Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
やまだ
2025-12-29 20:41:02
1611文字
Public
アークナイツ
Clear cache
No title
ロゴ博 鍵の話
小指の半ばまでもないような金の鍵は細く、そして奇怪にうねっている。ドクターは手渡されたそれを目の高さでしげしげと眺めた。
「これはなんの鍵なんだ、ロゴス?」
「我の心臓の鍵だ」
ぎょっと目を向けた先ではロゴスがゆったりホットワインなど飲んでいる。実に絵になるさまではあるが、酔った冗談であろうと口にしていいことと悪いことがある。
軽口をたしなめるつもりで改めて低く名を呼ぼうとしたところ、深夜にわざわざドクターの執務室で酒盛りを始めた若きバンシーはそっと微笑みをよこしてきた。
間違っても酒精に屈服したとは思えない澄んだ目だ。
「うぬは知っておったかな? エリートオペレーターは全員、我が作成した鍵を所持しておる」
「
……
持ち主が命を落とした際に君がその鍵を燃やすと」
「ああ。そういうまじないを施しておる」
ドクターはタブレットを机上に伏せた。片手間に聞いてよい話ではなくなっている。
「この鍵もそうだと?」
「うむ」
「それを私に?」
「ほかに託すべき相手を知らぬゆえ」
「私が断るとは」
「微塵も」
ドクターのつまんだ小さな鍵と、机に積み上がった資料の向こうで、バンシーはさわやかな笑顔のまま首を傾けた。
「なに、普段の白衣のどこぞに落としておいてくれたならそれでよい。その小ささであればうぬの作業を妨げることもなかろう」
「
……
逆にどこかでなくしてしまいそうなんだが」
「それも構わぬ。我は、ただうぬに鍵を預けたという事実のみを求めておるのだ」
指先の鍵が重みを増したような気がする。これが彼の心臓と同義だと思えば、ぽんと机に放るわけにもいかなかった。
ドクターがアエファニル、とため息混じりで呼べば、彼は嬉しそうに目を細める。
「こういうものは、せめて素面のとき渡してくれ」
「我はそのつもりだが?」
ドクターは夢想家で理想主義なのだ。雰囲気というものがあるだろう。ワイン片手に、いつ止まるかもわからない心臓を与えられる身にもなってほしかった。
もちろんドクターに、無為に彼を源石の塵にさせるつもりなどないのだが。
半日座り続けていた椅子から立ち上がる。小さな鍵を指先に挟んだまま休憩スペースへ近寄るドクターを、ロゴスは脚を組み替えながら待っていた。
しなやかな手からカップを奪い、スパイスの香りが立つホットワインを軽く揺らす。
陶然とうるむ赤い瞳をじっと覗きこんだドクターは、この若いバンシーがまったく酔っていないことを改めて確認してから彼に並んで腰かけた。
「君は正しい。アエファニル、私は君を拒まない。この鍵を拒みはしない」
ロゴスは迷いなく顎を引いた。だが、と続けるドクターをすら予測していたかのように、僅かに瞼が震える程度の微笑ましい動揺もない。
そんな男と目を合わせたまま、ドクターは小さな鍵を自らの舌へ乗せてホットワインで流しこんでやった。
そこまでしてようやくロゴスの表情が動く。ゆるゆると見開かれていく美しい切れ長の双眸に向け、ドクターはにやっと笑う。
「だが、ロゴス。君はこの鍵ともに私も終わるのだということをくれぐれも理解しておかなければならない」
「
……
ドクター」
「君は知らなければならない。君が、君の心臓を呑みこんで喜ぶようなろくでもない人間に何を差し出そうとしているのか」
もうドクターは彼の鍵を返さない。バンシーのまじないはドクターの血肉に溶けるだろう。二度と取り戻させないようにしておきながら、ドクターはロゴスへ今日初めて親しげに笑いかけるのだ。
「アエファニル。私に言うことがあるはずだ」
ロゴスはまず、ドクターの手からホットワインのカップを取り返した。ひと口飲み、ゆったりと瞬きをしてドクターを見る。組み替えた脚の上で頬杖をつく。
「ドクター」
バンシーの王は、ワインに濡れた唇を舐めてから無邪気に微笑んだ。
「うぬの望む通りに」
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内