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やまだ
2025-12-29 14:44:25
1580文字
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アークナイツ
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クラエベ
最後にベッドで眠ったのがいつだったか、もうクライデは思い出すことができない。
気分が落ちつかず目が冴えてしまってと弱り果てるクライデを、反対側の壁に据えつけられたベッドの上からエーベンホルツが眠たそうな目でじっとりと睨んだ。明かりの落ちた薄暗がりでも、彼の瞳は炯々とよく光る。
「
……
まさかロドスでも床で寝るなどとは言わないだろう? 早く慣れることだ」
「それはそうなんですけど
……
」
横になることすら申し訳ない気がして浅く腰かけるに留めているベッドは簡易なものだが、マットには清潔なシーツが敷かれ、毛布もひとりに二枚もある。
「第一、治療のあいだも君はベッドに寝たきりだったろうに」
「あのときの僕に、こんなこと考える余裕なんてありませんでしたよ。知ってるでしょう?」
あくびを噛み殺すエーベンホルツへちょっと笑って言い返す。
アフターグローで救助されたあと、ぼろぼろの体を包帯でぐるぐる巻きにされたクライデの傍にはエーベンホルツがいた。ベッドサイドに跪き、泣きそうな顔でずっと手を握ってくれていた。彼のおかげで、クライデは立派なベッドや丁寧な治療に気後れする必要がなかったのだ。
「
……
エーベンホルツ、お願いがあります」
「なんだ?」
いかにも眠たげな声がする。彼のほうはすっかり夜を越す支度が整っているようで少し申し訳ない。
「一緒に寝てもいいですか?」
エーベンホルツはもう返事をするのも億劫なのか、答える代わりに片腕を伸ばして毛布を持ち上げた。
自分のベッドから滑り降り、裸足のまま床を渡ったクライデはその空隙へ体をぎゅうっと押しこむ。
狭い、と、エーベンホルツがむにゃむにゃ苦しそうに文句を言うのがおかしかった。そうやってくさしながらも、彼の手は毛布ごとしっかりとクライデの背を包んでくれているからだ。
ふふっと笑ってクライデも、エーベンホルツの体を抱きしめる。小さくゆったりとした鼓動がクライデの右胸を心地よく叩いた。
この距離がなんとなく懐かしい。はっきりと思い出せるわけではないが、それでもずっと幼かったころのクライデも、きっとこうしてエーベンホルツを抱きしめて眠っていたはずだ。
「ねえ、エーベンホルツ」
「夜も更けたというのに、君はまだ喋り足りないのか
……
?」
「ふふっ、そうみたいです。
……
僕、床で寝ることを嫌だと思ったことなんて一度もないんですよ」
ありがたいと思っていた。四方を壁に囲まれた、きちんと屋根のある場所で、風雨を憂うことなく眠ることができるのだ。クライデにはそれで十分だった。
「そうだろうな。君は、私のようなないものねだりはしない男だから」
エーベンホルツの口はもうほとんど開いていない。かろうじて聞き拾えるような声で頑張って返事をしてくれる律儀さに頬を寄せ、目を閉じる。
ちっとも眠くはないが、ひとりでベッド使おうとしていたときの気まずさはもうすっかり消え失せている。
「あなたは何が欲しいんです?
……
と言っても、僕じゃ力になれないかもしれませんけど」
そんなことはない、とエーベンホルツは呟いたようだった。続く言葉はくぐもって聞きとれない。
「
……
エーベンホルツ?」
返事を待つクライデの背に回る手に一瞬だけ力が入り、すぐに抜ける。擦り寄ってきた薄い体は大きな深呼吸のあと静かになった。眠気が限界を迎えたらしい。
だから、クライデがつい耐えきれずに噴き出してしまったことをエーベンホルツに知られずに済んだ。ぬくい体を抱き直し、クライデは笑顔でまるい額に頬擦りする。
「あなただって、もうないものねだりなんかじゃありませんよ。エーベンホルツ」
何しろ彼のたったひとりの兄弟は、明日はエーベンホルツと何をして何をお喋りしようかと、眠る前からそればかり考えて胸を弾ませている。
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