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やまだ
2025-12-29 14:25:12
2273文字
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ゼンゼロ
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ライアキ
「ライカンさんの話を聞いたら、なんだか僕もだんだん気になってきたな」
「
……
申し訳ありません」
「いいんだ。むしろ、新しい視点を教えてくれて感謝してるよ」
神妙な面持ちのライカンとともに見下ろす先では、消波ブロックに寄せる水面がたっぽんたっぽんと揺れている。昼下がり、ルミナスクエアにある川べりの遊歩道で、アキラは手摺りに寄りかかってじっとその音に耳を澄ませていた。遊歩道と川面には高低差があり、水音もそこまで響いてはこない。
「恥ずかしながら私、つくづくとジョークの類が苦手でございまして
……
」
「僕はそのほうが安心するよ。大抵のことは完璧にこなすあなたでも、苦手なものはあるんだなあ」
川を見ていると飛びこみたくなる、とライカンが真顔で呟いたのは、ふたりで遊歩道をのんびり散歩する最中のことだった。あまりに生真面目な声で、川を眺めたままにそう言うものだから、アキラは慌てて彼のベストを掴んでしまったほどだ。何もせずに見ていたら、彼はこのままゆたかな尻尾を振り振り川へ降りて行くに違いない、と強く確信する表情だった。
まあ、彼なりの冗談だったらしいのだが。どうやらライカンは軽口よりも、飛行船の操縦のほうが得意なようだ。
「河原に降りてみないか? たしか、少し戻ったところに階段があっただろう」
「
……
いえ、アキラ様。お心遣いには感謝いたします。ですが、そのお気持ちだけで十分でございます」
「そうかい?」
「はい」
「僕が行ってみたいんだけど
……
ライカンさんは付きあってくれないのかな?」
手摺りに寄りかかったまま上を向く。ずっと高いところにあるライカンの口が薄くひらき、そして閉じるのが見えた。胸がゆっくり膨らんで戻るのは、たぶんアキラに悟られないよう静かに溜め息をついたのだろう。
溜め息の原因がアキラではないことも、きちんとわかっている。冗談が苦手な狼執事さんは、アキラがライカンに気を遣ってこんなことを言ったと思っていて、そうさせた自分のふがいなさを嘆いているのだった。
「
……
ぜひお供させていただきたく存じます、アキラ様」
「ありがとう、ライカンさん」
アキラがにっこりするとライカンはうやうやしく
胸に手を置いて一礼した。
ついさっき歩いてきた道を、川の流れを見下ろしながらのんびり引き返す。時間はたっぷりあるし、立場や職種が異なるライカンと話すのはためになって面白い。遊歩道どころかルミナスクエアを徒歩で一周したとしても、アキラはライカンとの会話に飽きたりしないだろう。
そういうことを実際口に出して伝えると、ライカンがほんのりと微笑んだ。
「でしたら、次回はこの遊歩道をジョギングしてみるのはいかがでしょう。ルミナスクエアを歩きつくすためには体力も必要になるでしょうから」
「
……
それは冗談かい?」
「いえ、単なる提案でございます」
まさかとんでもない、という顔でライカンは首を横に振っている。
「
……
ライカンさんは本当に真面目なんだなあ」
もしかして、冗談とは相手が腹を抱えて酸欠になるほど笑うものでなくてはならないとでも思っているのだろうか。そして、アキラはそこまでしなければ屈託のない様子を見せない男だと思われていたりするのだろうか。それは少し寂しい。一緒に外出するようになってそれなりの時間が経っている。
「僕はこのままのライカンさんと話ができてとても楽しいのだけど
……
ひょっとして、態度がよくなかったかな。気を遣わせてしまったかい?」
「決してそういうわけではございません。あなた様はいつも穏やかな表情で私の傍にいてくださる。それが私にとってどれほど大きななぐさめであることか」
「じゃあ、どうして?」
ライカンの尻尾がふわっと持ちあがって揺れた。毛並みがきらきらしているから、視界の隅であってもよく目立つ。
「
……
馬鹿馬鹿しい見栄の話です」
「ライカンさんにも見栄を張りたいときなんてあるのかい? そんな必要ないだろう?」
「そう思っていただけるのは大変光栄ですが、近頃とみに己の器の浅さ、小ささを感じているところでございます」
「あなたが? ありえないと思うけどなあ
……
」
人格も立派で能力が高い。仲間から信頼されているのは見ていればわかるし、もちろんアキラもライカンのことを信じている。ライカンが小器だと言うなら、アキラの器などペットボトルのキャップだ。
優秀な人だから、アキラとは違うステージで悩んででもいるのだろうか。思わず顎に手をやりながら歩いていたアキラを、ライカンが自然に河原への階段へ誘導してくれる。お手を、と請われたので、先に階段を降りている人へ顎から外した手を伸ばした。
川面が光を反射していて眩しい。
「慣れぬことを口にしてでもあなた様に笑っていただきたいのです。共に過ごす時間のすべて、私はあなたの笑顔を見ていたい。アキラ様」
ライカンに手を引かれながら、アキラは白く灼ける視界を懸命に瞬かせた。眼下のライカンが真っ黒な影になってしまって、表情が読めない。あたたかな手のひらの上で指先が緊張したのを、きっとこの素晴らしく有能な人は気づいただろう。
「
……
それは」
喉が強張ってうまく言葉が出てこない。どうにか唾を飲みこんで、アキラは手を引かれるまま階段をひとつ降りる。そのぶんだけ影が近くなる。
「それは、冗談
……
」
「いいえ。アキラ様」
また手を引かれて階段を降りる。影はアキラのすぐ眼前で、そっと笑ったようだった。
「私、冗談は苦手でございます」
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