紫よか
2025-12-30 20:51:19
1259文字
Public FE蒼炎暁
 

暁を望む

セネリオ×ラティ 暁の女神終章

 どれだけ戦っただろうか。きっと、これが最後だ。もうすぐ、女神アスタルテと戦う。私たちは神と戦う。

 導きの塔は幻想的な薄明かりに包まれている。何度も血が流れた場所とは思えないくらい、美しかった。アイクとミカヤ……いや、今は負の女神ユンヌだったか、が話しているのを、私は離れた場所でぼーっと見ていた。多分、私のわからない話をしているのだろうと、ふ、と目をそらせば、遠くに長い黒髪に白装束の、彼の後ろ姿。魔道書と杖を持って、所在なさげに自身のつま先を見ている。

 私は、気がつけば彼の元に駆け寄って、彼の背中を抱きしめていた。彼はびくりと肩を振るわせ、そして顔を私に向けた。

……ラティ。ふざけている場合ではありません」
「ふざけてなんていないわ」
「そうですか」

 相変わらず冷たい声音だが、それでもセネリオは抱きしめる私を拒まなかった。それどころか、胸元に回された私の手に、その手を添える。冷たい手だ。けれど、あたたかい。

 三年前から、私はこの冷たくてあたたかい人のことが──

……セネリオ、私ね、あなたのことが……
「聞きたくありません」
「どうして?」
「それがあなたの遺言になったら、寝覚めが悪い」
……そうね」

 あなたも、私に何も残してくれないの? そう言いかけて、抱きしめたまま黙り込む。無音の時間。まるで、この世界から二人して消えてしまったかのような、たった今そんな夢を起きたまま見る。見ているのは、きっと私だけ。私だけなのだ。

……ラティ」
「なあに」
 静寂を破ったセネリオが、私にしか聞こえない小さな声で囁いた。
「死ぬことは、許しません」
……!」
「あなたが死ぬと、悲しむ者たちがいる。そのことを忘れないように」
「それは、あなたも? セネリオ」

 私が問うと、彼は私の腕の檻をほどき抜け出す。振り返って、私の目をその静かな光を湛えた赤い瞳でじっと見つめた。
 そして、ゆっくりと、私の手をその手で握った。その瞬間、私の胸がぎゅうと鋭いものが刺さったように痛くなる。この痛みは、彼の温もりがこれを離したら消えてしまうかもしれないという恐ろしさと、彼の温もりが確かにここにあるという嬉しさから。ああ、彼はここにいる。痛くて、嬉しい。

……はい」
「そう、そう……
……だから……あなたのその言葉は、もし二人とも生き残ることができたら、聞くことにしましょう」
「その時は、答えを聞かせてくれる?」
「はい」
「ふふっ、絶対よ?」
「こんな状況ではしゃがないでください」
「はしゃぎもするわ。生きる理由ができたもの」

 握られた手を握り返し、ぱっと離す。呼ばれたのだ。どうやら、進軍の準備ができたらしい。私たちは、この塔の明かりではなく、暁の光を見ることができるのだろうか。いや、見られるだろう。きっと。
 私にとって生きることは痛い、辛い。それでも、太陽は昇る。暁は訪れる。私は──それを望んでいた。大切な人と生きるためなら、この痛みも悪くはない。