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やまだ
2025-12-29 14:45:49
1403文字
Public
アークナイツ
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クラエベ
服の裾をちょっと引かれる、脇腹を突っつかれるようなことは、出会ったばかりのころからたびたびあった。
どうやらクライデのそういった触り癖は、同じ時間を過ごすごとにより表出するものであるらしいと、近頃エーベンホルツは理解し始めている。
「
……
クライデ」
はい、とにこにこ笑うクライデの声はすぐ真横から聞こえた。ぴたりと肩を寄せているから触れあう箇所があたたかい。つまり互いの温度が馴染むほどの時間、こうして身を寄せあっているのだった。
別にエーベンホルツも嫌ではないのだ。嫌であるはずがない。もしここがプライベート区域の自室であったり、借用中の防音室であれば、むしろ自分から喜んでクライデに寄り添っていただろう。
だがここはまだ、さまざまな職種のオペレーターたちが行き交う通路だった。彼らとすれ違うたび微笑ましそうに、あるいは物珍しげに見つめられるのはおもしろくない。エーベンホルツだけならば何も構いはしないが、クライデを彼らの娯楽として安易に消費されるのは耐えがたかった。
だからエーベンホルツは歩きながらクライデを振り返る。チェロを背負って微笑む顔は、予想していたよりもさらに近い位置にあった。
「ロドスの通路は広い。そうまでせずとも、擦れ違うことに不便はないぞ」
クライデはぱちんと瞬いたあと、エーベンホルツの指摘の意味を正しく理解したようだった。照れ臭そうにはにかんで半歩横にずれる。
これまであたたかだった半身が、それだけでひやっと軽く、こころもとなくなった。
「すみません。僕、近寄りすぎでしたね」
「咎めたわけではないぞ。私はまったく気にならない」
「はい、わかってます」
チェロの入ったケースを静かに揺すり上げながらクライデが笑う。
「ダメですね。なんだか嬉しくて、ついあなたにくっつきたくなっちゃうんです」
「ダメなものか。不躾に眺めるほうがよほど悪い」
「それだけ僕が悪目立ちしていたんでしょう」
「私たちが、だ」
「
……
わあ」
「どうした?」
エーベンホルツを見るクライデの、目どころか口まで丸い。
「
……
せっかく忠告してもらったばかりなのに、またあなたにくっつくところでした」
むっと下唇が突き出てしまったのはクライデに対して呆れたわけではなく、そうしろ、と飛び出しかけた言葉をすんでで堰き止めたためだ。やめろと言ったのはエーベンホルツなのだから格好がつかない。
さっきまで隙間もなく触れあわせていた場所が、もう寒くて心細くてたまらないなどとは、とても言えないのだ。
黙って足を動かすエーベンホルツの片手が、ふいにほっとあたたかくなる。目を落とす。落とした目を上げる。
「クライデ」
クライデの手が、チェロのケースの陰にこっそりとエーベンホルツの指先を引き入れていた。指を絡めるように繋がれて、意識できていなかった強張りがそこからじわじわ溶けていく。
「これなら目立ちませんよね」
鼻唄でも始めそうな晴れ晴れとした表情で歩くクライデの横顔は、遠くもなければ近すぎもしない。対外的にふさわしい距離で、密かに指を繋いでいる。
ふと、エーベンホルツは肩の力を抜く。
どうやらクライデの触り癖は、同じ時間を過ごすごとにより表出するものであるらしいと、近頃エーベンホルツは理解し始めている。
けれども実は、それはエーベンホルツも同じだったのかもしれない。
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