殺人現場となったのは、近隣住人から『異人館』と呼ばれている洋館だった。古風な呼称もあったもので、というのも明治時代からぽつねんとここに建っているという。
時代と共に所有者が移り変わっていき、直近の所有者の老人が「もう歳だから管理しきれない」とのことで新しい所有者に明け渡そうとしたその矢先のことだった。
「オーナーが丁度変わるタイミングだったとのことですが、普段は博物館として一般公開されていると」
駆けつけた所轄の刑事が尋ねると、執事姿の館長が頷いた。
「はい。オーナーは私がこちらに勤め始めてから既に何度も変わっておりますが、その事業内容が変更になったことは一度もございません。――博物館、兼、ティールームでございます」
「事件のあった日も変わらず営業していたと」
「十七時に閉館し、諸々を片付けて私と従業員が異人館を出たのが十九時です。その日出勤していたのは私と給仕係がふたり」
「給仕係」
刑事が繰り返すと、館長の隣に立っていた給仕係のひとりが軽く会釈をした。胸元にネームプレートが付いており、『SHOSETSU』と読めた。どうやら下の名前をローマ字で書くのが習慣であるようだった。
もうひとり隣に立っていたのでそちらにも目を遣る。同じように会釈をしたのに目配せで返事をしながら、『IORI』と書かれているのを読む。
手帳にふたりの名前を書き留めながら、刑事が館長に尋ねる。
「こちらのお二人は、いつも?」
「小さな博物館の小さなティールームですから、私も入れて三人で事足りるのです。当日も、来館されたお客様は三組のみでした」
「――そのうちの一組が、今回の被害者ですかな」
表情に乏しい初老の館長の唇が、ぐ、と引き結ばれる。それを肯定と受け取った刑事が、何事かを書き留め続けながら言った。
「被害者は二十代の女性、ピンクのロリータ服を着てティールームの床に仰向けに倒れていた。口からは吐血の形跡、それから右肩から左腰にかけて袈裟掛けに斬り傷。出血量から見て致命傷となったのはこちらだ。ただ、鑑識の結果毒物も致死量であったとのことだから、斬らなくとも時間の問題だったでしょうが」
「惨いことです」
「第一発見者は貴男ですね、館長さん」
一呼吸分の間の後、館長が頷いた。それで、ぱたんと刑事が手帳を閉じた。
「現場には犯行によるものと思われる痕跡が大量に残されている。――長年この場所を大切にしてきた貴男には大変お気の毒な事態となってしまいましたが、なに、すぐに解決されますよ。きっとまた営業再開できますとも」
あるいは、そんな無責任な発言こそがジンクスとなってしまったのかもしれなかった。
――事件は発生から一週間経ってもなお解決されず、困窮した警察は外部に助けを求めたのである。
◆
「仕事だぞ、イオリ」と固定電話の受話器を置いたタケルが言った。
「警視総監からだ。一週間前に報道のあった殺人事件があったろう。あれが、全く進展していないらしい」
「……赤坂のか」
「うむ。……そういえばきみ、あのあたりでアルバイトを掛け持ちしていると言っていなかったか。どこぞで給仕の仕事をしているとか」
「ん……」
曖昧ないらえを返しながら、伊織がロッカーへと向かう。ベストの上にスーツを着込み、更にコートを羽織ってタケルを見た。
「若旦那から直電があったのなら、『三十分以内に現着していろ』という意味だろう。……おまえ、スーツのジャケットはどうした」
「この間外出時に着たのをどこにやったかな。……なあ、きみが給仕をしているのか? 『すまないが、イングリッシュブレックファストをひとつ』などと言ったら、きみが紅茶を淹れてくれるのか。……ん、別にいつもと変わらぬか? なんだ、面白そうだと思ったから冷やかしに行ってやろうと思ったのに、普段と変わり映えしないのではわざわざ出向く意味もないな」
「……タクシーを呼ぶから、五分以内にジャケットを見つけてくれ」
へいへい、とタケルが来客用ソファの上に重なりあった衣類の山を掻き分け始める。出掛けるために事務所内の間接照明の電源を落として回りながら、伊織が小さく溜息をついた。
『ヤマト探偵事務所』と表札の掛かっている事務所の扉に鍵をかけて、雑居ビルの二階から階段を降りる。タクシーに乗り込んで、現場の赤坂へと向かう。
タクシーの運転手は顔見知りで、後部座席でふたりが何を話していても何も聞こえていないふりをしてくれる。電話と共に送られてきたファイルをタブレットで開きながら、伊織が内容を読み上げる。
「事件が発生したのは一週間前の11月20日。『異人館』と呼ばれる、ティールームを併設した博物館で二十代の女性が殺害された。刺傷から見て凶器は日本刀――あるいはそれに類似したもの。ただ、致命傷となった傷を与えたのがたまたま刃物であったというだけで、その他に致死量の毒物も盛られていたそうだ」
「すごいな、余程恨みを持つ者の犯行か?」
「現時点ではなんとも。……だがまあ、動機としては『痴情のもつれ』が濃厚なのではないか、との調査結果だ。――被害者のSNSを洗った結果、複数の男性から金銭を受け取っていた」
「くだらぬなあ」
吐き捨てるように言ったタケルが、「……で?」と伊織を横目で見る。
「容疑者は絞れているのか」
「館長及び従業員の三名全員が、十九時に一度現場となった異人館から出ている。この際、館長が戸締りをしたのを従業員ふたりが見ている。――死亡推定時刻は21時頃。異人館の鍵はこの館長と従業員の二名のみが所持していたから、必然的にこの三人のうちの誰かだ」
「うむ、シンプルでよろしい。……で。犯人が『男』なのであろう? このうちの何人が男なのだ」
「ふたりだ。館長は男性。従業員は男性がひとり、女性がひとり」
「二者択一か」
ふうむ、とタケルが両のこめかみに人差し指を当てる。その隣で、伊織がタブレットに何事か入力した。
「俺達が現場に到着するまでの間で、容疑者達から事情聴取ができないか若旦那に訊いてみている」
「ワカダンナが現場にいるのか!?」
「いいや。俺達から彼らに何か質問があるのなら、こうして俺が入力したテキストを若旦那から現場にいる助之進に伝えてくれるそうだ。俺達の代わりに尋ねるようにと」
「七面倒な」
つまり遠隔での事情聴取である。いっそ現場とビデオ通話を繋いだ方が早いのでは――と思い至ったところで、ふとタケルが尋ねる。
「今、いるのか。容疑者三人とも、現場に」
「いや。……ひとり都合がつかず、不在とのことだ。……いなくとも、捜査上は特に問題がないだろうとの判断もあったらしい」
「ンンンン〜〜? なんだ、警察の身内か何かか? よくないぞ、そういう身内贔屓は。そうやって匿った挙句、そやつが犯人だった場合どうするのだ」
「……いや……」
言い淀んだ伊織はしかし、気を取り直したように言った。
「どうする。何を尋ねる」
「アリバイは……流石に既に尋ねておるのだよな?」
「全員『ナシ』だ。三人とも、独り暮らしで――ああいや、内一人は妹と二人暮らしであったが、今はその妹は入院中とのことだ」
「ふむ。……ん、そういえばきみの妹御は息災か。最近きみからあまり話を聞かぬが」
「ん……」
言葉を濁しているようにも、タブレットに表示された文章に気を取られているようにも聞こえる生返事をしながら、伊織が言った。
「俺から――質問をひとつ、若旦那に尋ねていいか。容疑者宛にではなく、これは捜査官への質問だが」
「うむ」
「『被害者の職業はなんだ?』」
タブレットに接続した無線キーボードからカタカタと手早く打ち込んで送信する。すぐに返信があった。
「『看護師』。――動機は『痴情のもつれ』、だという話であったな。……本当にそうだろうか」
「うむ?」
「なぜ、犯人は自分の職場を犯行現場に選んだ? 本当に痴情のもつれが原因であるのなら、計画的犯行にせよ衝動的犯行にせよ、もっと相応しい場所が他にある筈だ。――恋愛関係の対価として金銭のやり取りのあった女性を、わざわざ職場に連れ込むだろうか」
「事実、連れ込んだのであろう?」
「若旦那に、SNS上のDMのログを見せてもらおう」
言いながらパチパチと伊織が入力している。数分後、若旦那からPDFファイルが送付されてきたようだった。
それを手早くスクロールして文面を斜め読みしていた伊織が、一箇所でページを繰る指先を止める。「セイバー、ほら」と指差した。
「『明日21時に異人館で。約束通り持っていくね』。被害者は何かを持参する約束をしていた」
「セクシーな下着などでは?」
軽口を叩いたタケルを窘めるように睨みつけ、伊織が言った。
「これは痴情のもつれなどではないと思う。被害者はなんらかの物品の売人だったのだ。――恐らくは、薬品。看護師の立場を利用して不正入手した薬を、秘密裏に販売していた」
「なぜそう思う」
「斬り殺しているのに、被害者に毒まで飲ませている。――恐らくこの毒は、強い殺意による二重の凶器の片割れなどではない。犯人が為そうとしたのは、証拠の隠滅だ」
伊織がファイルを切り替え、事件概要のPDFを再びタブレットに表示させる。『致死量の○○○○を検出』とあった。――強力な鎮痛剤として知られるが、過剰摂取すれば死に至る医薬品だった。なお、世間一般には麻薬としての知名度が高い。
かたちのよい顎に手を当てて、タブレットの画面を見ながら伊織が淡々と語る。
「恐らくこの犯行は、犯人にとって衝動的なものであった筈だ。毒物は凶器として犯人によって用意されたものではなく、被害者が現場に持ち込んだもの。やってしまった犯人にとって、これは殺人の動機を示す物的証拠だった」
「それで、被害者に飲ませて証拠隠滅しようとしたのか? 今まさに事切れようとしている、被害者の口の中に詰め込んで」
「結局はこうして検死により検出されてしまったが、少なくとも被害者と犯人のどちらが持ち込んだかという事実は誤魔化すことができたからな」
ふむ、とタケルも伊織を真似るように小さな顎に手を当てる。それから言った。
「犯人が男、というのは間違いないのだよな?」
「ああ。――刃物による刺傷が、被害者本人よりも高い位置から振り下ろされている。被害者はロリータ服を着ていて、かなりの厚底靴を履いていた。事件当時の被害者を上回る身長なのであれば、女性ということは考えにくい」
「で、『DM』――薬物の取引についてのやり取りをしていた相手も、見る限りはいずれも男、と」
「若旦那から追加のメモ書きだ。――『DM相手にいわゆる捨て垢はいない。被害者側が慎重に取引相手を選んでおり、普段から日常についての投稿を頻繁にしていてある程度素性の知れる相手のみと取引をしていたと思われる』、だそうだ」
「なるほど」
タケルがジャケットの胸ポケットから小さな手帳を取り出す。そこに万年筆で書きつけながら言った。
「犯行が可能だった容疑者は三人。そのうち二人が男、一人が女。被害者の致命傷となった刺傷から、犯人が男であることはほぼ確定しているので、この三人のうち女は容疑者から外される。犯人は館長か、男性従業員のどちらか。――で、動機についてだが」
「薬物――強力な麻薬として知られる○○○○の取引でトラブルがあった、という線が濃厚だろうな。……人目につく恐れのない営業終了後の異人館で、不正な取引を行おうとし、なんらかのいざこざが発生した」
「そこで、犯人は衝動的に被害者を殺害。麻薬を凶器に偽装することで捜査を攪乱しようとしたが、結局こうしてすべてバレてしまったということか」
タケルがうんうんと大きく頷く。「――で?」と伊織を見た。
「犯人はどちらなのだ。館長か、男性従業員か。――ン、アレ? そういえば」
タケルが小首を傾げながらぽつりと言った。
「もうひとり、なにやら警察が『犯人である可能性が低い』として除外していた容疑者がいなかったか。今日は現場にいないとか」
「ん――」
伊織が生返事をしつつ、PDFのページを指先で繰っている。深遠な月夜のような宵闇色の瞳が白い画面を反射する中、よこから「ああーーッ!」とタケルが大声を上げた。
「待て待て待て待てぇい! ――今の写真! 戻れ、戻るのだ、イオリ!」
「んん……」
タケルがタブレットを伊織から引ったくり、ページを戻す。――事件現場となった異人館のティールームの内装を撮影した写真のうちの一枚を拡大し、伊織に突きつけた。
「見よ! 従業員のネームプレートが壁に掛けられている! ――『SHOSETSU』に『IORI』だと」
「――……」
「きみ、赤坂で給仕しているって、ここだったのか!」
「……セイバー」と伊織が苦虫を嚙み潰したような顔で言い差したのをまったく相手にせず、タケルがまくし立てる。
「なぜ――なぜこのような重要なことをさっさと言わぬのだ! ……警察の身内贔屓は好かぬとは言ったが、なんのことはない、容疑者の内のひとりがきみだったのであれば話は別だ。あのワカダンナが真っ先に除外するのも頷ける。
……従業員は男がひとりに女がひとり。『IORI』がきみであり、『SHOSETSU』は当然媛なのだから――」
伊織にタブレットを突き返しながら、タケルが腰に手を当てて言った。
「残った容疑者は館長一択だ! ――なんだ、簡単な事件ではないか」
「――セイバー……」
はあ、と伊織がタブレットをスーツケースの中に仕舞う。ちょうどそこでタクシーが停車した。
車から降り、異人館の門をくぐる。扉を開けて出迎えてくれた捜査官に軽く会釈をしながら、現場である二階のティールームへの螺旋階段を上がる。
その途中に本棚があった。『異人館』の雰囲気に合わせて洋書やその翻訳本が並べられており、そのうちの一冊にタケルが目を留める。
「『アラバマ物語』。――確か、英語の授業で読んだぞ。原題は……ええと確か、『誰がマネシツグミを殺したの?』」
「『マネシツグミを殺すのは』、だ。おまえは『誰が駒鳥殺したの』と混同している。殺される鳥の名前を取り違えている」
「ん、そうだったか」
大して興味もなさそうにタケルが言ったところで、ティールームの扉の前に着く。
ふう、と伊織が軽く肩を竦めたあと、傍らのタケルを見下ろして言った。
「いいか。まずは何も言うなよ」
「なぜだ。すべてネタは上がっている。私は言うぞ、『犯人はこの中に居て、その犯人は貴様だ、館長!』――と」
得意げに胸を張ったタケルの隣で、伊織が扉を開けた。――中にいた助之進が、「伊織さん、セイバー殿!」と嬉しそうに振り返る。
意気揚々と大きく息を吸ったタケルが、そのまま固まった。
ティールームには、容疑者として留め置かれているうちのふたりがいた。――男性が、ふたり。
「イ、イオリ!?」
素っ頓狂な声を上げるタケルの隣で、伊織が軽く肩を竦める。
「おまえが俺の話を聞かんからだ。――俺はここで働いてなどいない。俺の職場は高級中華レストラン『唐人屋敷』だよ。――助之進、容疑者三名の氏名を」
「はいよ、伊織さん」
差し出された手書きのメモには、三人の名が漢字で書かれていた。――●●●●館長、従業員○○正雪、××伊央梨。
絶句するタケルの隣で、淡々とした口調で伊織が言う。
「『正雪』は元来男性名で、『いおり』は男女共に使われる名だ。……警察が『犯人の可能性が低い』として除外したのはこの伊央梨殿だよ。――理由は縁故などではない、彼女が女性だからだ」
「で、では、犯人はどちらなのだ! ――館長か、ユイではないショウセツか」
その場で苛立たしげに地団太を踏んだタケルの隣で、伊織がかたちのよい顎に手を当てる。それから、言った。
「凶器は日本刀、あるいはそれに類似したもの。――ふたりとも、手を見せてくれ」
おずおずと、館長と『正雪』――従業員の男が両手を差し出す。その手のひらを一目見た瞬間に、くるりと伊織がふたりに背を向けた。隣で様子を伺っていた助之進に言った。
「従業員の彼だ。右手に剣だこがある。写真の斬り傷の切れ味から言って彼に間違いない」
「ま、待ってくれ!」
助之進に指示された捜査官らに拘束される中、男が必死に身を捩って逃げようとする。――良からぬ動きを見せかけた彼に、伊織が言った。
「妹がいるのだな? 貴殿」
「!」
「入院中の妹がいるのが、貴殿だな。――鎮痛剤を手に入れようとしたのは、そのためか」
「あの女が売っているのが麻薬だと、知らなかったんだ」
捜査官に両肩を押さえられ、項垂れながら男が言った。
「あの女、『すべての病気をなかったことにしてくれる薬を売ってやる』、と言ったんだ。――とても高価で違法な薬で、一部の人間にしか手に入らないのだと。俺がSNSに投稿したポストを見て声を掛けてきたんだ。――『妹を楽にしてやりたい』と呟いた、俺の投稿に」
「――『なかったこと』とは……」
タケルが小さな声で言うと、「ああ」と男が憎しみを滲ませた笑顔で言った。
「『なにもわからなくなったまま、天国へ行ける』、と。――取引に応じた時点で俺がわかっているものだと思っていた、だとさ。そんな都合の良い薬がこの世にあるわけがないのだから、と」
「日本刀は」
「あの晩持っていたのはたまたまだよ。うちに伝わる家宝でな、病院の妹に見せてやった帰りだったんだ。―― 一階の博物館に飾るって話、館長としてたんでな」
「――館長、まさか」
タケルと伊織が館長に目を遣る。ぐ、と口許を引き締めた初老の男は、苦しげな表情で俯いた。男が哀しげに笑った。
「俺が剣術やってるって、館長ときたら警察に言わないんだもんな。――あの晩から勝手に一本増えた、博物館の展示品についても」
「館長さん、すみませんが同行願いますよ」
促された館長も、男の後を追うように異人館の外へと捜査官と共に出る。パトカーが二台走り去っていく音を聞きながら、伊織がティールームの椅子に腰かける。「妹、か」と呟くように言った。
その顔を、タケルが覗き込んでいる。「なんだ」と伊織が見上げると、フフン、とタケルが言った。
「そうかそうか、きみ、高級中華レストランとやらで給仕しているのか?」
「――……」
だから言いたくなかったのだとばかりに苦々しい顔をした伊織をよそに、タケルが後頭部の後ろで両手を組んで鼻歌を歌い出す。
「そうかそうか、そうなると少しばかり事情が変わってくるな? ――きみ、長袍、を着て給仕していたりするのか?」
「……」
「それともチャイナドレス」
「……な、わけがあるまい」
「うむうむ、そうかそうか。きみの和装も洋装も見たことがあるが、中華風の装い――はまだ見たことがないからな。きみの童姿を見てみたいのと同じように、きみの衣裳替えにはそれなりに興味があるぞ」
「セイバー……」
満足げに頷き、「では早速行こう、イオリ」と大股歩きで階段を降りようとする。
「待て、どこに行く気だ」
「無事事件を解決したからな! ワカダンナから報酬が出る筈だ。――というわけで、早速その高級中華レストランとやらでディナーといこうではないか、イオリ」
「……席があるか鄭に連絡してみるよ……」
「シフトの調整もするのだぞ。きみはこれから給仕の仕事だ。当然、私のテーブルの担当だ」
「これだから言いたくなかったのだ」と言いたげなうんざりした顔をしながら、伊織がスマホで勤務先に電話を掛ける。
ひゃっほう、とタケルが軽快なスキップで異人館の外へと飛び出した。
Who Killed Mockingbird?・了
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