ハッピーバースデー、とにこにこ笑いながらライカンの部屋を訪れたアキラは、少し前にヴィクトリア家政の少女たちから贈られたプレゼントを大層気に入ったらしかった。チェストに立てかけていた「ライカンの肖像画」を抱きかかえ、ソファーの上でも手放そうとしない。
「カリンたちが描いたのかい? うまいじゃないか。うん、凄く好きだな」
「それでは、のちほど彼女たちにあなた様のお言葉をお伝えしておきましょう」
アキラからの誕生日プレゼントは懐中時計用のチェーンだった。ライカンが早速これまで使っていたものと交換するあいだ、アキラはずっと肖像画に夢中でいた。
隣に腰かけるとやっと顔を上げてくれる。ライカンの胸ポケットから覗く金鎖を見つけてはにかむ目元は、プレゼントを贈られたライカン本人よりも嬉しそうに輝いていた。彼のこういうところが好きだ。
「素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「どういたしまして。喜んでもらえてよかったよ」
肖像画をそっとテーブルに戻した手がごく自然にライカンの腿に乗った。つられてそこへ手を重ねると、ようやく自覚したらしいアキラの頬がむずむず震えて口角がぐうっと下がる。
本人は難しい顔をしているつもりなのだろうが、なんとも微笑ましい見栄の張りかただ。
「……何がおかしいんだい、ライカンさん」
「いえ? あなた様が私の誕生日をお祝いしてくださることを喜んではおりますが、何もおもしろがってはおりませんよ」
「嘘だ。なんだか小さい子を見守るみたいな目をしているし……何より、さっきから耳が動いてる」
「もう一度申し上げますが、あなた様よりのお祝いを心から喜んでおります。耳も揺れるというものです」
一切ごまかす必要のない真実であるので、今はライカンもアキラの指摘を受け入れる。手を重ねたまま深く微笑むと美しい色味の瞳がうろうろと横を向いた。
「なんだろう、今日はライカンさんを直視できない……」
「してくださいませ。お顔を見てお話ができないのは大変寂しく」
「誕生日とはいえ、なんでそんなに嬉しそうなんだ。あなたのそこまできらきらした笑顔は僕には刺激が強すぎるよ」
「左様でございますか?」
ふむ、とライカンは空いている手で顎をひと撫でした。
「……そうですね。どうやら私、恥ずかしながら多少浮かれてしまっているようです」
「誕生日にかい?」
「想う方から私の生まれた日を祝っていただいているという、この状況にでございます」
アキラが目と口をまるくしてライカンを振り向いた。ぼんやりと目元を染める赤さが、じわじわ耳まで広がろうとしている。
音がしそうなほどすばやく瞬いたアキラが手を引き抜こうとするので、僅かに力をこめてそれを妨げた。
「アキラ様、どうかこのまま」
「……このままだと僕が使い物にならなくなるけれど」
「ご安心くださいませ。万が一そうなったとしても、私が責任をもってお世話させていただきます」
「どうやら僕にとどめを刺したいみたいだな、ライカンさん」
ふてくされても頬が熟れているのであまり説得力がない。ライカンは目を細めてそのあたたかな色を見守り、鼻先で触れた。
「いつもあなた様からばかりお言葉をいただいておりましたね。……今日は、私からもお伝えさせていただきたく」
くふ、とライカンのすぐ横から屈託ない吐息が落ちる。
「……これじゃあどっちがプレゼントをもらう側なのかわからないな」
胸に擦り寄ってきたアキラは赤い耳で笑っている。あのさ、と囁く声はくぐもって、しかし仲間と食べたバースデーケーキのクリームよりも甘かった。
「……来年の今日も、さっきと同じ台詞を言ってほしい。次はきちんとあなたの顔を見ていられるようになるから」
「おや……」
まるい頭を見下ろしてライカンは瞬いた。
来年への要求はつまり、非常に迂遠な独占の約束だ。どうやらアキラは来年もふたりで過ごしてくれるつもりであるらしい。ハッピーバースデー、と、ただそれだけを告げるためにライカンへ会いに来てくれると言っている。
来年も隣にいると言ってくれている。
「アキラ様」
微笑まずにはいられない。赤い顔のアキラが慌てて悲鳴をあげようと、掴んだ手を引き上げて指先をひと舐めせずにいられなかった。
「必ず、おっしゃる通りにいたします」
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