い気はしないので、相手をするし、黎明だって天堂といて何か楽しくなってそのまま寝台に引きずり込んだりする。
「つーか、敬一くんが鈍いのはどーでもいいんだって! ユミピコがさ! 浮気してると思うんだけど! ひどくね!?」
先日のことが頭をよぎる。おまえだけを見ている、と笑う天堂の言葉も仕草も表情にも偽りはなかったが違う、のはわかる。何より天堂はひどく楽しそうだった。あれを誰と共有しているのかが気になって、腹立たしくて、見透せないのが我慢できない。
しかし村雨は黎明の憤りを理解できないという顔をする。
「
……
私はあなたとあのマヌケ神の間に契約的関係があるとは思えないのだが。恋人でもない上、あなたはあのマヌケ神以外、不特定多数とまぐわっていないか? 別に私はあのマヌケ神の肩を持つわけではないが客観的事実から見るとあなたに責める権利はない」
「オレはいーの、でもオレが見てるんだから相手はオレだけを見るべきだろ。だからユミピコが他のヤツ見てるのは許せねー」
「清々しいほどのクズ発言だな
……
」
「まあ、天堂さんが気にしないからいいんじゃない? 神さまに愛は足りてるから叶さんでちょうどいいよね、それに叶さんはいらないもんね、どうせ足りないから」
上手くいってるんだよ、この二人。
真経津の言う通りだ。ただ同じことを、感情を、楽しい、それだけでいい。黎明の底は抜けていて埋まらないのだからそれを天堂に求めているわけじゃない。
「なあ、誰か相手知らね? 全然わかんねーの」
「つーか、一番天堂といるテメーに心当たりがねーのに他のヤツが知るわけねーだろ」
ぐるりと見た黎明は、まだにっこり笑っている真経津と視線が絡む。
「
……
晨くん、知ってるな?」
「は? そうなのか、真経津」
「村雨さんも知ってるよ、獅子神さんは見てないからわかんないと思う」
真経津の一瞥を受けて一瞬だけ考える仕草を村雨は取る。
「
………
ああ」
思い至ったのか、真経津に視線を返した。さすがにこの二人からは何も読めない。
「叶さんったら嘘つきだね、あったんでしょ、心当たり」
「やっぱ晨くんはよく見てるな」
天堂のあの時見た反応の相手はきっと相当近くて信頼していて。そうこの友人たちくらいだと思っていたから話題に出して様子を見ていた。しかし、当てが外れたらしい。
「うん、わかってると思うけどボクじゃないからね」
「おい、私に向けて気色の悪い想像はやめろ、ちなみにそこの何もわかっていないマヌケも違う」
「うるせーマヌケマヌケいうな! え、いやどーいうことだよ!?」
「
……
これで敬一くんだったらオレの目は節穴だろ」
たぶん獅子神はまだ黎明と天堂が睦あっていることの衝撃で頭が止まっている。
「
…………
とりあえず天堂の相手にテメーらが心当たりがあるのはわかった、教えてやらねーの?」
「それは面白くないよね」
「
……
晨くんならそう言うと思ったよ」
震えたスマホに目を落とすと通知が表示される。丁度今話していた天堂からで、その名前をゆっくりと黎明は指で押した。
『神にも酒を奉じるべきではないか?』
それがこの数日前のメッセージである。
要は、この間の会に出られなかったのでもう一度開催しろとの催促であった。
黎明の気が進まないのは、その時の記憶がごっそり抜けていたせいだ。しかし、その日の話題を出した時、天堂は明らかに残念そうだったので、全員の予定を合わせて第二回を開催する運びになった。
再び開催された二度目の会で、元々の発端である真経津は、第一回の時点で酒の味には興味が失せたようなので獅子神が綺麗なノンアルコールのカクテルを作って渡していた。気に入ったようでいくつも催促して並べてはちょっと飲んで飽きている。ちゃんと全部飲めよと獅子神の叱咤が聞こえた。
さすがに村雨も先日は獅子神のワインをぱかぱかと大量に開けたのを気に病んでいるのか、それとも単純にもうあのワインセラーには目ぼしいものがないのか自分で幾つか見繕って持ってきていた。たぶん後者だろう。
天堂は獅子神の作ったつまみを村雨と競うように口にしながら、適当に中身を選んで杯を重ねている。そのせいか食べ物の消費が激しく獅子神はキッチンとテーブルを往復して、満足に飲めていないようだった。
黎明は先日のこともあるので缶酎ハイを片手にちびちびと飲みながら長椅子に全身を預けて周りを見ていた。
ようやく獅子神が席について、酒を傾けるまで喧騒を眺めていればそこに酒瓶をいくつも持って天堂がやってくる。黎明の隣に腰掛けた天堂はあの黒い瞳で黎明の同じものを覗き込む。
「神に魅せられているのはわかるが視線がうるさいぞ、黎明」
「ユミピコばっか見てたわけじゃないだろ」
赤い唇が歪む。言葉通りじゃないくらい天堂が気づかないわけがない。
「おまえが何を見たいか神は知っている。啓示をくれてやろう」
差し出されたグラスには並々と酒が注がれていた。
「一杯につきひとつだ」
何か含みがあるのはわかる。が目的まで見えなかった。乗るのも癪だが、天堂が魅せられる相手を暴きたい欲求がわずかに勝つ。
「いつからだ」
「最近だな」
「男、女?」
「男だ」
「顔は」
「美しい」
問答を繰り返すうち酒が回って脳が茹る。
ああそうだ、一番訊きたいことがあった。
「何が、よかった?」
「楽しい、それだけだ」
天堂の一つしかない目は黎明だけを見ている。
微かな頭痛。覚醒した黎明の視界には見慣れた自室の天井がある。半裸で横たわっていることに既視感を覚える。やはり記憶がない。最後に残っているのは天堂が酒を大量に飲ませてきたような、そんな場景である。
こめかみを押していると今ちょうど頭にいたままの見慣れた恰好の神父が寝室に入ってきた。
「連れ帰ってくれたの、ユミピコ?」
「ああそうだ、神に感謝しろ」
「いや待て、おまえが飲ませたよな?」
「覚えているのか」
「そこまでだよ、そのあとは」
「そうだな、黎明、お前が気になると思って撮っておいたぞ」
手渡されたのは天堂のスマホだった。開くとちょうど動画が始まる。頭の中と感情が垂れ流しの会話に、そのまま寝台になだれ込んでいる姿を見間違えるわけがない。
「
…………
オレじゃん」
霧散していた断片が繋がって、全てを理解した。とても機嫌良くひどく愉しげな神さまが満面の笑顔で顔を覆う黎明を見下している。黎明の些細なずれをずっと面白がっていた天堂が上機嫌だった理由がよくわかった。
「いや、なんかこのお前、いつもより優しいよな?」
「素直な子には神は慈愛を持って接する。優しくされたかったらもっと普段から可愛げを持て黎明」
「はあ!? お前こんなのがいいの。嘘だろ、いっつもオレと読み合いながらヤんの楽しんでるくせに」
不意に気づいた黎明は天堂の腕を引く。予測していたのか、簡単に寝台へと倒れた天堂の上に乗って服に手をかけた。乱雑に開いた下、肌にある赤い色に舌打ちする。
「ぜんっぜん記憶ねーしなんか寝取られた気分なんだけど」
「そこにいるのはどう見てもお前だ」
「そうだけどさー」
苛立ちのままべったりと浮く赤い痕に唇を這わせる。上書きしようとしてその数に嘆息した。やけに多い。
「
……
これ、オレを誘うためにわざとつけさせただろ」
「神の掌で転がるような幼子ではつまらないだろう? さっさと神を満足させろ」
2回黎明で遊んでもう飽きたのだろう。自分だけひとり楽しんで狡い。
「いつものオレの方がいいってユミピコこそ素直に言えよ」
「その必要があるのか?」
天堂の指先が髪を退けて、黎明の両目を探る。
ああ確かにない。全部見えている黎明に言葉なんてあってもなくても同じなのでその唇を塞いでも、天堂と同じ感情を共有していることを読み間違えるわけがなかった。
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