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やまだ
2025-12-29 14:47:01
1724文字
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アークナイツ
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クラエベ
境遇を理解してもらいたいわけではない。それがリターニアという国でどれほど難しいかくらいはエーベンホルツでも知っている。
同情が欲しいわけでもない。その裏にあざけりや嫌悪が隠されてはいないかがおそろしく、疑わずにいられないからだ。
だからエーベンホルツは他人に対してかたくなに、高圧的にふるまってきた。利用されているのだからこちらがそうしても構わないだろう、どうせ人は都合が悪くなれば驚くべき速度とあっけなさで離れていくものなのだからと、そう思っていた。
「わかりますよ」
ところが出会って十日も経たないキャプリニーの青年がよこす理解と同情は心地よかった。感染者の人生の残照の地アフターグローの片隅で、エーベンホルツは並んで歩く横顔をじっと見つめた。彼は抱えた紙袋から覗くソーセージの塊を嬉しそうに眺めている。
しつこい視線に気づいたクライデが、エーベンホルツを振り返って困ったように笑った。
「すみません。軽率でしたか? 僕が推し量れるような苦労じゃなかったですよね」
「それは
……
私が君に言うべき台詞だ」
エーベンホルツは貴族で、クライデは定住する地を持たない流民だ。
エーベンホルツは非感染者で、クライデは感染者だ。
本来なら決して交わらないはずのふたつの人生は良くも悪くも音楽に絡め取られており、だからふたりはここにいる。ここから新たに始めるためにともにいる。そのときエーベンホルツは、クライデが口ずさむ歌の後半の譜を教えてやるつもりだ。フルートとチェロで合奏するのだ。
「エーベンホルツさんは、僕に同情をしないじゃないですか。理解はしてくれますけど」
「そうか? 私ごときの想像が、君のしてきた苦労に及ぶとも思えんが」
「そんなことありません」
ふふふ、とクライデは楽しそうに目を細めた。
「あなたは僕のために怒ってくれました。悲しんで諦めるのではなく、怒って状況を覆してくれた。僕、それが本当に嬉しかったんです」
愚か者どもに彼のチェロを壊されたため、新しいものを求めに行ったときの話だろう。エーベンホルツは黙って肩を竦めた。
「あれは店員が頑迷だったのだ。当然の権利を述べたにすぎない。それに、私は元々気が短いしな」
「ああ、確かに
……
」
「クライデ!」
「あはは!」
大口を開けて笑うクライデの肩を顰め面で小突く。すみません、と言いながらその声がまだ笑っているのだ。
「ごめんなさい。エーベンホルツさん、ね、怒らないでください。大きいほうのソーセージを分けてあげますから」
「それは君のために私が買ったんだぞ!
……
それに、そうやって機嫌をとるくらいなら私たちにはもっと簡単なものがあると思わないのか」
クライデが目をまるくして瞬いている。エーベンホルツの気持ちがわかると言ったばかりのくせに、望む答えをすぐ出してくれないのが少しもどかしい。暗く厭わしいもので共感するよりも、クライデとはもっと明るい、心の弾むことで繋がっていたいのだ。
半目でじいっと睨みつけるエーベンホルツの前でクライデはちょっと首をななめにした。
にっこり笑って、そして困ったようにエーベンホルツを呼ぶ。
「エーベンホルツさん」
エーベンホルツはそれをこめかみで聞いた。
すぐ離れていった、困り顔のなかで微笑む唇を、愕然と見る。彼は今エーベンホルツに何をした。街中で。人混みの中で!
「ええと
……
こういう場所でこういうことは、あんまりしないほうがいいと思うんですけど
……
」
「
……
わ、私は、家で合奏をする約束をしてくれればそれでよかったんだ!」
「
……
えっ、そうなんですか?」
クライデが本気で素っ頓狂な声を上げるものだから、エーベンホルツはもう空を仰いでしまった。そういえばこの町でこれほど思いきり顔を上げたことはこれが初めてかもしれない。
溜め息が出て、それなのに口角がにやっと上がってしまうのは、羞恥であまりにもいたたまれないせい、それなのに機嫌が直ってしまったせい、そして先の会話の小難しさからかけ離れてしまったおかしさのせいだ。
「クライデ、どうやら私たちが真に互いを理解するにはまだまだ時間が必要らしいな!」
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