かずきち
2025-12-31 08:24:02
2532文字
Public SS
 

月華月

パンフ済 ドラマCD未聴で書いたので色々違うと思います…
まじで仲悪そうな妄想しかできなくてすまない
ここから信頼できるようになっていって欲しいですね



その日各陰陽寮の代表が一堂に介した。
天子のお触れが間違いでなければ、陰陽師同士で競わせるなど全くとんでもない事を思いつくものだ。裏で一体どんな思惑が行き交っているのか恋の知るところではなかったが、春と始が良しとしているならばそれに従おうと決めていた。
それになにより、恋個人の実力だけでなく駆との連携はどこまで精度が上がり、どこまで通用するのかを試すには持ってこいな機会ではある。有事の際に力不足でした、では困るのだ。
「頑張ろうね、恋」
「おうともよ!せっかく強〜い人たちがたくさん参加してるんだから、たくさん吸収してこー!出来るだけ負けないのは前提で、ね!」
もちろん!と契約主が作った拳に、恋も拳を上げて応えて笑う。
後ろの方で頼りにしてるよ、と春がにこやかにしていた。果たして、春の中でこの戦いはどれ程重要視しているのだろうか。


さて、我らが玄月院が相対したのは白嵐機関。噂はかねがねではあるが恋が個々に関わったことがあるのは隼と海くらいなものであった。一体どんな連中がいるのだろうと、春に許可を得て恋は心配する駆を残して単身相手の陣営へと顔を覗かせた。
すると同じように先陣を切ろうとしたのか、人の輪から離れてこちらへやってくる影が見える。
真っ黒い出立ちに朱がいやに目を引いて……形は違うが始や葵と同じく角が生えている。どちらかといえば始寄りの形をしていて、この人も鬼なのかな、と考えたところでばちりと目が合った。
「あ、えと……白嵐のひと」
「そうだけど」
眉一つ動かさず返事をされて口を引き結ぶ。見た限り同じ程の背丈の筈だが、何故か見下ろされているように感じ気圧されてしまう。
「次、俺たちとだから。よろしくね!」
それでも挨拶はしっかりと、と手を差し出すと、目の前の相手は鼻を鳴らしてから応じる。
「うん。よろしく」
……お?)
断られるかと思っていたがしっかり握手を交わしてもらえて恋は胸を撫で下ろす。おどろおどろしい見た目をしてはいるが中身は良い人のようだ。これなら安心して試合が出来そうだと名を名乗ろうとして顔を上げて、こちらに向けられている視線に恋は固まった。
目の前の鬼は、冷ややかな目をしていた。
この値踏みをするかのような不躾な眼差しを恋は知っている。
………っ」
玄月院に来る前の事を思い出して身体が強張ってしまう。
……うわ!」
たじろいで、男から離れようとしたのだがその瞬間繋いだ手を力任せに引かれて体勢を崩す。よろめいた恋の首元に男の顔が無遠慮に近付いた。
すん、と何度か鼻が鳴って、固まっていた身体が跳ねる。匂いを嗅いでくる動作にも恋には身に覚えがあった。追い立てられた時に、人間がそれを何匹か、連れていた。
目を瞑り、かける、と頭の中で相棒の名前を呼んで、折角心配してくれていたのに置いて来てしまったのを後悔しているとすぐにゆらりと影が離れていく。元の距離に戻った男は、それはそれは心底つまらなさそうにしていた。
……なんだ。ただの鼠か」
………………はぁ!?」
どう聞いてもこちらを馬鹿にした物言いで放たれた言葉に恋は流石に声を上げた。確かに鼠ではある。あるが、玄月院の代表の身としてこの場にいる以上その評価をされるのはあまりに心外である。かちん、と来て恋は未だ握手をしたままの手をはたき落とすように離した。
「玄月院も参加するって聞いたから、春さんと始さんがどんなやつ連れてくるのか期待してたのにな。ただの鼠だなんて」
「おい!」
尚も期待はずれ、と言わんばかりに残念そうな声色で挑発してくるものだから耐えきれずに更に声を荒げて掴み掛かろうと地面を踏み締めれば、突然どこかから飛んできた何枚かの形代が目の前の男を取り囲む。
「ごめん涙、もう戻るよ」
それは白嵐からの遣いだったのだろう、対面している恋に見向きもせず形代といくつか会話をした男は、そのまま背を向けてこの場を去ろうとする。
だがしかし、それでは恋の気は収まらない。馬鹿にするだけして戻って行こうとする慇懃無礼な背中を引き止めようと口を開く。
「おっ……お前だって!立派に角生やしてるかと思ったら、ただの犬じゃんか!!」
確かに鬼かと思わせる風貌をしていながら、この短時間で恋がされたのは匂いを嗅ぎ分けられた事だけだ。嗅覚の鋭い鬼も居たりはするだろうが、経験からして、あの振る舞いは正に犬そのものだ。
挑発し返してやるつもりでそう叫ぶと、既に歩き出していた背中がぴたりと止まる。反応があった、と少しくらいは反撃できた気持ちで、不服そうな顔をした男の顔が見られるのだろうと勝ち誇っていた恋だったが、ゆっくりと振り返った男は、その予想に反して先ほどと変わらぬ表情をして、それからにやりと口角を上げて言った。
「わん」


………………くっそぉ!
手を強く握りしめて今度こそ遠ざかっていく背中を睨みつけていると反対側から恋の名前を呼ぶ声がする。
そこには、ついさっき心の中で助けを求めたのが届きでもしたのか、大事な大事な主が手を振りながらこちらへ来ていた。左右にまとめた髪を靡かせながら走る駆を、腹立たしさやら悔しさやらなにやら混ぜこぜになって滲んだ視界に収めると、駆はぎょっとした顔で恋を見た後に、その向こう側にいた姿を確認して、ため息をついた。
「あっちゃー恋、郁に会ったの?」
「かけるさぁん」
べそべそと耳を垂らして、手を広げた駆の元へ飛び込む。
「めっっっちゃくちゃ下に見られた!!なにあいつ!!」
「白嵐の猟犬だよ。結構長い事いるらしいからねぇ、自尊心高いんじゃない」
「知んないよそんなの!…………かけるん!」
「な、なに?」
あの男……郁と言うらしい。を駆は知っていたようで、二つ名を聞くにやっぱり犬なのかよと、先ほどのわざとらしい鳴き声の後に舌をべーと出して嘲笑われたのを思い出してまた沸々と怒りがわいてくる。かくなる上は。
項垂れた恋の頭を背伸びをして撫でていた駆の手を強く掴む。
「ぜっっっったい!!勝とうね!!!」
「あーあ」
めらめらと燃える瞳で最初に掲げた目標とは違った決意に満ちる恋に、駆は肩をすくめた。