我の夜は早い。まず午後2時に起床。VRCのおばちゃんと昼の挨拶を交わし、建物すぐ近くの土手に埋めたコゼンラたちを引っこ抜いて健康状態のチェック。陽だまりの中でコゼンラたちと共に二度寝するのも心地よいものだ。それから夕陽に向かって体操すると気持ちよく夜を迎えられるぞ。皆もやってみると良い。
日没から本格的に緑化活動を開始。土手から目的地までゆっくりと歩きつつ、道中の花壇に我の種やコゼンラを彩りよく置いていく。まだ芽が出ていない殺風景な花壇が多いこの時期は、コゼンラたちを多めに置くのがポイントだ。ふんわりとした我の香りに街が包まれていくこの時間が愛おしい。そうして散歩を楽しんでいると目的地の花屋に到着した。ここでいつもコゼンラたちの栄養剤をいただいているのだ。店先に並んだ花たちに「いい夜だな!」と挨拶する。少し前までガーベラや梅が多かったが、数日前からはスイートピーや桃の花が増えてきた。甘い香りが外にまで漂ってきて、コゼンラたちも嬉しそうにステップを踏んでいる。
「来たぞ、店主! ……ム? おお、そこにいるのは同胞ではないか!」
「うわ、ゼンラニウム!」
中にいた同胞に元気よく声をかける。小さきアルマジロを連れた同胞はぎょっとした顔でこちらを見たが、ばつが悪そうに視線を逸らしてしまった。その手には購入したばかりであろう花束が握られている。緑化活動とは感心感心。ずんずんと店内に入り、花束の中身を覗き込む。粉雪のようなかすみ草と、ピンクとオレンジの可愛らしいチューチップが全部で八本。柔らかく優しいブーケだ。
「ほう……良い花束だ。きっと相手も喜ぶことだろう」
「い、いや、これは……そう、テーブルに飾ろうと思っていたんだよ! 今日の夕食は特別豪華にしようと思ってね」
「ムゥ、そうなのか? てっきり同胞の愛しい人に贈るのだとばかり。そうだ、我の花も加えたらどうだろうか? 丁度ここに赤い花を咲かせたコゼンラがいるぞ。トマトジュースを与えたら綺麗な花を咲かせてくれたんだ。花言葉は……」
「お気持ちはありがたいが結構、さて私はこれでお暇するよ!」
頬を赤らめた同胞は我の脇をすり抜けると、スタコラサッサと走り去ってしまった。型に乗っていた小さき同胞が我の方に振り向き、「シーッ!」と指を立ててサインを送ってくる。どうやら言ってはいけないお約束らしい。
「ああ、武運を祈って居るぞ、同胞―!」
我の呼びかけに同胞はザァッと一瞬砂になったかと思うと、また復活して走り去っていった。その背中を見送り、ムンと微笑む。同朋の恋路が上手くいくように、密かに我も祈るとしよう。……そうだ。町中をもっと彩り豊かにすれば、同胞や人々の愛を育む助けになるのではないか?然すれば我は愛のキューピットか、面白い!
「店主!栄養剤、いつもより多めでお願いするぞ!」
不意にビュオォと音を立てて、風が強く吹き込んできた。暖かな風を受け、嬉しそうに股間の花が揺れる。シンヨコのキューピット、吸血鬼ゼンラニウム。今夜の緑化活動は、まだ始まったばかりだ。
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