フリンズさんが花束を買いに来た話

※花屋さんに通う話の続きです。

「こんばんは、良い夜ですね」
「こんばんは!いらっしゃいませ」
 
 ナシャタウンにある花屋でアルバイトをしていると、たまにフリンズさんがお花を買いに来てくれる。彼がナシャタウンに来るのは稀ではあるが、訪れるたびにお花を買ってくれているようだ。ちなみに、この花屋には鉄製のお花も売っているんだけど、彼は毎回生花を購入していると思う。
「今日はどんなお花をお求めですか?」
「そうですね、花束を一つお願いできないでしょうか?」
「えぇ勿論、では店長を呼んでき――
「いえ、ぜひ貴女に作成頂きたく……如何でしょうか?」
 アルバイトの私が作る花束は、まだ上手くできないこともあるので、花束の依頼があるときは店長にお願いしている。でも、フリンズさんは私が作る花束が良いと言うこと?
……わかりましたっ、精一杯頑張りますねっ!」
「えぇぜひお願いします」
 そう伝えると、心配そうにしていた彼の表情は明るい笑顔に戻ったようだ。
 
「では、どのお花を使いますか?何か色や花の指定があればどうぞ」
「そうですね、ではまず黄色のガーベラを二本と、こちらのキキョウを数本、あとはお任せしてもよろしいでしょうか」
「分かりました。少し考えますので、少々お待ち下さいね」
「はい、お願いしますね」
 黄色と紫のお花をまとめる花を追加したいからうーん、ここは私も好きなカスミ草の白を追加してみたら……どうかな?ボリュームも出て花束には良いかもしれない。よし、これで!
 花の配置を決めて、麻紐で括る。綺麗にラッピングして……あっ。
 
「フリンズさん!」
 待ってくれている間に少し離れていた彼へ呼びかけると、すぐこちらに来てくれた。
「どうしましたか?」
「最初にお聞きするのを忘れてしまい、すみません。ラッピングの最後にお好きな色のリボンを巻くのですが、何色にしましょうか?」
「ふむ、そうですね……
 フリンズさんは片手を口元に置きながら少し首を傾ける。お渡しする相手のことを考えているのだろうか?それならば、そのお相手は羨まし――いや、こんなこと考えてしまうのは駄目だ。落ち着け自分。
 
「では、青色のリボンでお願いします」
「青ですね、分かりました」
 急いで作業場に戻り、丁寧にリボンを巻きつけて、よし完成だ。我ながら綺麗に出来た気がする。
「お待たせしました!こちらで如何でしょうか?」
「素晴らしいですね。とても美しい花束になりました。ありがとうございます」
「お気に召したのであれば、何よりです。どうぞお持ち下さい」
 フリンズさんに花束を渡す。そのとき、少しだけ触れた彼の手に、私の心臓はドキっとしてしまう。
 
「今日は自分用ではなく、大切な方にお渡しする花束でしたので、貴女に作成頂けて良かったです」
「あ、はい……それは良かったです」
 そうか、大切な人か……恋の始まり前にフラれたかぁ。
「それでは、また。良い夜を」
「はい、ありがとうございました!」
 立ち去る彼の後ろ姿を見ながら、ほんの少しだけ涙目になる自分がいた。……さて、そろそろ閉店時間だ。片付けを始めよう。
 
 
 ***
 
 
「こんばんは、またお会いしましたね」
「フリンズさん?」
 閉店作業を終えて退勤した後、お店裏の路地に先程お別れしたはずの彼が立っていた。あの花束を持って……
 いや、そんなはずは、ないとは思うのだが、まさか
 
「それでは改めまして。――以前からお慕いしておりました。どうか僕とお付き合いして下さいませんか?」
……えっ!」
「おや、僕の想いは伝わっておりませんでしたか。……これは手強いですね」
……だって、その花束は大切な人にって……
「えぇ、はい。その大切な人というのは、貴女ですよ」
 そう言って彼は綺麗な瞳で弧を描き微笑む。差し出された花束は、もちろん私が作ったものだ。そうか、黄色と紫の指定は、彼の瞳と髪の色で……その花束にはあるものが追加されていた。これは
「僕が作ったこちらも追加しました。……受け取って頂けますでしょうか」
 花束の中央には、袋がけされたランプ型の飴が差し込まれていた。その可愛らしい飴を数秒見つめていたところ、フリンズさんが眉を下げて困り顔に変わっていた。
「受け取って……貰えない、でしょうか?」
 その表情が、なんとなく可愛らしく見えてしまい、クスクス笑ってしまった。
「いいえ、ありがとうございます。……よろしくお願いします」
 一歩前へ出て彼に近づき、私の作った花束を受け取ることにした。
 
 
「そういえば、なぜ青色のリボンを選ばれたのですか?」
「貴女の髪紐が青色だったので、お好きな色かと思いまして」
……なるほど、あの時は私が見られてたんですね」
「ふふっ、これから貴女の好きなこと、興味のあること、たくさん教えて下さいね」
 
 
 
『優しさ、究極の愛/気品、変わらぬ愛』