ニイナ
2025-12-30 23:05:56
7510文字
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寄り添うきみがいるということ 3

転生パロのロドフの続きです。まだ若様視点が続きます。ローの隣が若様の居場所であってほしい。
長くなりすぎててよくわからなくなってきました。



 待っていたらしいローに迎えられ、そのまま食事をすることになり、ドフラミンゴはローについて行くことになった。食事に関してはローに一任しておけばいい、と思って気楽に考えていた。ローが空腹なら早々と食事にして帰宅になるだろうなと思い、ドフラミンゴは隣に立つローを見上げ、その顔がどこか神妙なのに目を丸めた。
「ロー?」
「ドフラミンゴ、一本だけ良いか?」
「べつに構わねェが……
「悪い。五分、いや、三分で済ます」
「急ぐことでもないだろう。気にするな。車で待ってればいいか?」
……近くで待ってろ」
 ローの意外な申し出になるほど、と納得してみせれば、ローが気忙しいことを口にしてドフラミンゴは息を吐いた。煙草を吸う時間などそう長いものでもない。ひと息つきたいのはローも同じ心境なのかも知れないと思えば、ゆっくりすれば良いとドフラミンゴは思ったのだ。それでもローが目の届く範囲に置こうとするのにはわずかに呆れて、ドフラミンゴは額を押さえた。
 喫煙所には二人ほど先客がいて、ローがするりと入ってくるのにすこしだけ奥に詰めたらしい。煙草を吸っていたのかと物珍しい気持ちでローを眺めていれば、どうやら手持ちにはなかったらしく、他人に煙草を譲ってもらっているのがわかる。常習的に吸っているわけではないのだな、とその様子を見て理解して、そういえばローからは煙草のにおいがしなかったことを改めて思い出した。初めて出会った時も、その次の再会で抱きしめられた時も、顔を見に来る時も、ローからは清潔で薬品がにじむにおいがしていた。
 煙草をもらい受けたローがライターも借りて火を付ける。ぽっと、赤く燃えるちいさな火は煙草の先を焦がし、紫煙を立ち上らせる。細身で端正なローが煙草を吸う姿は、その場にいる誰より様になっていた。やや物憂げな顔をして煙草を呑むローを見つめて顔の良さを実感し、女も男も選り取り見取りだろうし放っておかないだろうな、とドフラミンゴは思う。医者としての腕もおそらく確かだろうし、愛想が良いとは言えないが整った顔でもある。高身長が好印象につながるのであれば、ローの身長もかなり高得点なものになるはずだ。今のローならもっと自由に選んで生きられる。それなのにドフラミンゴに構って記憶に囚われているのが、本当におかしい。ドフラミンゴが子どもで、その境遇を見過ごせなかったのだとしても、関わる必要はないはずだった。
 今生で出会ってから、そのまま放置しても良かったのだ。だというのに、ローがどういうわけかドフラミンゴに関わってくるので、ドフラミンゴはどうしていいかわからない。ローの傍は居心地が良いのは確かで、けれどもそのことをドフラミンゴは上手く受け入れられなかった。どうせこれは一時的なものだと納得させながら、ドフラミンゴはローから視線をずらした。そしてふと目に入った姿に意識が引き寄せられた。
「ロシナンテ……?」
 髪の毛の色は違うものの、背格好が似ている後ろ姿へ、ぽつりと名前が口からこぼれた。この世に生を受けたあとも、弟の気配はまるでなく、同じ境遇ではなかったことに安堵をしていたのだが、まさかこんなところにいるのか、と心臓が大きく音を立てた。そこまで都合良くできているはずがない、と頭の片隅で言い訳をして、明るい緑色の髪の青年を見つめていれば、その背中がくるりと向きを変えた。その時に露わになった顔は、ドフラミンゴの知る弟のものではなかった。かち合った眸はうすい紫色をしていたし、唇の厚みが違っているし、顔つきが別物だった。その青年を見つめ、ドフラミンゴは落胆と納得をして、さすがにそうはいかないかと息を吐く。
「お前、迷子か?」
……は?」
「それか保護されたやつか?」
「ちがう……
 不躾に距離を詰めてくる青年にドフラミンゴは目を丸め、ゆるりと首を振った。問われたものには短く答える以外できず、どうしたものか、と考えていれば、喫煙所のドアが勢いよく開いた。のそりと暗闇から這い出たかのようなじっとりとした眼差しをしたローが、青年に低い声で問いかけた。
「うちのになんの用だ?」
「なんだ、迷子じゃねェのか。良かった」
「おいコラ、会議始めんぞ!」
「やべ、遅れちまう!ひとりじゃねェなら安心だ。じゃあな!」
…………
 後ろからかかった声に反応した青年がドフラミンゴの頭をくしゃりと撫でて、かろやかに踵を返す。颯爽としたその姿にドフラミンゴは呆気に取られ、そのまま青年を見送った。バタバタと駆けていく背中はすこし弟を思い起こさせたものの、それは本当に一欠片の記憶でしかなかった。
「すぐ絡まれてんじゃねェ」
「今のは不可抗力だろう」
…………
 不愉快さを前面に押し出して声を落とすローにドフラミンゴはそう返すしかない。そんなドフラミンゴに、ローが顔をしかめて口を曲げた。不快さを隠しもせず苛立ちを見せるローのことをどうにも不思議な気持ちで眺め、ドフラミンゴはローの手を引いてみせる。これ以上ここにいることもないだろう、という思いを正しく受け取ったローが不機嫌な顔をしたままドフラミンゴの手を取った。
 警察から出て停めていた車に乗り込み、ドフラミンゴは助手席のシートにゆったりと背を預ける。空はどんどん曇ってきていて、一雨きてもおかしくない天候になっていた。陽が落ちてこないとやはり寒くなっていくなと思いつつ、車内には暖房が効いているため快適だった。相変わらずローの運転は安全で、慎重とさえ言えそうだった。
「食事はどうするんだ?」
「買って帰る」
「そうか」
 ドフラミンゴの問いかけに端的に答えを返したローの顔にはまだ不機嫌さが残っていて、ドフラミンゴは嘆息する。むすりと曲がる口を見つめて、あれはどうしようもないものだろう、と思いつつも口にはしなかった。蒸し返してローの機嫌が悪くなるのも面倒だったのだ。食事のことはすでにローに一任しているので、もう気にもしないことにしてドフラミンゴは黙って助手席に身を委ねた。
 ローの安全運転に任せていれば、車の速度がゆるやかになる。ちらりと近くの建物を見遣れば、高級そうなスーパーが目に入った。なるほどここか、とひとり納得して車が停まるのを待ち、ドフラミンゴはシートベルトを外そうとした。
「お前はここで待っとけ」
「は?」
「エンジンは切っていくからこれも着てろ」
「おい、ロー」
「すぐ戻る」
 ドフラミンゴの手を制止して声をかけてくるローに、ドフラミンゴはつい動きを止めてしまう。エンジンが切られるのとともに暖房の熱も止まり、ローが着ていたコートを脱いでドフラミンゴへと被せた。財布と車の鍵だけを持って車を降りていくローを呆然と見送り、ドフラミンゴはどうしていいかわからなくなる。過保護、という言葉がよぎるほどのローの様子に、けれどもそんなものであるはずがない、と言い聞かせた。呼びかけに応えもせずにスーパーへと向かうローの姿は、厚めのニットだけでどう見ても寒そうだった。そんなローから視線を外して、ドフラミンゴは被せられたコートに目を落とす。ネイビーのシンプルなコートはウールが混じっているのか少し重たく、そうして暖かかった。ぎゅぅ、とローのコートを握ってドフラミンゴはわずかに途方に暮れた。
 本当に時間をかけずに買い物を終えて戻ってきたローの手には、思ったよりも多い荷物があり、ドフラミンゴは目を丸めた。何を買ったのかと問いかける間もなく後部座席に荷物を置いて、ローが運転席に座り、エンジンをかけた。シートベルトを締めたローがドフラミンゴからコートを奪い取ることはなく、ドフラミンゴは部屋に戻るまで暑いくらいの暖かさに包まれていた。
 アパートの近くのパーキングへと停められた車から降り、ドフラミンゴはローとともに短い帰り道を歩く。コートは不要だと判断されたのかローの手にかけられていて、薄手に見えるローが寒々しかった。手を繋ぐ必要もないのになぜか車を降りるとローに手を掴まれていてドフラミンゴは逃げはしないのに、と思ってしまった。
 ものの数分で着いてしまう距離が、どことなく惜しいような、ほっとするような、そんな相反する気持ちが胸に湧いてくる。そしてそのことにドフラミンゴは狼狽えていた。ローと再び出逢ってからというもの、今までなかった感情がすこしずつ芽吹いていく感覚がする。それはドフラミンゴにとって、あまり好ましいことではなかった。心を揺らすものなど、ない方が楽に生きられるのだ。何も気にもせず、生きていけるほうがドフラミンゴにとっては良かった。
 アパートの部屋の前までたどり着き、ローが足を止める。それにドフラミンゴもならって足を止め、そういえば食事はどうなるのだろう、とぼんやり思っていれば、舌を打ちそうな顔をしたローにスーパーの荷物を手渡された。
……これ持ってろ」
……
 断る理由もなくそれを受け取り、なかなかの重さに眉を寄せ、ドフラミンゴはローの手から抜け出そうとする。中身が何なのかはわからないものの、これを受け取ればもう用はないだろうと考えてのことだった。けれどもそれも、ローの強い力によって阻まれていた。ぐっと繋ぐ手に力を込められて引かれ、ドフラミンゴはローを睨め付けようとしてその顔がまた不機嫌と苛立ちに染まっていることに目を瞬かせた。
「何してる」
「何って、帰る……
「戻らなくていい。飯はこっちで食べろ」
「ロー?」
 ローからの言葉にも態度にも有無を言わせぬ圧を感じ、ドフラミンゴは鍵が開けられたローの部屋に入り込むことになった。べつに元の部屋に帰りたい、という強い意志があったわけではないのでローの挙動を受け入れ、ドフラミンゴは息を吐いた。ドフラミンゴの部屋に踏み込むことはしなかったくせに、ローの部屋に上げることはするのか、と思いつつも、これも成り行きだろうとドフラミンゴは諦めていた。
 同じ間取りのはずなのに、ローの部屋はきちんと人が生活しているにおいがあった。丁寧ではなくとも、確かに人が暮らしているという気配がいたるところにある。玄関を上がって手洗いとうがいを済ませ、リビングへと向かうと、段ボールがいくつか雑然と置かれているのが見え、ドフラミンゴは首を傾げた。
「お前まだ荷解き終わってないのか?」
「あァ、それは別におれのじゃねェよ」
「ふぅん……
 引っ越ししたてでもないだろうに段ボールがあるのか不思議で問いかければ、微妙な答えが返されドフラミンゴは納得するしかなかった。ローがこんなふうに何かを買う、ということもあまりイメージにはなかったのだが、ローの物ではないと言われると、なるほど、と思ってしまった。その段ボールの中身は気にもしないことにして、ドフラミンゴはひとまずジャケットを脱いでローテーブルの前にぺたりと座り込んだ。手にしていた荷物はさっさとローが運び込んでいたのでドフラミンゴは手持ち無沙汰になってしまう。かといってすることもないので大人しくローがテーブルに付くのを待っていた。
 少ししてドフラミンゴのもとに来たローの手に持たれたトレイには、おにぎりが5つと焼き魚が二匹とサラダが載せられていて、その量にドフラミンゴは目を見開いた。
「味噌汁もいるならインスタントがある」
……いらねェ」
 ローからの言葉に首を振り、ドフラミンゴは目の前に並べられた食事に呆気にとられるしかない。2人分にしても多い量を見てこれ以上を欲しいとは思えなかった。そもそもどれだけ自分が食べられるかもドフラミンゴにはわからない。
 テーブルについたローが、おにぎりの皿を真ん中に置いて、魚の皿をドフラミンゴとローの前に置き、サラダをドフラミンゴ寄りに置いていく。割り箸と取り皿をドフラミンゴの前に置いて、ローが自分の箸を手にした。
「おにぎりの具は、鮭と昆布とかつおで、あとは塩むすびだ」
「わかった」
「食える分だけ食えよ」
「そうする」
「いただきます」
……いただきます」
 ローからの言葉を聞いて短く返し、ドフラミンゴはひとまず箸を手に取った。空腹感は確かに感じるものの、食欲というものが欠けていて、どうしたものか、と頭を悩ませる。サラダに手を付け、新鮮な野菜の甘みと苦味にわずかに感動しながら、塩むすびに手を伸ばした。一口かじると程よい塩気と米のやわらかさが伝わり、米を噛むことでその甘さが口内へと広がっていく。これはきっと美味しいものなのだろう、と忘れかけた感覚で思ってドフラミンゴはローを見つめた。
 おにぎりを思いの外豪快に食べて咀嚼していくローの姿は、逞しさすら覚えるほどだった。どちらかといえば細身の部類に入るローが黙々と食事を取る様が、見た目とのギャップにも思える。そしておにぎりの豪快な食べ方とは裏腹に、魚は実に丁寧に食べていてドフラミンゴはつい笑ってしまった。切り身とはいえ、骨がある魚はほぐすのも意外と手間なものだ。それをローが綺麗に骨だけにしてほぐして食べているのが、納得とともにおかしくなる。
「なんだよ」
「フフフッ……いや、お前の魚の食べ方はきれいだなと思っただけだ。まァ、手先が器用だと、そうなるものなのかもな」
…………
「ロー?」
「べつに、これぐらい、普通だ」
 不躾な視線だとでも思われたのか怪訝そうに問われて、ドフラミンゴは素直に感じたことを口にした。それに沈黙が落ち、目を上げれば目を見開いたローがもごもごと落ち着きなく返してくる。じわりとうすく朱に染まる頬を見て、ああ、とドフラミンゴは古い記憶をまた引き摺り出した。はるか昔、幼かったローの手柄を褒めた時の顔と今のローが確かに重なる。ひどく永い時間を経ているはずなのに、こんなにも同じなのだと突き付けられてドフラミンゴは何も言えなくなってしまった。
 感じていたはずの空腹も鳴りを潜めていて、これ以上は口にできないと箸を置く。おにぎり一つも口にせず、サラダを半分ほど食べただけになったのだが、ドフラミンゴの胃は制止をかけていた。
「ごちそうさま」
……食わないよりはマシだな」
 ドフラミンゴの食事の量に眉を寄せたローがそれでも十分だと判断したらしく、もっと食べろ、なんていうことは言われなかった。ローに納得はないだろうが、ひとまずは良いことにしたのだろう。ドフラミンゴの様子を確認してからもローが食事を続けていくのをドフラミンゴはじっと見ていた。大きく口を開けてサラダを取りこみ、おにぎりに齧りつき、綺麗にほぐされた魚を咀嚼する。ローの食べっぷりを見ると、これが生きることなのだ、と妙に実感してしまった。
 食事をやめたドフラミンゴはローがどんどんテーブルの上にあるものを平らげていくのを見つめ、この後はどうなるのだろう、と考える。元の部屋に帰るのには違いなく、それ自体は良いのだが、あの部屋が自分の居場所だという感覚は薄かった。むしろ、ローの部屋のほうがやけにしっくりきてしまって、ドフラミンゴはその事実に眉を寄せるしかない。ローの隣が居場所なのだという思い違いをしたくはなかった。
「ドフラミンゴ?」
……なんだ」
「眠いならもう寝ていいぞ。疲れただろ」
「べつに、そういうんじゃ……
「風呂に入りたいなら入ればいい。間取りは同じだし場所はわかるよな」
…………は?」
 口を閉じて押し黙っていたドフラミンゴの様子を気にしたローに言われて、ドフラミンゴはゆるりと首を振る。確かに疲れてはいたものの、眠りとはまだ結びついていなかった。それでもローが休めばいい、とすすめて言葉を続けるのにドフラミンゴは唖然とする。まるでこの部屋で風呂に入って寝ろ、とでも言うような話しぶりに理解が追いつかない。
「着替えも用意してあるから気にしなくていいぞ」
「いや、お前、何言ってる。俺の部屋は、」
「戻らなくていい、と言ったはずだ」
 そんなローの様子に眉を寄せて言葉をこぼせば、表情をすっと消したローに有無を言わせぬ強さで言われ、ドフラミンゴはハッとした。確かに部屋に入る前に同じセリフを言われたのだが、それは食事のためだけ、だと思っていた。けれどもそれだけではなく、ローがこの部屋をドフラミンゴの居場所にしようとしているのだとようやく気付いた。
「ロー」
「お前は、ここにいればいい」
 その声はひどく強制じみていたし拒否を想定しない強いものだった。だというのに、どこか切実さを感じてしまって、ドフラミンゴはまたローという人間がわからなくなる。目の前にいるトラファルガー・ローという人間は、果たして本当にドフラミンゴの知る青年なのかと疑念を抱かざるを得ないほどだった。それでも、どうしようもなく、この青年はドフラミンゴの知るローなのだ。
…………寝る、が、お前と一緒には寝ない」
「そうか」
 理解が追いつかないままのことに脳が休息を求めていて、ドフラミンゴは考えることを放棄した。もう何も考えたくないし思いたくもない。一刻も早く休んでこの現実から逃れたかった。そう思って絞り出した言葉に、あまりにあっさりローが頷くのでますますドフラミンゴはわからなくなり、目眩がした。一緒に寝ない、という宣言はすなわちローのベッドをドフラミンゴが占領するということだ。それをローが容認したことが理解できない。何を考えているのかわからないローからも距離を取ろうと、ドフラミンゴは立ち上がり、ローの寝室へと足を向けた。
「着替えはベッドの横のチェストに置いてあるからな」
…………
 背中に投げられた言葉に反応することなくローの寝室のドアを開く。ベッドと本棚が置かれただけの寝室は実にローらしく、頭がぐちゃぐちゃになっているのにどうしてか落ち着けてしまった。ローのいうようにチェストには真新しいパジャマが置かれていて、ドフラミンゴは深く考えることなく着替えを済ませた。このパジャマの意味を考えるのも億劫すぎたのだ。そのままベッドに潜り込み、目を閉じる。しんとした空間はドフラミンゴを一人にさせるのに、ベッドからはローに染み付いた薬品らしきにおいがして、ローの気配がした。それでもそれはさほど嫌ではなく、ドフラミンゴは身体を丸めて眠りの準備をする。睡魔など感じていなかったはずなのに、疲れからかとろとろと眠気に誘われ、ドフラミンゴは気付けば意識を手放していた。