でがらし
2025-12-30 15:53:24
2224文字
Public 【吸死】ドラヒナ~全年齢~
 

【Δドラヒナ】パルフェ・デートロード

ここに載せ忘れていたΔドラヒナ(https://privatter.me/page/6745bc4ff0fb1)の番外編。
ドラルク隊長視点。あの時は某所でコラボイベントしてたんですよ、懐かしい。
またやってほしいものです。
初出:2023年1月15日

 失敗した。……好きな子を、泣かせてしまった。

……ねぇ。申し訳ないのだけど私のパフェ、食べてくれる?ちょっと冷えてきてしまって……
「大丈夫ですか? ……では、遠慮なく!」

 二口だけ食べたタピオカ入りのパフェを差し出すと、ヒナイチ君は少し心配そうにしながらも受け取ってくれる。沢山動いてお腹が空いたのだろう。すでにクレープを完食したというのに、ヒナイチ君はチョコバナナのパフェと私が渡したパフェを食べ比べするように頬張っていく。心から幸せそうな笑顔だ。さっきの道中では、私が引き出せなかった、リラックスした……

「うぅ……
……大丈夫ですか、隊長……?あの、もしよければこれ……
ポーチからごそごそと胃腸薬を取り出そうとしてくれるヒナイチ君に、軽く首を振って静止する。
「心配させてしまってすまないね。ヒナイチ君はパフェを楽しんでくれ。なあに、いつものことさ!」

……いつものこと、にしたくなかったのになぁ。そう心の中で呟く。
 この任務、もといデートを取り付けるためにどれだけ私が根回ししただろう。チケットを手に入れてから誰にもバレないようにヒナイチ君を誘ったこと、今日一日を空けるための仕事の調整、そしてあの五歳児吸血鬼のお守りをお願いするためにジョンに貢いだおやつあれこれ。それらが走馬灯のように駆け巡って胸をきゅっと苦しめる。それもこれも今日完璧なエスコートをしてヒナイチ君の好意を引き出すためだったのだけれど。

 パフェに集中しているヒナイチ君をちらりと見る。その目尻には、微かに残った涙の痕。

(まさか、ペンギンが苦手だったとは……

 流石に予想外だった。私に悪いと思って自分の弱点をひた隠しにしていただろう彼女を想像する度に、申し訳なさで胃がキリキリと痛む。
 絶対に、途中までは上手くいっていたのだ。そもそもデート前から彼女は可愛かった。だっておやつの時間に「バレないように、さりげなく」を意識しすぎてしどろもどろになりながら私の好みの服装を訊いてくるのだぞ?そして実際におめかししてくれたヒナイチ君は、もう完璧なレディだった。そして道中の緊張していた表情、アクアリウムの照明に照らされた微笑みに、正直高をくくったのだ。「もしかして、今日、上手くいくのでは……?」と。
……そんなことはなかった。だってそもそもデート先が間違っていたのだから。ペンギンパレードがイチオシの水族館に、ペンギンが苦手な彼女を連れていく男がどこにいるというのだ。完全にリサーチ不足だ。ああ、策士策に溺れるとはこのことか。

「ご馳走様でした。……あの、本当にお金、いいんですか?」
「もちろん構わないよ。そもそもこれは任務だ。経費で幾らでも落としてみせよう」
……そう、ですか」
 
 目を伏せたヒナイチ君は、ペンギンの部分が見えないように折り返したパンフレットを読み返している。その指先はマニキュアが塗られているのだろうか、照明を反射してつやつやと輝いている。

……思っていたよりも小さかったな)

 先ほどの騒動で反射的に掴んだ手の感触が、今でもじんわりと残っている。新進気鋭の退治人、ギルドで一二を争う射撃の達人。そう謳われている姿とは裏腹な、柔らかく小さな手だった。「隊長」と呼んでくれたあのか細い声も、泣きじゃくりながら髪の毛を降ろした姿も、鮮明に目に焼き付いている。……本当に、危なかった。好きな子を泣かせてしまった罪悪感と、それを上回るくらいの優越感とない交ぜになって、堪らなくなって……もう少しで抱きしめてしまうところだったじゃないか。いや、彼女の髪の毛に触れて、しかも勝手に私好みのポニーテールにしてしまった時点でもう十分にジェントル違反だ。もし私が吸血鬼だったら彼女のうなじにかぶりついてしまっているだろう。まったく自分が情けない、これでは私ばかりがヒナイチ君のことを……

「あの、隊長。……ひとつお願いがあって」
「え……ああ!どうしたんだい?何か欲しいお土産でもあるのかな?」

 深層心理の深海から浮上し、目の前の彼女に視線を戻す。ヒナイチ君は恥ずかしそうにこちらを見ながら口をぱくぱくとさせていたが、やがて続きの言葉をゆっくりと紡いでいく。

「次の、おやつ……その、パフェにしてくれませんか?」
……パフェ?」
「いや、あの、その……隊長が作るパフェって、どんな味なんだろうって思ったら、なんだか無性に食べたくなってきてしまって……だめ、でしょうか?」
……ふふ、いいよ。じゃあ来週には振舞えるように準備しようか。……ヒナイチ君は本当に私のつくるお菓子が好きだね」
「はい、大好きです!……あ」

 ゴミ捨ててきます、あとお手洗いに行ってきます!と言い残し、ヒナイチ君は忙しなく席を立った。マーガレットの咲いたその後ろ姿を見送り、大きくため息をつく。

「大好き、か……

 分かっている。今日彼女から欲しかった言葉そのものではないことは。それでも無性に嬉しいのは、やはり恋のなせる技なのか。自分に湧きあがる大人げない執着すらあっという間に愛おしくなってしまう。ああ、こんな失敗くらいじゃ君のことを諦めることが出来そうにない。

……覚悟しててね、ヒナイチ君」

 いつかその手をもう一度、堂々と握ってみせるから。そう小さく決意を固め、騒がしくも楽しい休日は過ぎていく。