フリンズさんの家に来る犬と遊ぶ話


………犬?こんなところに??」
 
 フリンズにちょっとした用事があったので、夜明かしの墓を訪ねることにした。約束はしてないけれど、今日は大した用事もないし、彼が戻るまで待てばいいかなーと簡単に考えていた。しかし、フリンズは不在だったし、待てど暮らせど彼は一向に戻ってこなかった。
 一時間ほどベンチに座って待ったところで「……出直すか」と、重い腰を上げて体を伸ばしながら周りを見ると、すぐ近くに可愛らしいお客さんがいた。
 
……夜明かしの墓で鳥ちゃん以外の動物見るの、初めてかも」
 いつから居たのか分からないが、ヤコピさんの調理台近くに、白い犬が座っていた。少し悩んだが、元々動物が大好きな私なので少し遊んでもらうことにした。
……おいでー?」
 少し距離を取りつつも、犬さんの視界に入る位置で座りながら呼びかけてみた。ピクっと耳が動いたのが分かったので、聞こえていると思う。呼んだだけでは警戒心は取れないよね。
 あ、そういえばと手荷物の中身を思い出す。先日市場で購入した干し肉があった。ゴソゴソ取り出して、手を伸ばして犬さんにヒラヒラと見せつけてみる。
「これあげるから、撫でさせてくださーい」
 犬さんは少し興味を持ってくれたのか、起き上がって近づいてくれた。クンクンと匂いを嗅いでいるので、手のひらに乗せて差し出す。
「食べてくれるのかぁ。嬉しいね、どうぞどうぞ」
 食べてくれている間に、恐る恐る頭や体を撫でると気持ちよさそうにしている。か、かわいい!わしゃわしゃと強めに捏ね回しても逃げないので楽しくなってきた。
 
「そうかぁ、気持ち良いかな?もっと触っていい?」
――僕は撫でてくださらないのに?」
「ひぃっ」
 
 犬さんと一緒にビクッとしてしまった。
……っくりしたぁ。居たなら声かけてよね」
「おや?声をかけたつもりでしたが」
「違うのよ、近づく前に声をかけてよねってことなのよ。あと気配消して背後立たないでよね」
「そうでしたか、それは失礼しました」
 そう言いつつも口角を上げてニコリと妖しく笑う。絶対わざとでしょこれ。
 
「お二方とも、何かご用事でしたか?」
「あぁ、そうだった……ん?」
 私が話を始めようとしたところ、犬さんが先ほど座っていた位置に戻り、何かを咥えてフリンズの元へ戻ってきた。
「あぁ、これはまた良い品ですね。ありがとうございます」
……なにこれ?」
 骨に見えるけど?
「骨ですよ」
 骨だったわ。え、何で骨
「僕の趣味の一つに必要な材料なのです。彼はたまに材料を見つけては、こちらに運んできてくれるのです」
「へぇ、仲良いんだね」
 犬さんはフリンズの顔を見ながら、尻尾を振って待っているようだ。
「あぁ、失礼しました。生憎手元にご用意がないので、地下室から取ってきます。少々お待ち下さいね」
 そう言って彼は地下室へ向かっていった。少し待つ間に、また犬さんをわしゃわしゃ撫で回しておいた。
 
 少し待っていると、フリンズが両手に何かを持って戻ってきた。犬さんの方にしゃがみ込んで「はい、こちらをどうぞ」と犬用のジャーキーを渡しているようだった。なるほど、報酬ってことかぁ。
 続いてしゃがんだまま私の方に向き直り、「貴女にはこちらを」と、袋詰めのクッキーを手に乗せられた。
「こ、これはっ!数量限定で中々買えないやつでは?」
「先日ちょうどお見かけしたので、購入しておいたのです」
「わー!ありがとー!って、……え?」
 受け取ろうとしたクッキーは下げられてしまい、もう一度フリンズの手の中に戻った。
「どうして?」
「こちらには、報酬が……必要なのです」
 …………どういうこと、あぁそういう……
 
 じゃあ遠慮なくと言うことで、しゃがんでる彼の頭をわしゃわしゃ撫でてみた。フリンズのつむじなんて初めて見たよ。綺麗に整っていた髪の毛が崩れるのも厭わずに大人しく撫で回されている彼を見ると、なんだか可愛く思えた。ひとしきり撫で回していると、少し下を向いている彼がクスクス笑い始めた。
「本当に、容赦ない撫で方で……すみません、笑ってしまいました」
「なによ、それがお望みだったんじゃないの?」
「えぇそうです。ふふっ、ありがとうございます」
 フリンズが満足したようで、頭を上げたのを合図にして撫で回しタイムは終わりとなった。
「では、こちらをどうぞ」
「ん、ありがと」
 こうしてお目当てのクッキーは、私の手の中に戻ってきたのだ。
 
 
 
「そういえば、何かご用事があったのでは?」
「そうだった。この前フラッグシップへ行ったらデミアンさんが『フリンズさんのご注文の酒が届いている』ってことを、伝えてほしいって言われたの」
「あぁ確かに、そろそろと聞いていましたね。それで、貴女の本日のご予定は?」
「なーんもないよ。しいていえば、フリンズのお酒を見てみるぐらいかな」
「そうでしたか、ではご一緒にいかがですか?」
「やったねー!ご相伴に預かりまーす!」
 
 
 
『需要と供給の相互作用について』