望月 鏡翠
2025-12-30 23:37:52
916文字
Public 日課
 

#1949 ディルストーン居城にて14

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作


 時間があれば、案内人をつけてアンタイアーをしばらく旅して回りたかったが、やるべきことは山のようにある。物事の優先順位を間違えてはいけない。
 今、領地を捨て置いて遊学に出ている時間はない。何かのきっかけで外交のついでに会って話せたらいいのだが、それは今後に期待しよう。
 急務である女預言者の招聘の準備と砦の建設の気配を整えている間に、エリセオの教育をして、しばらくは領土の椅子を温めていよう。
 行きの旅程が辛かった分、帰りは短く感じる。馬車に揺られているだけの旅は楽だった。
 屋敷に戻ったら諸々の報告をして、領主ぶりを見せつけたあとは、今度こそゆっくり眠ろう。
 そう思って屋敷の門を潜ったトルガは、ジョアンの坊主頭に出迎えられたのである。
 金の髪もよく目立ったが、地肌ほどではない。
「お前……髪が、ねぇんだけど」
 思わず取り繕うことを忘れた声が出ていた。気の利いた皮肉でも言えばよかったのだろうか。
 世俗を捨てたものには一部、そうするものがいる。対外的に世俗の人間でないことがわかりやすいからだ。しかし、大抵は髪の毛を隠す程度である。あとは罪人やしらみの湧いた平民、そして病のものだけがそのような見た目をしている。何だったとしてもリュネスト家にとっては大騒動になるが、どれでもないようだったので、ひとまず心配しなくても良いらしい。
 その髪型はどれでもなく、自分で剃り落としたのだという。自らを辱めることで罰としたとかなんとか。
 貴族の思考は理解ができない。彼らは体面を気にしすぎてがんじがらめだ。
 トルガを引き摺り下ろし、ジョアンを領主にと考えていたのは、彼自身だけではなく家の中である程度の勢力になっていたはずだ。説得がうまくいかず、黙らせるのはこれくらいわかりやすくしなければいけなかったのかもしれない。
 理由を色々と考えてみたが、出てきた感想はシンプルだった。
「ウン……、お前ちょっと、気持ち悪いな」
 求めていないものを与えられたことに対する、率直な気持ちだった。そんなものまでは求めていない。
 交渉の余地がありそうであれば、今後は改めてもらうように、相談しなければいけないことだろう。